第247話 13枚目:足止め開始

 今度はちゃんと【風古代魔法】で風よけをしているので、島から脱出する時ほどの風は感じなかった。まぁここから先、相手が動かないとしても忙しいからね、風まで気を配ってられない。

 しかし近づいて詳細が見えるようになるとさらにえぐいというか何と言うか、うん。触りたくないなぁ~って感じだ。たぶんこれ、ダメな人は視界の端をかすめるだけでぞわわってなるぞ。私が割と虫とか平気で良かったな。

 まぁ見かけ以上に中身はヤバいんだけど。さて、足止めすると大口叩いた手前やれるだけはやらなきゃだが、何から手を付けるかな。


「とりあえず、アレと大嵐の間に大きな氷の塊でも作りましょうか。壁的な感じで」

『雑だな。いや今回の場合、狙ってるってはっきりさせたらダメなんだから雑でいいのか』


 遠目には皮膚のない巨人に見えるそれは、ゆっくりと足を踏み出そうとし始めた所だった。動き的にはゆっくりだが身長が身長だ。歩幅が大きいから思った以上に移動しているし、何より水中に潜られたら見失う。

 という事で再度【王権領域】を最大展開した上で、【結晶生成】を使う。ボタンや刺繍に青い宝石が飾られ、帽子の上に乗せるようにティアラが現れ、風になびく髪に絡みつくように宝石のチェーンが伸びていく。

 【魔力実体化(○○)】も使ってバフを2重にかけて、2種類の【歌唱魔法】を意識しつつ詠唱したのは、奇しくも以前この海で、そして初めて人前で使った魔法だった。


「[凍てつき縫い留めろ]――」


 全身を飾った青い宝石が砕ける事と引き換えに、今の私が出せる限りの火力の魔法が発動する。今回【吸引領域】は展開していないのに、出来上がった極冷の槍は以前の2倍に迫ろうかという大きさだ。

 今回は真っすぐ落とすのではなく、指先まで神経を尖らせて、海面とほぼ平行に持ち上げる。その上で更に半回転させて、穂先を後ろへ、石突きを前へ。ちょうど、真っすぐエルルが背負うような向きに変えて、そこで維持だ。

 手ごたえとしては指3本でボールの乗った平皿を支えているような感覚だ。万が一にも落さないように、あるいは揺れないように気合を入れ直し、右手を掲げて氷の槍を維持したまま、左手でエルルの鎧を掴み直した。


『了解』


 それだけで意図を察してくれたエルルは、ぐっと一度空中で身をたわめて、急降下に入った。海面スレスレまで一気に降りて、そこから、風圧で左右に飛沫のカーテンを作りつつ並行飛行に移る。

 そしてその進路は、あの見た目巨人の進路を遮る形だ。出来るだけ直接のかかわりを持たない方が良い、なら、出来るだけ正確な姿を見られることも避けた方が良いだろう。その辺を加味しての無茶ぶりだった訳だが、流石エルル。パーフェクトだ。


「――[アブソリュート・ゼロ・アイスピラー]!」


 飛沫のカーテンで姿を隠し、その速度で視界に映る時間を最小にする。その上でその正面を通り過ぎざま、私は保持していた極冷の槍を、海面とほぼ平行な向きに撃ち込んだ。

 十分に距離を離したところでエルルが急上昇に転じる。風圧はあれだが私がオーダーしたことだ、仕方ない。【風古代魔法】で軽減してるし!

 相対速度的に、あの見た目巨人の正面に極冷の槍を置いてきた形になる筈だ。そしてあの槍は、その冷気を対象に叩き込んで凍らせるという魔法となる。そしてそれを、海面に対してほぼ平行に、寝かせるように発動した、という事は。



 ――ゴバギンッッ!!!



 そんな音と共に、一瞬にして、あの儀式場となった島の半分ぐらいの大きさがある氷が、見た目巨人の目の前に出現した。そもそも感知していないのか、それとも気にしていないのか、見た目巨人は足を踏み出そうとして、その氷の島に、すねに当たる部分をぶつけた。

 さてさっきも説明したが、あの魔法は「凍らせる」という事が主眼の魔法だ。そんな魔法で出来た氷が、普通の氷の訳もない。ましてや出現したてで、しかもここは北の海。となれば当然、その温度は通常の氷を、はるかに「下回る」訳で。


『うっわ、えぐいな』

「ちゃんと見れば避ける事も出来たのに。それでなくても立ち止まれば、氷は動かないから直撃は避けられたはずなんですけどねぇ」

『そしてちゃんと責任回避をしていくのな、お嬢』

「ダメ押しですとも。いくら警戒しても足りませんよ」


 触れれば、張り付く。そして見た目巨人は、船を骨に、巨大化したクレナイイトサンゴを肉にした人型なので、張り付けば当然、本体から引っぺがされる。

 いやー巨大化クレナイイトサンゴを筋肉と見立てるとめっちゃくちゃ痛そうだね。文字通り裂けて剥がれてるから。こうなるからやっちゃダメですよーっていう見本写真に出来そう。

 そしてあくまでも間接要因であることを強調する為に虚空に供述をしておく。リスクが避けられないなら可能な限り下げていくべきだ。


「まぁとりあえず、この調子であの氷をどこまで大きくできるかチャレンジしたいと思います」

『あぁそういう建前で……って、もしかして姿を隠すのも?』

「ははは、歩くのを邪魔するつもりはありませんよ? 私が遊んでいるところにあちらが突っ込んでくるとなったら私の責任じゃありませんし」

『やっぱり』


 建前って大事だよね! こういう因果とかそういうのが噛んでくるややこしい時は特に!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る