第246話 13枚目:儀式結果
「それ」が、全く良くないモノである事は、見れば分かった。
まぁそもそも前情報が悪すぎる。召喚の目的は「海の平和を滅ぼす為」。使ったのはネレイちゃんに変わり「多くの生贄」。そしてその儀式を強行したのは悪名高き邪神一派である“破滅の神々”をあがめる奴だ。
そうこうしている内に港の上空に着いたらしく、エルルが降下していった。そうだ、『本の虫』の人達を始めとした一般
『「第三候補」!』
「ただいま戻りました、状況は分かりますか、「第一候補」!」
『まだ付近に居た大型クラーケンに直接神託が来た。内容もなかなか酷いが、神託が下りるという時点で尋常ではない』
「“破滅の神々”を崇める召喚者って時点で厄ネタですが、こちらのネレイちゃんを生贄にするところを自分及び周囲を包囲していた船団に変えて儀式を強行したので、普通な訳がありませんね」
『よりによって“破滅の神々”と召喚者の組み合わせか……!!』
ネレイちゃんとオープさんをエルルの背中から降ろしていると、カーリャさんに抱えられた「第一候補」が声をかけて来た。なので簡単に分かっていることを説明する。
それを聞いて、多分【人化】出来ていたら少なくとも額を押さえるぐらいはしていた感じの声を出す「第一候補」。そうだね。殺されても死なないってなれば自分を生贄に捧げ放題だし、自爆テロもし放題だ。厄介極まる。
とりあえず軽く周囲を見回してみると、「第一候補」の側にはパストダウンさんが居て、『本の虫』の人達もそれなりの人数がいる様だ。ばたばたと戦闘準備を整えている一般
『今まで散々引っ掻き回されてきた故な。何かあっても対応できるよう、半数は残って貰っておったのだ』
「なるほど。まぁ予想外とは言え強制的に生贄にされてしまいましたからね。普通の死に戻りとは色々違うでしょうし」
「現在確認中ですが、今の所まだ戻ったという報告は来ていませんので、最悪、召喚された「何か」を倒さないと復帰できない、という可能性まであります」
ネレイちゃんとオープさんはそのまま『本の虫』の人達に保護されるようで、そこでようやく私も【王権領域】をOFFにした。エルルは、ドラゴン姿のままで光の柱を警戒しているようだ。
で、「第一候補」から特大クラーケン(異世界イカ)に来たという神託の内容を聞くと、そちらはそちらでシンプルに「現れるものを接触させてはならない」だった。……あの光の柱で召喚される奴を、あの大嵐の中で殴り合ってる2種族の長に、という意味だな? たぶん。
しかし、接触させてはならない、ねぇ?
「そもそものメイン厄介事がクレナイイトサンゴという事で、大変嫌な予感しかしない訳ですが」
『おおよそ予想通りであろう。そろそろ姿が見えるぞ』
そう言われて再度エルルの背中の上に移動する。こうしておけばすぐ動けるからね。流石にこの状態からお留守番させられるのは避けたい。つまらないから。
さてそうこうしている内に、光の柱はしぼむように、あるいは注がれた液体が尽きるように細くなり、消えてなくなった。召喚が終わったのだろう。かなり遠いが、出てきた奴もそれなりに巨大らしくギリギリ見える。
恐らくエルルも見えたのだろう。グルル、と低い唸り声が聞こえた。あぁうん、完全に警戒と、それ以上の嫌悪だね。とてもよく分かる。
禍々しい光の柱が消えた後に残っていたのは、遠目から見えるシルエットだけなら巨人だ。手足の数が多いという事もない、ただ大きいだけの人型。島との対比で……そうだな。身長約20mってとこだろうか? ディックさんの船より高さだけなら高い。
が。何がダメかって、まずその姿を構成するモノだ。シルエットなら人型をしているそれは、ある意味皮膚のない人間にも似ているのかもしれない。筋肉に相当する場所にある、骨に纏いつく肉のような挙動をしているそれは……恐らく、クレナイイトサンゴを巨大化させたものだ。
それが蠢きながら人型を維持してるって時点で大分アレなのに、その奥に見えるのが、木製の何かだった。その異形の身長は約20m。その骨に当たる部分を担当しているそれも、大分大きい筈で……そう。つまり。
「生贄に捧げられた船を骨に、巨大化されたクレナイイトサンゴを肉にした、皮膚のない巨人ですか。一言で言って気色悪いですね」
『全くだな。権能だけならまだしもこうだから邪神って言われるんだ』
『待て、クレナイイトサンゴが巨大化だと!?』
「見た感じの印象ですが。何か情報があるなら早めにお願いします「第一候補」、たぶん動き出すまでそう時間はありませんよ」
とりあえずどこから吹っ飛ばそう、接触させたらダメって事は移動阻害も含めてやっぱり足からか、と算段しながら「第一候補」の険しい声に返す。数秒、考えるような間を空けて返って来たのは、想定外の返事だった。
『まずいぞ、「第三候補」』
「何がでしょう」
『攻撃がだ』
「……は?」
あの「明確にヤバい」相手に、攻撃するなって言ったか、今?
