第233話 13枚目:大局痛撃

 あの漂流物として流れてきていた皮を参考に、主に武器について更新を行っていた召喚者プレイヤー達。つまり回数限定で切れ味を上げたり、貫通力を強化したりだ。その甲斐あってか、割と順調に取り巻きの数を減らすことが出来ているようだ。

 どうやら捕食者と被捕食者の間には特攻及び特防があるらしく、クラーケン(異世界イカ)には渡鯨族の人達が、デビルフィッシュ(異世界タコ)にはマーレイ達が参加する事で、さらに効率が上がっているらしい。

 港の方でもキャパオーバーを起こした様子は無く、強いて言うなら正気に戻ったデビルフィッシュ(異世界タコ)と落ち着いて状況を見れるようになったクラーケン(異世界イカ)の間に妙な空気があるような気がするぐらいだろうか。


「クラーケンの方は、群れに戻ってトップの説得とか協力の依頼とかして貰わなくていいんですかね?」

「あの状況で話を聞いてもらえるならな」

「なるほど」


 司令塔からはちょくちょく応援要請の伝達や移動の指示が聞こえているので、戦闘のさなかに居るなら相当に忙しそうだ。まぁこっちは観戦タイムなんだけど。いやぁ、迫力があって実にいいね!

 身体(アバター)の性能が良いから隅々までよく見える事だ。ノリは完全に映画鑑賞である。流石に護衛という建前上おやつは無いけど。ポップコーンがあれば完璧なのに。

 しかしこうやって俯瞰で見ると、やっぱり召喚者プレイヤー側の戦力が不足している感は否めないな。そりゃ楽勝だったらつまらないという意見があるのも確かなんだけどさ。


「目立つ大型クランのトッププレイヤー達の連携や司令塔の機転で何とか、という感じでしょうか。被弾からの修理が必要な船は増えているようですし……」


 まぁ、召喚者プレイヤーの認識は何処まで行っても「お祭り」だろうしなぁ……。いや、一部には私達と同じように、退けない「戦い」だと認識している人たちもいるだろうけど。少数派であるのは間違いないだろう。

 まぁその戦力差や認識のあれこれは『本の虫』の人達も、司令塔として協力してくれている人たちも分かっている事だろう。たぶん。だからまぁそれはそちらが何とかしてくれていると信じてだ。


「エルル、お仕事みたいですよ?」

「みたいだな」


 大嵐が一部とはいえ消えていることに気が付いたからか、それとも仲間の姿が消えていることに気付いたからか、船守ふなもりさんによる釣り出し以外にもこちらへやってくる取り巻きが出始めてきていた。

 なので最低限の応援戦力と司令塔の防衛戦力を残して、船団はフル回転状態だ。たぶんもうしばらくすれば船守ふなもりさんへの釣り出し行動の一旦停止が要請されるだろう。

 で、フル回転状態って事は手一杯って事だ。なので、少し離れた場所でじっとしているこちらに来る、取りこぼしの個体が居るのはまぁ仕方ない。楽しい観賞会が中断されるが、役目は護衛なのでお仕事だ。


「で、なんでお嬢はノリノリで前に出ようとしてるんだ?」

「え、だってお仕事ですし」

「それ以前に俺の仕事! お嬢が戦うのは訓練とか除いて基本無いから!」


 やだー! 見るのも楽しいけど私も参加するー! せっかく獲物が向こうから来てくれたのにー!




 まぁエルルが居る以上この船が危険に晒されることはまず無い。世界三大最強種族のガチ戦闘職な上にある程度護衛のノウハウも知ってるんだ、仕事が早いのなんの。

 これは後で谷底のダンジョンで暴れるしかないか……と思いつつ全体の動きを見る。まだ何とか対応は間に合っている様だ。大嵐に囲まれた場所を見る。大怪獣、もとい神の加護を受けた海洋種族のトップ達は相変わらず殴り合いをしていて、少なくとも見た目にはこちらに気付いた様子は無い。

 うーん、分かってたことだけど暇だな。姿は見れてもそれぞれの声までは聞こえないし。私も参加したい。いやまぁ特級戦力無しでクリアできるんなら確かにそりゃそっちの方が良いんだけどさ。


「せめて武器があれば素振りも出来るんですが……」


 と呟いたとたんにエルルからの視線が刺さる。やらないから。【捕集】を使えば今の状態でも鱗は取れるだろうけど、やらないから!

 しかしギリギリとはいえ、この調子ならかなりの数の取り巻きをこちら側に引き込めるだろう。カバーさん経由で聞いた話だと、あの大嵐はその原因となっている大怪獣達の一族なら通り抜けられるようだから、少なくともクラーケン(異世界イカ)の方への話はスムーズに通る筈だ。

 という事はその後の、隣の大陸へ渡る航海関係のあれこれもそのパイプでうまく調整する事が出来るだろう。主に召喚者プレイヤーがやらかしそうな事を伝えて対策するって意味で。


「……?」


 そんな捕らぬ狸の皮算用をしながらのんびりと海戦模様を眺めていると、ふとその中に違和感があるような気がした。

 しばらく目を凝らして見つけたのは、召喚者プレイヤーが使っているもの内、小型に属する船だった。乗員は上限が11名、今回は1パーティ+操舵手の7名で運用される事が多く、船団の中でも殊に数が多かった筈だ。

 違和感として引っ掛かった理由は、その船が船団と言う群れの一部ではなく単独で、それも最大速度に近い波を蹴立てるような速さで、全体の流れとは全く関係ない場所を走っていた事だ。


「何故外側ではなく、中央へ――」


 何か緊急事態でも起きて、その連絡だろうか。いやでもそれならその船団のトップに連絡を入れて、メールなりウィスパーなりで伝える方が早いだろう。それとも何か重要なアイテムでも見つかって、それを運んでいるとか? ならもうちょっと慎重に運転しないだろうか。

 そんな事を思いつつその船を視線で追いかける。その船は全く減速する気配を見せず、むしろ更に加速をかけるようにして、中央、司令塔となっている船と、その護衛をしている船団に近づいていき。


「――は?」


 ズドォォン、と。

 高く高く火柱を上げるようにして、派手に爆発した。

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