第214話 13枚目:質疑応答+

 ナヴィティリアさんに大型アップデートの内容の説明を聞いたら、特大の爆弾が放り込まれた。一気に色々出て来たな、理解が追い付かないぞ? ちょっと落ち着こうか。

 とりあえずあれだ、うん、分からない事は聞こう。


「えっと……今まで、魔物種族と、普通の生き物と、モンスターの区別って、ついてなかったんですか?」

『区別自体は存在していましたが、人間種族とその他という区別が最も大きく、また標準として扱われていた為、当事者ではない一般人には広まっていませんでした』


 おう、なんてこった。魔物種族への当たりがキツいとは思ってたけど、ガチでモンスターの同類とみなされていたとかマジか。……魔物種族の神の復活に伴い、って今ナヴィティリアさん言った、もとい書いたよな。

 つまり、やっぱりあのバックストーリーで会議してた神々のせいじゃないか。あの会議に参加できなかったり発言権が低かったりしたら大変な事になる奴じゃないか。

 ……もしかしてメンテナンスに時間がかかったの、割と真面目に神々が戦争一歩手前の大ゲンカしてたから……?


「なるほど……それが徹底して周知されると……」

『そうなりますね』

「人間至上主義の神々については“天秤にして断罪”の神から見てもやらかしていたらしいので自業自得と言うか、魔物種族の神々にボコられてざまぁみろというのが本音ですからまぁいいとして」


 きっとティフォン様が景気よく殴り飛ばしてくれたに違いない。あ、それなら殴るのに良さそうな特大の武器とか奉納しとくんだったか!? 強度が足りないなら最初から使い捨てとして数を作れば良かったじゃないか! っち、しくじった!

 まぁ過ぎた事を悔やんでも仕方ない。とりあえず、今までどうしようもなくそびえていた壁が取り払われたって事だ。これは素直に喜ぼう。


「たぶん私はモンスターを使役していない筈なのですが、【契約】は特殊な習得条件があるタイプのスキルですか?」

『特段そういうことはありませんが、ルミル様はもう【契約】の上位スキルをお持ちですよ』


 ゑ? いや、え?

 いやいやいやいや。スキルっていうのは手順をすっ飛ばして上位のものを手に入れるのは不可能な仕様だった筈だ。いくら『自由』をテーマにしていたとしても、そこには厳然としたルールがある。不可侵にして不動、だから上位スキルを基本の物より先に手に入れるなんてそんな事が……。

 ……待てよ。最初から上位スキルではなかったなら? 例えば【契約】というスキルを急遽作ることになって、今まであったスキルの下位として紐づけたのだとしたら、どうだ? 元々は通常あるいは基本スキルであり、今回のことで「上位スキルになった」ものであれば……若干苦しいが、理は通るか。


「ん、んんん、心当たりはありませんが……」


 何でそこまで考えるのって、そりゃナヴィティリアさんが嘘を言う訳が無いからね。ナヴィティリアさんが持ってると言うのなら、私はその【契約】の上位スキルを持っているのだろう。

 モンスターを使役する必要がある、というシチュエーション自体が思い浮かばないので、上位スキルと言ってもあまり有難みを感じない。だって異世界からの侵略者だぞ? そもそも使役っていうのがあんまり趣味じゃない。

 まぁ貰えるなら貰っておこう、っていうかもう持ってるならわざわざ捨てる事もないか。というか何で質問で爆弾が増えてるんだ。


「えと、「大神の加護」っていうのはあれですよね。基本死なない、死んでも神殿や町の広場で復活する。あと、寝てるというか、魂が元の世界に戻ってる間は身体が保護される。の、共有、というと?」

『契約相手の魂が体から離れる事は基本的にありませんので、命が尽きても復活する事の出来る効果が主となります。

これまでも効果自体は発動していましたので、それが文章としてはっきり確認できるようになる、という変化であり、効果としては変化がありません』


 んー。

 ……あれかな。修行の為にとかって理由をつけて強い同行者をゲットするチャンスがあったりするやつかな。「第二候補」が大喜びする感じの。擬似的な不死でもあるから、それが知れたら高レベル【絆】持ち召喚者プレイヤーは現地冒険者とかに大人気になりそう。

 特に自分よりはるかに強い相手だと、寄生先にしろ修行先にしろ人気が増しそうだね。……私の事じゃん! よし、逃げよう。原則お断りの方針で!


「まぁ鑑定系スキルで判別が容易になるのは良い事だし……いやまぁそれを欺きにかかってくる相手や間違った結果を出させる状態異常とかが出てくるフラグの気がするからそんなに良くもないか……?」

『【看破耐性】というスキルは既に習得者がいるようですね。このスキルが上位に変化すると【偽装】というスキルになります』

「えっ」


 おっとーナヴィティリアさん今の文章は何ですかー? シャッと消したとこ見るとうっかり口もとい手が滑っちゃいましたってかー? 相変わらず最高かよ。最高だったわ。もう、この、茶目っ気溢れる微腹黒お姉さんな空気の眷属さんは!

 こうなると【鑑定】を【鑑定☆】にしたのはむしろファインプレーだったのでは? 頑張って【看破】とかも取れないか探してみよう。そしてその辺を(検証の為に)ガン上げしていると思われる『本の虫』の人達の重要性が更に上がるな。

 ……まぁ犯罪関係の事も検証しようと思ったら、アライメント:秩序ではいられない可能性もあるが……それは、なって見てから考えるしか無いな。


「まぁアライメントは中立で良いとして、善からは転げ落ちないようにだけ気を付けます。混沌が悪いとは言いませんが、悪の為に悪を成す類は百害あって一利なしですし」


 折角ナヴィティリアさんが警告をくれたんだ。そういうつもりでしっかりと、警戒だけはしておこう。


『我々は誰が為想う行動ならば祝福しますよ。それが、著しく悪無き他者を損なう物でないのであれば』

「相変わらず懐が深いんだよなぁ」


 ここ、重要。つまり善であれば混沌であっても祝福するし、たとえ悪であっても悪人だけを狙って狩る系はオッケーって事だ。逆に言えば、己の為にのみ行う悪はボコして良しって事でもあるし、行き過ぎた秩序には歯向かっていいって事でもある。もちろん自己研鑽の為のチャレンジも歓迎してくれるのだ。

 ……コトニワ、ほのぼのに見えて戦闘要素も結構あったからね。ボックス様とナビさんに戦闘力は無いが、戦闘能力のあるガーディアンが居なかった訳ではないし。


『さて、それでは説明は以上です。質問等はありますか?』

「いいえ、とりあえず今聞いた範囲ではもうありません」


 しかし爆弾だったなぁ。……それでいくと、「第一候補」の企み、もとい計画は成功したという事になるのだろう。魔物種族の不平等に、エルルのイベント参加拒否が最後の引き金とは言え、相当に怒っていたから。

 実際の所、魔物種族と人間種族が平等に扱われていても、あのイベントにエルルは参加できなかっただろうと思う。まぁそれはバックストーリーと潜んでいたレイドボスの正体が分かった、今だからこそ言える事でもあるけど。


『分かりました。

それでは、ルミル様。あなたがこれからも『フリーオール・アドバンチュア・オンライン』の世界で、自由に冒険できることを願っています』


 最後にそんな文字列を表示させたナヴィティリアさんに見送られる形で、最初に比べれば随分とお馴染みになった、眠気と眩暈を足して割ったような感覚が訪れる。

 さて、とりあえずは目の前の怪獣大決戦だ。質問と考え事で結構時間かかっちゃったかな?

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