第316話 15枚目:氷の大地へ

 そうはいっても仕事の早い『本の虫』の人達だ。私が【氷精霊魔法】のアビリティ練習、というか氷の精霊さんと話して出来る事を確認している間に、大まかな行動方針は決まったらしい。

 まず『本の虫』の人達だが、彼らは現在この大陸に散っている位置から動かない方向だ。避難誘導も防衛力の強化もまだまだ終わってないからね。カバーさんやパストダウンさんを含んで、これ以上付け込まれる隙を与えないという意味でも、動かないっていうか動かせない。

 同様に一般召喚者プレイヤー達も動かせない。だってこの大陸の北側に来ることすらまだ難しいし、人数が集まってもどうにもできない可能性がある。それにスタンピートもどきに対処するには人数が必要だ。これも妥当極まる。


「でー、俺ももちろん女神様はじめここにいる人達の防衛で動けないしなー。ある程度自動でも動かせるけどやっぱ指揮官は大事だしなー?」

「ついでに言えば、エルルもサーニャと同じくこっちに残る組ですね。あの氷割りは1人では無理がありますし」


 さて、お分かりだろうか。

 ……そうだよ。氷の大地に行けるのは、私1人だよ。仕方ないな? 他の場所では代替可能で、起こっている異常への対処をするとして何とかなりそうな戦力が、とりあえず今は私しかいないんだから。


「……不安だ……っ!!!」


 エルルは頭を抱えてしまったが、反論が出てこないので妥当なのは分かってくれたようだ。まぁねぇ。ぶっちゃけ私も何気に1人で動くのは初めてなのでちょっと不安である。……エルルの感じてる不安とは方向が違うだろうけど。


「流石に氷の大地を割ったり溶かしてしまったりしないように気を付けますよ? 逆に倍ほど分厚くしたり大きくしたりも同様です」

「気を付けるって事は確約じゃ無いんだよなぁ……っ!!!」


 確約なんてできる訳ないじゃないか。相手が何かすら分からないんだから。最悪は覚悟しておいてほしい。出来るだけそうならないように頑張りはするけど、相手によってはオーバーキルやむなし、っていうのは、ねぇ?

 ちなみに、氷の大地へは「第四候補」が送ってくれることになった。自分の手を離れても動かなくなるだけで、単純な命令を封じ込めるなら距離は伸ばせるらしい。そう、例えば「動けなくなるまで直進する」とかね。

 それを雪だるまに命じるとどうなるかというと、北の海に氷の橋がかかる訳だ。そこを歩いて行けって事らしい。……まぁ、帰り道も確保できてるって言うのは良い事なんだけど。


「しかしとりあえず、まずは状況を確認しないといけませんね。道案内はこちらの精霊さんがしてくれるようですし、対処を考える時間も考えると急がなければなりませんし」

「………………不安だ」

「ははは。出来る限りの努力はします」


 くるくる回るように浮いている雪の結晶は、たぶんこれ早く早くって急かしてるな。【精霊言語】が上がるにつれて何となく分かって来たぞ? えーと、とりあえずメインに風と水属性の魔法スキルを入れてと。

 一応【格闘】も入れておいてー、各言語スキルに【鑑定☆】と。あ、これでほとんど自由枠が埋まっちゃったな。まぁ後は適宜入れ替えるか。


「お嬢」

「はい、何でしょう」

「いいか。相手が分かったりヤバそうだったら、呼べ。いいな。とにかく呼べ。すぐ行くから。環境とかなんとか遠慮してるのかもしれないが、絶対に呼べ。いいな。呼べよ。なんなら俺じゃなくてアレクサーニャでもいいから」

「まぁ呼ぶならエルルですけど、分かりました」

「いいな? 呼べよ? 絶対に呼べよ?」

「えぇ分かりました。ちょっとでも余裕がなくなりそうなら呼びます」


 と、更にエルルからの念押しを貰ったところで出発だ。インベントリの中には色々便利グッズがあるし、連絡用の掲示板も確認済みだ。

 カバーさんからの優先順位は、まず相手の正体の確認が第一、次点で「第五候補」との合流、その合間に氷の大地の状況の確認となっている。そうだね。実際の対処に当たる前に情報を集めないとどうしようもないからね。

 で、情報を集めたら掲示板に書き込む。細かい事でも何かヒントになるかも知れないから、とりあえず手当たり次第に書き込むつもりだ。考えるのは『本の虫』の人達にお任せである。自分でも考えるけど、速度と精度が違うからね。


「さて。何気に1人旅はこれが初めてな訳ですが……まぁ、頑張りましょうか」


 ……絵面としては「はじめてのおつかい」って言っても違和感が無いのがまた、あれだけど。

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