第188話 12枚目:順調な出だし

 図鑑への登録は自動で行われ、それは釣った時点で自動保存オートセーブされるらしい。そして食べられる魚(魚型モンスター含む)は渡鯨族の人達に渡せば料理にしてくれて、これは【釣り】の成功率が上がる効果があるようだ。

 食べられない魚型モンスターはそのまま素材として使えるので、一部ウェットスーツを作ろうとする動きもあるらしい。素潜りするのか。海中はモンスターの巣窟だけど、大丈夫?

 で、それ以外の用途不明品(超重量物も含む)は港の一角にスペースが作られて、そこに置いておけばいいようだ。【人化】した渡鯨族の人達や召喚者プレイヤーの有志(というか『本の虫』メンバー)によって分析・仕分けされて別の場所に並べられ、誰が持って行ってもいいフリー素材扱いになる。


「まぁ流木とかも結構引っ掛かるからなぁ」

『時々明らかに難破した船の一部とかありましたけどね』

「おや「第三候補」さん、その話ちょっと詳しくお願いします」


 だからきっちり、もしかしなくてもログイン時間を私に合わせてるらしいカバーさんも居る訳だよね。だってほんとにいつフレンドリストを見てもログイン中になってるし。

 まぁ私もイベントの趣旨を薄々感づいていたので、自動マッピングされた地図にそれっぽいアイテムが釣れた場所をメモして、それぞれのアイテムの鑑定結果のスクリーンショットと一緒にメールにくっつけて送信した。


「あぁ、これは大変助かります。渡鯨族の方々に現物を見せればその船の年代が分かるとの事で、嵐の影響範囲と詳しい発生時期を絞り込む貴重な資料になるんですよ」

「へぇ。じゃあこれとか重要になるのか?」

「おやこれは、羅針盤ですか! えぇ、それはもう!」


 うーん、カバーさんが大変と楽しそうだ。めっちゃ生き生きしてる。元々こういう作業が大好きな人なんだなぁっていうのがよく分かるね。……でなきゃ検証班に所属するどころか指揮を執る立場にはならないか。

 ただ、流石に私とエルルでも、釣り上げて即インベントリに入れなきゃ船が沈む超重量物は、ちょっと場所を避けて置くことになった。まぁ、一緒にしたら他の色々な物が潰れる可能性があるから仕方ない。

 超重量物の内訳? えーと、私が釣った分でいくとでっかい船の一部がいくつか、家具っぽい大物がいくつか、岩っぽい謎の塊がいくつか、ひしゃげた錨っぽい金属の塊、海藻まみれの謎の塊、巨大な謎の骨、巨大な流木、巨大な海草の塊ってところだろうか。


『この海草の塊はなんなんでしょうね?』

「よくまぁここまで見事に絡まりまくったもんだ」

「こういうものは大体の場合、何かを核にして絡まっている物です。解せば思わぬ何かが出てくる可能性がありますよ」

「『へー』」


 ちなみに鑑定結果も「船の残骸」「家具の残骸」「巨大な海藻の塊」って感じで詳細不明だ。詳細説明部分に「イベントアイテム」の一文が無ければゴミにしか見えない。

 これらの正体を知るには、表面にびっしり生えていたりくっついたりしている海藻や海草をどうにかしたり、ちゃんとした形に戻してから改めて調べる必要があるのだろう。


「以前のこともありますし、情報を集めてまとめる方はお任せください」


 ……まぁ、それでなくても、渡鯨族の港では一度、あの巨大な異形という正式発表のないレイドボスが出現している。1周年を目の前にしたタイミングで、もう一度似たような存在が出てこないとは限らないのだ。

 それもあって、カバーさん達は余計に張り切って最初から飛ばしているのだろう。確かに「膿み殖える模造の生命」の時は、最後の詰めの情報が足りなくて大変な事になりかけたからね。

 イベント期間は前回と同じく2週間だ。そして前回と違い、通常空間でのイベントとなる。エルルや渡鯨族の人達の助力が得られる、というメリットがあるとはいえ……その分、やらかした場合の被害も、大変な事になる、という事だ。


『ありがとうございます。それでは、出来るだけ大物を狙って釣ってきますね』

「まー他には厳しそうだもんな」

「まぁ、一応渡鯨族の方々の中でも小柄な方にお願いして、釣り上げ……というか、港まで牽引してもらうという形の助力はお願いしているのですが」

「なるほど」


 だからしれっと、運営が予測しているかどうかギリギリラインの手段も躊躇いなくとると。

 うん。やっぱり情報を支配する事すなわち世界を支配する事だね。『本の虫』の人達の全力すごい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る