第320話 15枚目:現状確認

 こちらの大陸の渡鯨族が、この世にはいない。ある意味全滅、と言っていいだろう。通りでいくら『本の虫』の人達が探しても見つからない筈だ。『本の虫』の人達の情報ページに載っている地図では、大陸の北側も結構マップが埋まって来たっていうのに。

 ただ……滅んだのか、と言われると、実はそうではない。本気で滅んでいたら次の大陸へ向かう手段が無くなるも同然だしね。あの大嵐が発生するまでは普通に交流もあったって言うんだから、そんな急に滅びる訳がない。

 じゃあどういう事なのかというと、うん。「この世には」いない。つまり、だな。


「来月か、もっと先か。いずれにせよイベントの布石ですね」

「今はどうしようもない、って事かしら~。残念だけど~」


 という事で、私がテイムする前までのエルルと似たような感じ、のようだ。次元の狭間的な、微妙に空間の軸がずれた場所に封じられている状態らしい。なんでそうなったかって? イベントで分かるんじゃないかな。

 なおそれが分かる場所は船(残骸)の山の奥深くにあるのだそうで、掲示板では「早急に【環境耐性】をレベリングする必要性の周知・勧告・要請をしなければ」という方向に話が流れて行っていた。まぁそうなるよな。このままだと、そもそもスタート地点に立つことも難しいんだから。

 さてこれで話は全部出て来た感じなのだが、実はあと1つ残っている事があった。


「…………既に頭が痛い訳ですが、詳細をお願いします」

「これに関しては~。私のせいじゃないわよ~?」

「分かっています。分かっていますが、とある害悪クランの問題と並行してやっつけなければならない以上頭は痛いんです」


 そう。厄介事だ。別件の。……恐らく、分類で行けばサブクエストに属するだろう、解決しなくても致命的な問題は無いが、解決できるならしておいた方がいいという、運営の用意した問題だ。

 もしくは、渡鯨族の人達の復活に合わせて攻略させるつもりだったのかも知れないが、まぁその辺りは運営のみぞ知る、だ。とりあえず、「第五候補」の話を聞いてみよう。



 遭難したものの何とか帰巣本能をフル活用してこの氷の大地へ戻って来たアザラシ、に、お持ち帰りされた「第五候補」がこの場所に来た時、既にアザラシ達の群れは大きいものが1つだけだったという。

 だが当然大きな塊であれば捕食者に狙われる確率も上がる。なので「第五候補」はまずアザラシの群れを魅了によって統率し、捕食者達にも魅了をかけて他所に向かわせることで群れを守っていたらしい。

 ところが、どうにもその捕食者の内、モンスターに分類される相手は定期的にやって来るらしい。疑問を覚える頃には遭難した海賊達が来ていたこともあり、周辺を少しずつだが調べていくと……妙なものが見つかった、というのだ。



「そうねぇ~。他の場所なら、ストーンサークルってところだったんでしょうけど~。見た目は完全に氷なのに~、触っても冷たくないし~、火を近づけても溶けないのよ~。焦げもしないんだけど~」

「で、その中心から、定期的にモンスターが出現する、と?」

「そうなのよ~。壊そうともしてみたんだけど~、手応え的に「壊せない」ものみたいなのよね~」


 と、言う事らしい。場所は、と確認すると、もう少し北に進んだ先の、分かり辛いが高さ3mほどの谷底にあるという。

 ストーンサークル(仮)の直径は約10m、1つ1つの構造物の大きさは、大きい物で3m四方、小さい物で30㎝四方ほどとの事だ。片方に寄りかかっていたり支え合っていたり、単独で立っていたり、積み重なっていたり、その並び方から法則性は読み取れなかったという。

 そして「第五候補」はまだ大神殿に辿り着けていないので、インベントリを始めとしたメニュー機能が使えない。なので【鑑定】を取得する事も出来ず、これ以上の事は調べられなかったらしい。


「まぁとりあえず、クレナイイトサンゴを片付けた後で私が向かうのは確定ですね」

「よろしくねぇ~」


 【鑑定☆】で何か情報が、たぶん、出てくる筈だ。「壊せない」とするならギミック系だろう。それには情報が必要なのだから、流石にヒントぐらいは出てこないとどうしようもない。

 さて、ここまでが「第五候補」が独自に抱え込んでいた情報と問題だ。それには順番に対処するとして、聞きたいことはまだもうちょっとある。……具体的には、あの「氷食らう何か」についてだ。


「あぁ~、あれねぇ~。……何なのかしらねぇ~?」

「出現位置とか、いつ現れたとか、割と何でもいいので情報が欲しいんですよね。現在、調査のとっかかりも無い状態なので」

「あらまぁ~」


 という訳で、「第五候補」の目撃証言を聞く。それによると、どうやらあの「何か」が現れたのはイベント開始から1週間が経過したタイミングだったようだ。あまりに異形だった為警戒はしたものの、アザラシ達にも船(残骸)の山にも一瞥すらくれず、あの調子で氷の大地を噛み砕き始めたらしい。

 正体不明な上に今のところ直接被害が無い、という事で「第五候補」は静観を選択。それでも観察は続けることにして、そこで分かったのは、あの「何か」が氷の大地を食い進めるスピードは、内部時間1時間で1mぐらいという事だった。

 しばらく見ていたが大きさの変化などは無し。食べ進める幅も、凡そ自分の身体の幅とその左右を合わせて大体12mぐらいのまま変化は無いようだ。


「海に近い、氷の薄い場所でそれぐらいだったから~、進むにつれて、スピードは落ちていくと思うわよ~?」


 とのこと。……どこに辿り着いたらアウトか分からない以上、リミットは不明のままだからあんまり安心できないんだけどな。

 さて、話としてはこれぐらいだろう。無事「第五候補」とフレンド登録も出来た事だし、まずはクレナイイトサンゴを倒しに行くか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る