第199話 12枚目:規格外個体
「デケぇ」
「説明不要」
「お化けサイズ」
「これはまさしく怪獣」
「モンスターじゃない詐欺」
「何人前だろう……」
割り振られた番号を呼ばれる前にフライングで私がテイムしたマーレイ(異世界ウツボ)だが、そのサイズはなんと、驚きの約17mだった。倍どころかほぼ2.5倍だったよ。ここまで来たらちょっとした海系の竜だな。魚だけど。
だって17mって、小さめの電車の車両ぐらいだぞ? 太さは比べるべくもないとはいえ、魚だと考えたら文字通り桁外れに大きい。下手な船より運搬能力あるんじゃないの?
まぁだから、火傷を治療しているところを周囲から見学して零れていく感想に異論はない。というか誰だ、今食べる前提で呟いた奴。いや美味しいって聞いたけどさ。
「流石に此処までの大物も大物は、話にも聞いたことが無いな」
「はっはっは、人魚族にまでそう言われるとは、これは珍しい物を見れたものだ!」
ほー、と感心した様子で、私がテイムした船の作る輪の外で待機しているマーレイ(異世界ウツボ)を見てそんな事を言う人魚族の人。同じく見学している森人族(エルフ)の旅人は、実に楽しそうに笑っていた。
あまりに巨大だから、ギャングという呼び名の元になったであろう凶悪な顔が小さく見える。小顔ギャングかな。いや、体がデカすぎるだけなんだけど。
あまりにデカいせいか、他にも同様に船の作る輪の外で待機している通常のマーレイ(異世界ウツボ)が距離を取っているような気がする。本人……本魚? は気にした風もなく、海中でぱかーっと口を開けてじっとしてるんだけど。
「……ていうかこいつ、限界突破個体じゃね?」
『あ、やっぱりですか。魚も進化するんでしたっけ?』
「必要経験値がまず集まらないから、本当に滅多に起こる事じゃないんだけどな。一応、理屈的にはする筈だ」
なお、これはエルル。まぁ、だよね。普通はここまで育たないだろう。それが育っているという時点で、何らかのイレギュラーが発生した個体である可能性は高い。
というか、ここまで巨大化した奴が普通な訳が無いだろう。いくらフリアド世界には魔法もスキルも神の加護もあると言ったって、それでも魚は魚だ。元々居たのがたまたま今来たのか、イベントの為にポップしたのかは知らないけど。
私の予想? ……たぶん前者じゃないかな。フリアドはほら、ワールドシュミレーターに一般人を放り込んでゲームと称してる感じのところがあるから。
『ここで頑張って活躍させたら進化しますかね』
「したらどうなるんだろうなぁ……」
「ぜひ観察を」
「観測を」
「記録を」
「うわ」
治療が終わり、くわぁーっと欠伸のような動きをしている巨大マーレイ(異世界ウツボ)を眺めながらエルルと話していると、いつの間にか『本の虫』の人達が寄ってきていた。エルルの顔が引きつっているから、接近に気付かなかったんだろう。
本当、時々『本の虫』の人達が見せる無音無気配の高速移動。あれは一体どうやってるんだろうね?
今日ばかりはイベントの節目というか重要ポイントという事で、3回フルにログインだ。その為に普段から手を抜かずに頑張っているんだし、イベントが始まってからもログイン時間を削っていたんだし!
ここまで私がテイムしたのは、あの説明不要に巨大な奴の他に、9mサイズを2体、10mサイズを1体だ。流石にここまで大きくなると普通は手に負えないらしい。
私自身のテイム枠にはまだ余裕があるが、ここまで来たら特大サイズで揃えてみたい。まぁ他の人のテイム枠が埋まりきる方が早いだろうけど。
『しかし何と言うか、マーレイの巣窟と化してますね』
「テイム済みだからまぁまだ平和なんじゃないか?」
テイム済みマーレイ(異世界ウツボ)は現在、『本の虫』の人達が港付近の海中に急遽作ってくれたテトラポットもどきの山の中で待機している。こういう狭い場所が落ち着くのは現実のウツボと変わらないそうだ。
なかなかテイムチャレンジの順番が回ってこないのでそちらを時々振り返るのだが、一見静かなその海面に、時々、ぬぅ……っと通っていく、あまりに巨大な魚影がある。言わずもがな、規格外過ぎてテトラポットもどきの山に入れなかったあいつだ。
テイムしたら名前を付ける事が出来る。まぁエルルのように自分の名前を持っていれば別だが、普通はテイム者が名前を付ける物だ。ただ今回の場合はある種の臨時雇用に近いので、私は名前を付けないつもりでいた。
『あのでかいのだけは名前を付けておきましょうか』
「その後も面倒見る気か、お嬢」
『魔物になったら「白紙のスキル書」を渡して【人化】を覚えて貰えばいいと思うんですよね』
「魚のままだったらどうするんだよ……」
いやぁだって、見たくない? 普通進化しないって言われてた相手が進化するところ。……期待に満ち満ちた目を全力で向けてくる『本の虫』の人達の無言の圧に負けたとかじゃなくて。
『まぁその時はその時で……人魚族の人達辺りに普段のお世話をお願いしましょう』
「……まぁ、それが妥当か」
エルルを無事説得出来た所で、【絆】を意識して規格外マーレイ(異世界ウツボ)を呼び寄せる。ざばり、と一度波を立てて泳いできた巨体は、船の近くでざばっと顔を出した。
うーん相変わらずの凶相。そういう魚だから仕方ないんだけどさ。ぱっかー、と口を開けたところがちょっとまぬ、いやかわい……くは無いな、悪いけど。
さて名前。名前か。どうするかな。出来れば進化させたいから、あんまり姿形から連想するんじゃなくて、呼びやすさ優先で。性別も分からないし、どんな姿になるかも分からないから、どうなっても違和感がない様な。
『……。ルウ。あなたの名前は、ルウです。良いですか?』
「アァ゛ァォオァア!」
『これからよろしくお願いしますね、ルウ』
ここで誰もが納得する様な名前を閃けるほどのネーミングセンスは私にはない。なので音感重視で、必ず名前に入れると決めているルの字と、ウツボのウを取って、ルウだ。
これなら性別がどちらでも、ゴツくなっても可愛くなってもバーサーカーでも職人でも、まぁそれなりに馴染むのではないだろうか。何ならここからフルネームは自分で考えて貰ってもいいんだし。
まぁ、ばっしゃばっしゃと尾の方で水しぶきが上がっているから、一応喜んでもらえた……ん、じゃ、ないかな。……たぶん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます