第234話 13枚目:混乱連鎖

「な……っ!?」


 何故、どうして、いつから、という考えを、捻じ伏せて押さえ込む。違う。今考えるべきは、やるべきは、そうじゃない。

 火柱に吸い込まれる視線を引き剥がし、もう一度全体を俯瞰する。他の違和感は、今みたいな動きの不協和音はどこだ。もし今の爆発が「妨害行為」なら、今の一発で終わる訳が無い!


「[炎よ熱よ

 集い渦巻き

 貫き焼き尽くせ]――」


 同時に右手を掲げて詠唱。【火古代魔法】は海という環境かつ海洋生物相手ということで大きく減衰がかかる。だから手加減に丁度いいと入れっぱなしにしていて、射程が足りるかどうかが実はちょっと不安だったりした。

 ほぼ同時に見つける。煙の尾を長く引きながら港に向かう、絶対故障なんかしている訳ないという速度でかっ飛ばす小型艇だ。司令塔の次は補給の要か、効果的だな、させないけど!


「――[ファイアランス]!」


 ごうっ、と空気を燃やして炎の槍が頭上に現れる。思い切り右腕を後ろにそらし、その疾走する小型艇を半ば睨むように、しっかりと視線を向けて、


「と、ど、けぇ――――っっ!!」


 物理的な槍を投げるように、右手を振り下ろした。ガヒュンッ、とそこそこ大きい炎の槍はすっ飛んでいき、あっという間に針ほどになり、赤い光の点になり、問題の小型艇と重なって、


――ドゴォォォン――!!


 先程の、少なくとも倍以上に大きな爆発を、引き起こした。

 うわ、司令塔への攻撃で注目を集めた上であの爆発の威力、完全に港が本命だったなあれ。下手しなくても直撃してたら壊滅どころじゃすまないんじゃないの。というか、港町にもどれだけ被害が出た事か。

 辛うじて防げたところで本来出ていただろう被害を想像し、今更ながら血の気が引いた。うっわ、気が付けて良かった、本当に良かった!!


『パストダウン、どうなっている?』

「えぇ、司令部自体は無事です。周囲の護衛を行う船団には被害が出ましたが、それも大破は2隻で収まりました。中破の船は周囲を警戒しつつ修理に向かうとの事です」

『そうか。であれば、周囲の混乱もすぐ収まるか……?』

「そうですね。あの爆発の規模から推察すると、直撃していた場合は最低でも港の機能は確実に破壊し尽くされていたでしょう。「第三候補」さん、ありがとうございます」

「いえ。気が付けて本当に良かった。観戦専門も悪い物ではありませんね」


 ちなみにカバーさんは現在甲板には居ない。何故ならこのディックさんの船は、虫下しの生産や「対巨獣槍」の交換を行う予備拠点でもあるからだ。そちらへの警戒を促しに行ったのだろう。何せ、此処も大概重要拠点だからな。

 だが、改めて全体を見ると、混乱が収まる様子が見えない。いや、指揮通り動こうとする動きはあるのだが、何故か末端に近い位置から混乱に取って代わられているようだ。

 何が起こっている? と、今まさに動きが滅茶苦茶になっている船団の1つに視線を向ける。気分は望遠鏡でズームする感じだ。実際視界もそんな感じだし。


「……召喚者プレイヤー同士で戦闘?」


 そこで見えたのは、武器をお互いに向け、打ち合い、魔法も込みで乱戦になっている様子だった。これでは指揮に従うも何もない。しかし、どうしてプレイヤー同士で戦闘になってるんだ? それも、同じ船の中で。

 基本的に同じ船に乗っているのは同じクランの所属者であったり、野良でも事前に組んでいたパーティであったりだ。多少の喧嘩ならともかく、捕獲がメインとは言えレイドボスを放置してここまで本格的な戦闘をする理由は無い。

 ……考える。司令塔への爆破攻撃、港への爆破攻撃未遂。それとタイミングがほぼ同じなのは、まぁ偶然ではないだろう。当然何者かの意図がそこにはあるのだから、それならば、混乱とは畳みかけるものだ。


「……どっちだ、いや、それとも「まだ」……?」


 そして意図があるのなら、これらは何かを目的とした計画的な動きという事になる。だから真っ先に考え着いたのは、あの重要拠点に対する爆破攻撃とこの乱戦による集団の機能不全、どちらが本命なのか、という事だった。

 しかしそこで頭をよぎったのは、渡鯨族から航路情報が盗まれた一件だ。あれは小事件の連発で感覚を麻痺させて初動を遅らせ、そこで大事件を起こしていた。そして実際は、その陰で重要な情報を盗み出していたのだ。

 ここからでは乱戦になっている様子は見えても、その声や理由になりそうな物までは分からない。だから頭を回すしかない。想像しろ。推測しろ。ここまでやって、なお目的が別にあるとしたら、何だ?


「緊急事態です!」


 いくら考えても思いつかない「目的」に、混乱している全体の様子を観察しながら眉間にしわを寄せていると、乱暴に甲板へと続く扉が開く音がした。ば、と反射的に振り返ると、ばたばたと慌てた様子で色々な生産道具を抱えた人達が上がってくる。

 何事? とただならぬ様子の声の主……カバーさんに目を向けて、驚いた。

 短剣と片手杖をそれぞれ両手で構え、装備が所々破れたりしている……つまり、耐久度が半分を下回り、中破扱いになっているという事だ。それが示すものは。


「襲撃ですか!?」

「えぇ、襲撃です、少なくとも中級クラン以上、50人以上の召喚者プレイヤーによるものです!」

「退避状況は!?」

「人的被害は軽微、設備及び素材的被害も軽微で済みました。他にも報告事項がありますが早急に防衛準備をお願いします!」


 目的はともかく、次の狙いはこの船だったようだ。

 ……しかし、この船もかなり警戒は厳しい筈だったんだけど、よくそんな大人数が入りこめたな?

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