『恐らく行われた儀式は“破滅の神々”の持つ権能を、何者かあるいは道具に付与するものだ。神器を作成する為に通常の神々でも行える一般的な儀式であるが、今回権能が付与されたのは、状況から考えるにクレナイイトサンゴだ』
ぴ、と耳が後ろを向いたから、エルルも「第一候補」が続ける言葉を注意深く聞いているようだ。私? もちろん後ろを振り返ってるよ。
『この儀式において、決して使ってはならぬものという物は決まっている。すなわち、対象となる神の権能及び属性と、あまりに相反するものだ。どんなに良くとも対消滅を起こして周囲一帯が更地になる被害が出る、いわば禁忌である』
ぬいぐるみだから表情は変わらないんだが、その声と言葉は何処までも真剣で深刻だ。つまり、「第一候補」からしても現状は、最悪の更に斜め下という事になるだろう。
『“破滅の神々”一派に属するどの神かの特定は出来ていないが、問題はそこではない。良いか。このような儀式における「属性」において、モンスターとは、「何れの神とも相反する存在」として扱われるのだ』
「……、はぁ!? つまり最悪、いえ、
つまり、あのゲテモノピエロ。禁忌をあっさり正面から破ったって事か!? その儀式で召喚されたのがあの見かけ巨人!? どんだけ厄いんだよ!!
『そういう事だ。そして状況は、そんな単なる破壊よりよほど悪い。その理由や理屈はどうあれ、「相反する存在」への権能の付与は「成功している」。……いや、成功「してしまった」というべきか』
この時点で察した。「第一候補」は、攻撃してはいけないと言った。
攻撃「は」してはいけない、ではない。
……攻撃「も」だ。
「……どう、なるんですか。攻撃、いえ……「干渉」したら」
『分からぬ』
実にシンプルな回答が、即座に返ってくる。
分からない、ね。こういう事態でこういう相手の時は、最悪に厄介な答えだ。
『ただ、直接アレを対象にして動く行為は非常に危険度が高い。何故ならどのような形であれ、「繋がり」が出来るという事であるからな。最悪、そこから“破滅の神々”の力もしくは意識が侵食してくる可能性がある』
「ほんっとに邪神と呼ばれるだけあって碌なもんじゃないですね。では、周囲の海や空気を対象とした場合は?」
『……まだ危険ではあるが、それでも直接の行動より危険度は下がる。向かうつもりか、「第三候補」』
「いずれにせよ、足止めは必要でしょう? 儀式場を壊すにせよ、何か対策を講じるにせよ、純粋に戦力を集めるにせよ。距離と大きさから考えて、圧倒的に時間が足りません。稼ぎます」
『お嬢』
「エルルは魔法苦手なんでしょう? あの巨人に因果的に触れず、間接手段だけで足止め、出来ます?」
口を挟んできたエルルにそう問い返すと、ルル、と小さな唸り声が返ってくる。つまり、出来なくはないけど厳しいって事だな。
『……そうか。我はこれからあの島に向かい、儀式の詳細を確認、解析。送還の儀を執り行うつもりだ。下手に撃破すればどんな被害が出るか分からぬ。権能さえ除ければ、ただのクレナイイトサンゴの塊である故な』
「よろしくお願いします」
『行動中は出来るだけあの領域を展開しておくと良い。どのような状況かは分からぬが、神から授かった力であろう? 他の神からの干渉が難しくなるはずだ』
「分かりました。お気をつけて」
『そちらもな』
ただのクレナイイトサンゴの塊っていうのも何だかなぁな訳だが、権能付きと比べればまぁそうもなるか。いくら数が多くても、虫下しで撃退できるんだし。
それに確認、解析となれば『本の虫』の人達も出張るだろう。儀式に何がどれだけ巻き込まれたかは分からないが、恐らくあの島から取れるだけの情報は取ってきてしまう筈だ。
その動きの為にパストダウンさんと去っていった「第一候補」を見送り、私はエルルの鎧を掴み直した。
「さて、それじゃあいきましょうか」
『了解、お嬢。……接触が既に最悪の攻撃か。厄介だな』
「全くです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます