第279話 14枚目:イベント開始

 さてそんな訳で、8月いっぱいは資料探しで終わった。そして夏休みというボーナスタイムも終わりだ。ここからは1日1回ログインに戻る。フライリーさん(の中の人)も学生だったらしく、その辺都合を合わせるのは難しくなさそうで助かった。

 レースの方は大盛り上がりだったそうだ。なんでも大陸が見えてからのデッドヒートに、岸辺に柵のような形で氷が張っていて、それを一瞬の機転で乗り越えて逆転とかいう熱い展開があったらしい。

 ……まぁその後、氷のブロックで港町を再建する作業と、この大陸の寒さに、それはそれは盛大な悲鳴が上がってるみたいだけど。防寒具が足りないってさ。頑張って【環境耐性】を鍛えるんだ。


「まぁ人間種族は、デフォルトでは【環境耐性】を持っていないようですからねぇ。「白紙のスキル書」を使い切っていた前線組が阿鼻叫喚のようです」

「ひぇ、それはご愁傷様っす。まぁ魔物種族も最初は耐性弱化っすから、その辺はもう頑張ってほしいとしか言いようがないですけど」

「ですよね」


 という状況を掲示板情報で確認しながら私達が何処にいるかというと、当然この氷の大陸内地だ。カクカクの雪だるまな感じの大陸でいう、下の丸を、人魚族の街から南東に向かって進んでいる。徒歩で。

 エルルがいるのになんでわざわざ徒歩かというと、北の人魚族の文献を見る限り、どうにもこの大陸は結構高低差が激しかったらしい。しかし上空から見たら平坦にしか見えない。だから恐らく、分厚さ極まる雪に埋まってしまったのだろう、という予想だ。

 で、そうやって雪に埋まっている場合、上空からでは何のヒントも得られない可能性が高い。なのでえっちらおっちら、徒歩で移動している訳だ。


「まぁこの雪がインベントリに回収できるというのが分かったので、大分楽に進めてはいるんですけど」

「先輩がまるで除雪車っす」

「まぁこの雪をどこに持っていくかっていうのはまた別の問題だけどな」


 インベントリの容量に余裕があってよかったよね。現在北の人魚族の街から、幅3mぐらいのパウダースノーを回収して道を作りつつ進んでるって訳だ。

 しかしこれ、内陸に行けば行くほどパウダースノーの層が分厚くなってるんだけど。そろそろ左右の壁が崩れると埋まるんじゃないかな、これ。パウダースノーだけでも除雪しようと思うと、そこそこ強めの嵐ぐらいな風が必要になるんじゃないの?

 とはいえ、進捗が無い訳じゃない。具体的には、ようやくの接敵となった。


「しかし白さに特化してますね。この大陸の現状を考えれば妥当なのかもしれませんが」

「この毛皮で服を作ったら暖かそうですねー」

「……我らではそれなりに苦戦する相手を、ほぼ瞬殺とは、いやはや」


 白一色の中から奇襲、というのがこの大陸に生息するモンスターの基本パターンらしい。お前ら何処に居たの? という数が、主に私が雪をどけたタイミングで襲ってくる訳だ。

 内訳としては、肉食系と草食系で、モンスターと動物の4パターンとなっている。襲い掛かってくるのはモンスター2種に、その3割ぐらいの数な肉食動物で、そこに時々出合い頭に逃げる草食系動物(綿雪鳥とか)が混ざっている感じだ。

 いや、意外と生き物が居るもんだね。完全に真っ白いばかりの死の大地だと思ってたけど。さっき襲い掛かって来たのは大物で、真っ白に銀色の縞模様が入った大型の虎っぽいモンスターだった。毛皮が大変暖かそうだ。


「肉はご馳走ですからな。もちろん、内臓もほとんどは使えます」

「そうか。仕留めてすぐに凍らせられるなら、痛みは気にしなくていいのか」


 全員【解体】を持っているので、オープさんが解体する様子を見せて貰ってお勉強もしている。表現はそこそこマイルドになっているし、住民の皆は生活の一部だし、私は慣れた。……で、フライリーさんは、というと。


「実は元の世界で、家がお肉屋さんなんですよね。じいちゃんが猟師な関係で、ジビエも扱ってるっすよ」


 通りで5月イベントの防衛戦で悲鳴が出なかった筈だ。私よりよほどグロ耐性があったらしい。流石に今の大きさで解体に参加する事は出来ないが、現実ではある程度までなら解体も出来るという。

 しかし寒さに耐える関係なのか、大型な相手が多いな。今の虎でも、尻尾まで入れると5mオーバーなんじゃないの? まぁその尻尾もだいぶ分厚くて割としっかり肉がついてるんだけど。

 ただ、イベントの進捗としては微妙だろう。一応、通常扱いだったらしいモンスターや動物を【鑑定☆】する事でもポイントは入っているようだが、普通の生態系の情報ぐらいしか入ってこない。


「やっぱり、当たりをつけて雪を掘り返すしか無いようですね」

「まぁその為に今こうやって進んでるんだしな」


 フリアドはいつから採掘ゲーになったのだろうか。

 という冗談はともかく、向かう先……北の人魚族に保管されていた文献によれば、そこそこ大きな山があった筈の場所には、何かあるといいんだけどな。主に山の神様関係。空の神様でもオッケー。

 大陸が平坦になってるって事は、元の場所が高ければ雪自体は薄くなってる……と、いいな、っていう希望的観測も入ってるけど。

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