第181話 11枚目:鎮静案
エルルの移動を空気の足場(灯りのガイド付き)で援護しつつ“角掲げる鉄火にして卜占”の神について移動した先は、まぁうん、大体分かっていた通り伝承の最初に出て来た場所……つまり、封印解除における最後の場所だ。
さてここまで来れば、流石に何か変化が起こるか……と、思っていた時期もありました。
『相変わらず折れた角には異物の欠片も見えないですし……』
「荒ぶっている様子にも変化無し、か。いや、ほとんど槍を全部自分で弾いてるから、護る側としちゃある意味楽なんだけどなぁ」
全く変化が無いんだよねこれが。「第一候補」との連絡途絶状態含み!
これはマジで正面戦闘不可避か、とか思いながら様子を見る。相変わらずのバーサーク状態と過剰火力。その割に狙いはきっちりつけているのか、撃ち漏らしがほとんどない。
大変と鬼族の神「らしい」神だな、というのが現在の印象だ。それが暴走時と言うのは、まぁ、うん。鬼族なので。
『となるとやはり、殴って正気に戻す必要が?』
「なぁお嬢。それやるとなったら俺だよな。【人化】解除しての」
『他に居ませんしねぇ。「第一候補」がなんやかんやして他の鬼族の神を顕現させるとか、他の案がでない限りは』
「だよなぁ……っ!」
一旦地上に戻って来ていたエルルが頭を抱えてしまった。普通に怪獣大決戦だもんね。それでなくても神相手に取っ組み合いとか、やらずに済めばそれに越したことは無いだろう。
何か今からでも巨大化の薬とかで鬼族の人達が頑張れないかな。肉体言語なら彼らの方が得意だろうに。無理か。
これはもう一度「第一候補」にウィスパーを飛ばしてみるべきか、と思ったところで、ウィスパーの着信。おっとこれは。
『「第三候補」、無事か?』
『えぇ、何とかエルル共々無事ですよ。その代わり、ろくに近寄れませんが』
待ちかねた「第一候補」からの連絡だ。なんか声がウィスパーでも分かる程疲れてるんだけど。大丈夫? 大丈夫じゃないか。
『で。現状何処までが想定内なんです?』
『うむ。「軍勢」を突破した時点で“角掲げる鉄火にして卜占”の神が荒ぶるところまでは想定内だ。荒ぶってもここまで精度の良い動きが出来るのは想定外である』
『そっちが想定外なんですか。鬼族の神であるという事で真っ先に納得した所なんですが』
『想定外は想定外でも、良い方の想定外であるな』
なおこの会話はエルルには聞こえていないので、左肩の上に着地して、尻尾をたしたしすることで内容を伝えている。いやぁ、ほんと同族補正って便利だね。
「第一候補」も含み、絵面を想像したら負けだ。今は神の封印を解く大一番、その佳境なのだ。笑ってる場合でも和んでる場合でもない。いいね?
『未だ推測でしかないが、その荒ぶりを抑えれば、角から矢が引き抜ける筈である。ところで、「第三候補」』
『【人化】を解除したエルルによる取っ組み合いは最終手段ですよ。何でしょう、「第一候補」』
『無論だ。というか、そこまでは想定していない。うむ。確か普段過ごしている場所には、数多くの霊草の類が生えていると聞いているが、誠か?』
『あぁ、大分前の話ですね。自宅周辺の環境紹介で嘘言ってどうするんですか』
何か話がいきなり飛んだな。私の中継(同族補正)で聞いているエルルも、鬼神様の方に注意を払いながらも首を傾げている。
そこからいくつかの薬草の名前と特徴を上げられ、それを持っていないかと聞かれた。……え、まさか本気で巨大化する薬を作るとか?
「……あー、なるほど。そう持ってくのか……」
なお、この時点でエルルには察しがついたらしい。え、何、どうするの? とりあえずそれらの薬草自体はエルルが持っていたので、持っていると返答を返した。
すると今度は、その薬草類をある神社に持っていってほしいという指示が続いた。うん? 神社? 流石にちょっと繋がらないんだけど?
『まぁそういう事なら、エルル、お願いします』
「お嬢は?」
『あの状態とは言え、流石に鬼神様から目を離す訳にはいかないでしょう』
「……、まぁ、それもそうか」
という訳で、「安全第一!」と私に言い含めてエルルは移動していった。【飛行】で滞空してその場に残った私の前には、相変わらずバーサーク状態で自衛している鬼神様。
さて、どうするつもりなんだろうね?
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