第278話 13枚目:捜索準備

 後から聞いた事だが、あの神官用の白装束、麻布レベルの通気性の良さと綿レベルの保水力を兼ね備えた修行用の服だったらしい。それで氷から掬い上げた(=0℃未満の可能性がある)水をぶっかけたというのだ。殺意が無いのが逆にびっくりである。

 という事でさっさと着替えて貰う。あの青いワンピースは普段着なので、あれで結構な保温力があるらしい。見た目はあの白装束の方がしっかりしてるのに、ファンタジー素材は不思議だなぁ。

 さて私とエルル、ルチル、フライリーさんというミニマムズ&保護者にネレイちゃんとオープさんを加えて、大口叩いた手前それなりに成果を出したいところなのだが。


「とりあえずどこから向かいますかね。地上を何も目印無しにうろうろしているとあっという間に遭難するでしょうし」

「最低限の地理や伝承ぐらいは調べてから動いた方がいいと思うぞ?」


 という訳で、最初は神殿で調べ物だ。もちろんその大半は【魔物言語】か【共通言語】で書かれている為、誰にでも読むことが出来る。流石に古い伝承となれば【古代言語】や【神話言語】で書かれているものもあるのだそうだが、このメンバーなら問題は無いだろう。

 ルチルもフライリーさんもあの5月イベントで【神話言語】の取得自体はしているし、ネレイちゃんは当然、護衛のオープさんも接する機会が多いとかで読めるらしい。エルルは言うまでもない。

 まぁ「第一候補」の協力を得てカバーさんが既にざっくり調べていたから、そのお手伝いをする感じだけど。それにしても、結構本、というか、文章資料は残ってるもんだね。


「半地下というのは、気温や湿度があまり変わらず一定のままですからね。このような資料の保存には適していたという事でしょう。それに北の人魚族の方達は、意外なほど筆まめだったようです」


 その分外れも多いという事だが、資料として見るなら情報は多いに越したことは無い。ちなみにネレイちゃんもこの資料室には近寄った事が無いとの事で、探検気分でちょっと楽しそうだった。

 再建した(元)渡鯨族の港町から出発したのが2回目のログイン時間を合わせての事で、移動で大体2時間ぐらい、そこから観光で1時間ぐらいなので、まだまだログイン時間は残っている。

 なんなら、このログインだけでなく、8月の残った時間は全部資料探しに当ててしまってもいいだろう。何せイベントでその辺のヒントが見つけやすくなるのは、9月に入ってからなのだから。


「まぁそもそも、時間制限があるのは私とフライリーさんぐらいですけど」

「「第一候補」さんとカバーさんは除外っす?」

「他の『本の虫』の方々と交代しながらやるでしょうし、「第一候補」は資料探しをしていませんからね」


 そういう事だ。それにカバーさんはログイン/ログアウトを私に合わせてくれている。なので一応予定時間は伝えるが、今までの感じからして何もなくても合わせてくれるだろう。という事で、打ち合わせが必要なのは私とフライリーさんとなる。

 ひたすら資料を「陽光花」の明かりで読み解いていき、神に関する記述の内、地形や場所に関するものがあればメモを取る。筆まめ、というカバーさんの評価通り、漁の成果やどこどこの家を修理したとかいう情報も多い。その中から神あるいは神話に関する記述を探すのはなかなか大変だ。


「こういうのって、大事な部分は口伝のみとかってなってるもんじゃないのか?」

「その可能性は低いでしょうな。我らにとっては言葉より文字の方が確実ですから」

「なるほど」


 途中でエルルが首をかしげていたが、北の人魚族(オープさん)の感覚としてはそういう事らしい。なら文章を探せば、少なくとも北の人魚族に伝わっている分の情報は出てくるはずだ。

 ……問題があるとすれば、あの世界規模のスタンピートでどれくらいの文章が失われたかって事と、北の人魚族の、種族単位の引き籠りレベルがどれだけ高いか、って事だな。

 文章が失われているのは当然として……もし、地上で神々に何か起こっていても、引き籠っていて気づかなかったとか、普通にあり得そうだからさ……。

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