第257話 13枚目:対処中
それは立ち往生組からのヘルプがおおよそ解決し終わり、まだそれなりの行方不明者が見られるものの、全体避難へと移りかけたタイミングでやって来た。
その時私が居たのは、最初の全体避難として選ばれた、最も海から遠い避難所、街の中心より陸地側の、海神様を祀る教会だ。比較的街の外から来た、お客さんやソロ
教会としては小さめなそこには避難してきた人達が身を寄せ合っていて、不満と不安の色が濃い。一部「イベントなのに……」みたいな言葉が聞こえるのは、
――ドゴオオオォォン――!
そこへ響いたのは、地震かと思うほどの揺れを伴った、大きな音だった。衝突音か爆発音かも分からないその音と共に、ぐらぐらと地面が揺れる。連鎖する悲鳴に釣られてか、子供の泣き声が聞こえ始めた。
あぁもう、ここは街の外に一番近いからってだけではなく、精神的に一番爆発が近いから一番最初に避難する場所に選ばれたのに、今度は何だ!?
『「第三候補」さん、そちらは大丈夫ですか!?』
『カバーさん! えぇ、こちらはちょっと悲鳴と子供の泣き声で空気が悪いだけです。何が起こったんですか!?』
『確認中です、が、恐らくこの嵐の原因達による、喧嘩の余波かと!』
つまり、弾かれるなり勢い余ったなりした殴り合いの一部が、直接もしくは高波の形を取って、港町に叩きつけられた、という事らしい。
……今すぐ飛び出して直接ぶん殴りに行きたくなったのを、ぐっと我慢。今は避難が優先だ。殴るのは後でも出来る。
『分かりました。こちらは予定通り避難を進めます。お気をつけて』
『はい。「第三候補」さんもお気をつけて。今の余波でどこがどう壊れたか分かりませんので』
手早くウィスパーで情報を交換し、教会の中へと声をかける。私の周りに集まって貰って、念の為足元に注意しながらの集団移動だ。
【王権領域】は展開しっぱなしなので、私の周りなら暴風雨が収まることは見れば分かる。そういう「分かりやすさ」の為か、或いは今の揺れでこの教会もそう安全ではないかも知れないと思ったのか、思ったより素直に全員が移動を始めてくれた。
門まで辿り着けば、本来は外からの脅威に対する防壁が海からの嵐を遮る壁となっている。ここから先なら【王権領域】による軽減が無くても普通に移動できるから、私の役目はここまでだ。
「しかし、エルルが見つかりませんね……」
次の集団避難先へと向かいながら独り言を零す。いやまぁ、推測だが独断で動いている以上、エルルはエルルで何か働いてるんだろうけどさ。……いや、私が
まぁともかく避難誘導だ。それが終わってからは行方不明者の捜索。街の外まで吹っ飛ばされた行方不明者はぼちぼち見つかっているが、嵐の中で崩れた建物の下敷きになってたりしたら、自力ではどうしようもないからね。
移動途中も声や不自然な音には注意しているんだが、【王権領域】の効果範囲の外では相変わらず暴風雨が荒れ狂っている。もし助けを求めて声を上げていたとしても、最低でも効果範囲に入らなければ聞こえない。
「使い続ける事でレベルも上がるとはいえ、流石にこの短時間じゃ目に見えては変わらないか」
ぼそっと呟きつつ、『本の虫』の人達から貰ったルートを辿っていく。さて、そろそろ次の避難場所が見える筈だ。確か、治安維持担当なヒト達の詰め所だったかな? ちょっと大きい交番みたいなイメージの。
周りの建物がボロッボロになっている中、変わった様子のない石造りの建物が頼もしい。そして私が近づいたことで、嵐が収まったことに気付いたのだろう。窓から外を覗いている人が見えた。
その内の1人とぱちっと目が合った、気がする。一瞬驚いたような顔をしたその人は、次の瞬間にはざあっと顔色を悪くして、ばたばたと手を振り回し始めた。え、何? 私を指さして、違う? 私の方を向いて、いやこれはまさか
