第217話 13枚目:八脚の言い分
イベント期間は丸1ヶ月となっている。つまり8月いっぱいだ。その後の新大陸への到着レースまで含めているから、いつもの2週間では足りないという判断なのだろう。
『本の虫』の人達の調査船に乗せて貰って外洋でクラーケン(異世界イカ)を釣り、ルウ達にデビルフィッシュ(異世界タコ)を狩ってきて貰って貢献値を稼いでいく。
そうそう、レベルキャップの開放もあって結構な人数が魔物種族に転向したようだが、この数日で既に音を上げ始めているようだ。ははは。この強さがローリスクで手に入る訳無いだろ。
「アァオォオァア」
「ん? ルウ、どうしました?」
第一陣の魔物種族プレイヤー達の支援及び所属クランのバックアップがあるんだから、十分恵まれている筈なんだけどなぁ。とか考えながらクラーケン(異世界イカ)を釣り上げてインベントリに放り込んでいると、ざば、とルウが海面から顔を出してきた。
デビルフィッシュ(異世界タコ)を狩ってきても、無言で船に放り込んでいくだけだ。私はそれを回収してインベントリに放り込むだけである。なので、声をかけて来た、という事は何かあったという事なんだろう。
と思いつつ、船に速度を合わせて泳いでいる特大マーレイ(異世界ウツボ)の姿を覗き込むと。
「……ルウ、それは狩って来たんじゃないんですね?」
「アォアァオ」
「キューン」
何故かそこに、ルウと並泳するかなり大きなデビルフィッシュ(異世界タコ)が居た。並泳しているし高い笛みたいな声で鳴いているし、たぶん知性がある系の奴だろうか。
というか、ルウと並んで見劣りしないって時点で相当にでかいんだよなぁ……って、あれ、よく見たら足の数が足りなくないか。
「アァォ……」
「キューン、キューン」
「……。エルルー。【魔物言語】でも喋れない相手との意思疎通ってどうしたらいいんですかー?」
「【絆】使えばいいんじゃないか?」
足があった筈の場所の断面が大変ボロボロである事と、言葉にするのであれば、じゅるり、という感じのルウの感情、およびそれを察知したらしく一層さかんに鳴き始めた特大デビルフィッシュ(異世界タコ)に、あ。これ道中で食われたなと判断。
その上でなお何か話があるらしいのでエルルにヘルプを求めたのだが、返って来たのはそんな返事だった。えー。いやまぁ、ルウ達マーレイ(異世界ウツボ)もそうだと言えばそうなんだけどさ。
まぁ分類は魚というか海洋生物なので、枠はまだある(というかレベルが上がって増えた)からテイムでも問題は無いか、と、テイムを試みると、あっさりと通った。ルウが与えたダメージでも問題無いのは仕様である。
「で、何のお話です?」
そこで改めて【釣り】をいったん休憩として、キュゥキュゥと鳴く特大デビルフィッシュ(異世界タコ)の話に耳を傾ける。【絆】のレベルが高いからか自動翻訳が優秀なんだよね。
しかしやらかしている側から話が来るとは思わなかったな。わざわざ南の海から北の海にやってきてまで大ゲンカしてる理由は、さて、なんだー?
キューキューと高い音で鳴くデビルフィッシュの話を、自動翻訳で聞くことしばらく。
「……。カバーさん」
「はい、なんでしょう?」
「南の海には何の異常も無かったんですよね?」
「えぇ、今分かっている範囲では何も異常は起こっていません」
どうにもその言い分が解せなかったので、ルウが顔を出して私を呼んだ辺りから近くに居たカバーさんに確認を取る。うん。だよねぇ。私もそう聞いているし、「第一候補」も何も言っていなかったから異常は無いと判断している。
カバーさんから特大デビルフィッシュ(異世界タコ)へと向き直ると、まだキューキュー同じ言い分を繰り返している。どうやら【共通言語】を理解できるぐらいの頭はあるようだ。
「ところで、何と言っているんでしょうか?」
「……少なくともこの個体はと付きますが、南の海が冷たくなってしまったから、暖かい場所へと移動してきたと言っています」
「は?」
「おや。……おや?」
お腹が減って来たらしいルウをステイさせながら、聞いた話をそのまま口に出すと、話の聞こえていたらしいエルルもこっちを振り返った。その様子を見るに、前に人魚族の所に行った時はエルルも異常を感じなかったって事だ。
「そしてそこに先に住んでいた者に事情を説明し、住む場所と餌を少しばかり分けて貰えないかと話したところ、問答無用で攻撃されたと言っています」
「んん?」
「それはそれは」
「で、いつまで経っても海の温度は戻らず、自分達は暖かい海でしか生きられない為、致し方なく応戦を続けているだけであり、説得を手伝ってくれないか、と言っていますね」
「えー……」
「ふむ」
だから、この言い分は解せないんだよなぁ。だって、私も人魚族の人達の所で泳ぎの練習をしたから。こっちの海の方が冷たいって、文字通り身に染みて分かってるんだよね。
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