第319話 15枚目:氷の大地にて

 とりあえず「第四候補」の時と同じく、ライブ動画を鍵スレッドに流しつつ質問を募る事にした。これ何気に自分視点しか出来ないから、自撮り出来ないらしいんだ。


「あぁ、「第五候補」。始める前に1つ」

「何かしら~?」

「忙しくなったらいつでも中断してもらっていいですからね」

「あら~。それはありがたいわね~」


 何の前置きかって、そりゃここしばらく、具体的にはイベントが始まってからこっち、再び「第五候補」の掲示板への書き込みが無くなっていたからだ。やり取りの必要性は理解しているのだから、それはつまり忙しかったという事になる。

 そしてこの返事なのだから、まぁ、うん、間違いなく「何か」はあるのだろう。……そしてそれは、アザラシ達の「何か恐ろしいもの」に関係している可能性もある。

 ここでアザラシ達を全滅させるわけにはいかないし、その強力な魅了は十分な武器の筈だ。現に以前、防衛しているという感じの書き込みをしていたしね。


「さてそれでは、今までの経緯は大体既に掲示板で共有されていますから、とりあえずそこからの変化やそこで話に出てこなかった部分を話して貰いましょうか」

「はぁ~い」


 ということで、説明が簡単そうな部分から聞いていく。

 一番簡単なのは私のテイムが外れていた事で、これは広域に影響を及ぼす魅了によって、支配権と言うか主の認識と言うか、それが上書きされたことで解除されたという事らしい。まぁ「第五候補」ならあり得るか。魅力極振りって言ってもいいスキル構成だろうし。

 そして確認した所、この海岸は海流によって色々な物が集まってくる場所なのだそうだ。そして下手な冷凍庫を下回る平均気温である為、朽ちたりすることなくそのまま積み上がっていった結果がこの船(残骸)の山という事らしい。他の問題にも関連する前提情報なのでちょっと覚えておいてほしい。


「でも、ほら~。船って言うのは~、基本的に、何かを乗せる為の物、でしょう~?」

「で?」

「だからねぇ~? 乗ってたのよ~。色々なものが~」


 まぁつまり、その中に『バッドエンド』の船があった、という事だ。……乗組員と危険物付きで。

 このタイミングでの『バッドエンド』及び危険物と言う事で、勘の鋭い人は察したかもしれない。そう。その船には、クレナイイトサンゴが乗せられていたのだ。それもご丁寧に、表面が宝箱風に装飾された特製の水槽に。

 完全に罠だ。罠以外の何物でもない。これがもしこちらの氷の大地ではなく、大陸に辿り着いていたら大惨事になっていたところだ。召喚者プレイヤーでも大概ヤバいが、北の人魚族の人達なんかが見つけていたら最悪だった。


「ところでその危険物は?」

「中身を倒す方法が無かったから~、厳重に上から封を重ねて~、奥の方にしまってあるわ~」


 これは掲示板も満場一致で、この話が終わり次第私が殲滅しに行くことになった。どうせここに流れ着いたもの以外にも確保はしているだろうが、それでも残しておく必要はない。

 で、その危険物の中身が分かっているという事は、順当に行けば箱を「すでに開けた」という事になる。という事は、クレナイイトサンゴに寄生されている筈だ。

 ……なのだが、ここにいるのは「第五候補」。魔王候補というだけで十分すぎるステータスがあるところ、そのほとんどを魅力に割り振っただろう、一点特化型の召喚者プレイヤーである。


「遠目からの様子見な視界に映っただけで、乗組員を1人残らず魅了で骨抜きにするとか、ぶっ飛んでますねぇ……」

「人が乗ってて良かったわ~」


 と、言う事だ。なお現在その人達は「第五候補」の生活環境を整えるのに一生懸命働き続けている。種族としては普通の人間だが、住民なので召喚者プレイヤーより動ける時間が長いのだ。

 で。その人達というか住民がな。……どうも、あの、ゲテモノピエロが見た目巨人を召喚しやがった儀式をした島に居た、海賊っぽい。ほら、迷路を壊して脱出する時に何か愉快な会話が聞こえたじゃん。お頭とジョニー及びゆかいな仲間たち。彼らっぽいんだ。顔は合わせてないけど。

 いやぁ、話を聞いてみたいとは思ったけど、こんなところでこんな形で会うなんてね。まぁ当分先になるだろうが。


「あと。……薄々、山になっている船の形を見た時に、予感はしていましたが」

「あら、そうなの~?」

「そのままですからね。大変お世話になりましたし。そもそも、あのサイズの船って言うのが他にないんですよ」

「そうなのね~」


 そして。この船(残骸)の山に、私は見覚えがあった。最初の大陸からイベントを経て船で移動してきた召喚者プレイヤーは皆見覚えがあるだろう。これほど大きな船は、渡鯨族の人達しか扱わないのだから。

 だから。その船が、こんな形で、これだけの量があるというのは……厄介事の予感を感じるには、十分で。



 はっきり言おう。

 こちらの大陸の渡鯨族は、現在。……この世には、1人も、いない。

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