「――[マジックウォール]!」
その意味に気付くと同時、振り返りながら魔力の壁を展開した。同時に横へと踏み切り、その場から退避する。その間、5秒は無かっただろう。
ガッシャァアアアン! と景気よくガラスを割り砕くような音を立てて、咄嗟に張った防御はあっけなく砕け散った。とはいえ、私の後ろから飛んできた「何か」の勢いをそぐことには成功したようだ。ズシャアアア、と残骸になった建物を数軒分跳ね飛ばしながら、それでもギリギリ避難所の手前で動きが止まる。
で、まぁ、
『ってて、あんのヤロ、少しはこっちの話を聞けっつーのに……!』
「エルル?」
『うお!? な、お嬢!?』
「何ではこっちの台詞ですからね?」
その「何か」は、エルルだった訳なんだよね。竜姿の。ダメージらしいダメージは入っていないようだが、どうやら先行して戦闘……いや、今の台詞からして、説得だろうか。に、かかっていたようだ。
そしてやはりというか何と言うか、私が
「私は現在、街の被害状況及び【王権領域】での嵐の軽減が可能という事で、集団の避難誘導をしています」
『あぁなるほど、ん? てことはこれまさか』
「避難所ですよ。私が勢いを殺さなかったら大惨事です」
『うわ、すまん!』
なお、エルルが慌てて謝ったのは、窓から外を怯えた顔で見ている人たちだ。まぁ危うく避難所を大破させるところだったしなぁ。受け身を取りそこなった結果とは言え。
とはいえ、相手の事を考えるとここまで上手く回避し続けたって事だ。それも推定でリアル明け方から……現実時間でざっくり4時間か5時間、その4倍だから、ほぼ丸一日ぶっつづけで。
それでもまだ元気は元気って辺りが竜族のぶっ飛んでる所だよなぁ……。と思いつつ、窓から見える人達の怯えが緩んだのを確認して現状確認を続ける。
「で……今の言葉で大体分かりましたが、説得にかかっているんですか?」
『嵐が来た時点で原因には当たりがついたから、せめて港から引き離そうとちょっかいをかけてみてた。……ようやくうっとうしいぐらいに意識されたら、このざまだけど』
「その判断は妥当ですし良い仕事です。が、せめて『本の虫』の人達に伝言ぐらいは残して下さい。避難誘導しながら割と探してたんですよ」
『え、言ったぞ?』
「……ちなみに、何と?」
『廊下に出て最初に会った時に、原因にちょっかい出ししてくる、って』
「多分伝わってませんよ、それ」
『マジか』
たぶんエルル、半分戦闘状態で声をかけたんじゃないかな。そうするとほら、ステータス差で、めっちゃ早口になるんだよね。普通一般人間種族
それに、嵐が来た時点で、って言う事は、突然の暴風雨で混乱してる時だったって事だ。それに加えて風の音も雨の音もすごかっただろうし、タイミングと言い方がちょっと、うん。
「ひとまずエルルの動きは私から伝えておきますので、出来れば引き続きちょっかい出しをお願いしていいですか? せめて集団避難が終わるまでは、港への上陸は避けたいので」
『了解。普通ならあり得ないだろうけど、あの寄生虫モンスターの干渉があるからな。可能性としちゃゼロじゃないか』
という事で、再び嵐の中に突っ込んでいったエルルを見送って、即座にカバーさんにメールを送った。同時に避難所に近づき、中の人達に声をかける。
……あの、推定全長50m級の巨体が、港に上陸か。自分で言っておいてなんだが、否定できない上に実際そうなったら街が更地になっちゃうな。下手すれば地盤とかにダメージが入って、街の再建すらできなくなるかもしれない。
うん。それは避けたいな、真剣に。エルル、頑張れ!
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