第143話 10枚目:戦闘準備
で。
『うわぁ』
『うわぁ、ですー』
直せる場所=運営からの「直してね」なメッセージ、という判断は『本の虫』の人達もしていたらしく、街(廃墟)の北側に広がっていた遺跡は、すっかり建物としての機能を取り戻していた。
森に呑まれていたとは思えないほど綺麗になって安全地帯としての機能すら発揮されているらしい町並みを見て思うのは、ここはやはり長期的に住む場所ではなく、あの街(廃墟)に対抗する為の前線基地みたいなものなんだなという事だ。
だって
「ひぇ……なんすかあれ。キモい」
まぁそこに避難して、その片隅でルチルとフライリーさんと合流。そのまま下から私、ルチル、フライリーさんの順で三段に重なり、街(廃墟)の様子を見ているところだ。
一時マシンガンのように連続していた爆発音は、今は散発的になっている。つまり洗浄剤が反応し終わったという事だろう。そしてそれでは決着がつかなかったらしく、こちらから攻めにくいからという理由で去り際に壊され崩された北の防壁の向こうで、もこもこという感じで黒い物が膨れ上がっていた。
うーん、流石に地下の通路一杯に満ちている上ではみ出している訳ではなく、全体が地上に上がって来た、と思いたいところだが……。
『と』
「ん?」
と思ったところでメール着信。フライリーさんもほぼ同時に声を上げた所を見るに、システム関係だろうか?
視界の端でちっかちっかと存在を主張するアイコンに目線を向けてメールを開く。視界に、半透明な画面が展開した。
[件名:イベントメール
本文:イベント条件が満たされたため、レイドボスが出現しました!
このレイドボスは膨大な体力と再生力を持っています。
プレイヤー全員で力を合わせて退治しましょう!
※レイドボスがイベント期間内に倒されなかった場合、通常空間に出現します
※出現する際、本体及び周辺の状態は引き継がれます]
……うん。やっぱりというか何と言うか、あの街(廃墟)は壊れる運命にあったらしい。だって事前に用意してなきゃこんな一斉システムメールは来ないだろ。今頃運営は上手くシナリオが進んでハイタッチでもしてるのだろうか。
そして最後の注意書きはもはや「やっぱりか」としか言いようがない。わざわざ本体「及び周辺の」状態って書いてるって事は、この北方向の戦闘拠点の修復あるいは崩壊状況も含むのだろう。
さてまぁ公式に敵だと言われた上で、通常空間に引き継ぎありとなると、少なくとも叩けるだけは叩いておいた方が良いのだろう。ここでどれだけ削れるかが、そのまま第二ラウンドの難易度に直結するとなれば。
『「第三候補」さん、メールは確認されましたか?』
『えぇ、確認しました。何と言うか、嫌な予感だけはきっちりと当たるものですね』
『ははは』
さてどうするかなー、と思っているところに、カバーさんからのウィスパーが届いた。うーん仕事が早い。
『さて戦闘方針ですが、我々『本の虫』としては可能ならこの空間内での討伐を目指すつもりです。よって、「第三候補」さんにも協力をお願いしたいのですが……』
『私も可能なら此処で叩ききっておくつもりですので、喜んで』
『ありがとうございます。それでは「第三候補」さんはルチルさん及びニビーさんと共に、街の西側に回り込んでからの戦闘をお願いしたく思います。「第二候補」さんは東側から向かってもらうつもりです』
『なるほど。過剰火力が味方に当たるのは避けなければいけませんからね。分かりました。移動を開始します』
恐らく一般
ウィスパーが切れて、まだもこもこと卵型に盛り上がっている黒い暴走人造スライム……レイドボス「膿み殖える模造の生命」から視線を外し、上に乗っているカナリア姿のルチルに目を向ける。
『ルチル。カバーさんから指示がありました。西側から削りにかかって下さいとの事です。ニビーさんも合流するようですので、魔物種族の火力を見せてあげましょう』
『はーい。頑張りますよー!』
ルチルはやる気十分だ。ぱったぱたと羽を動かして、今からすぐにでも動けるだろう。
ただ問題は、
『フライリーさんはどうしますか?』
「ぅえ」
『いくら魔物種族と言えど、まだフリアドでは新人ですからね。こちらに残って後方支援でもいいですが』
「う、うぅー……」
三段重ねの一番上、フリアド始めたてほやほやのフライリーさんだ。いくら種族レベルが高いと言ってもそれは「新人にしては」の域だ。プレイヤー全体で言えば、まだまだ弱い。
私がなんやかんやしている間もレベル上げはしていたのだろうが、それでも姿が変わっていないから、進化もまだなのだろう。そのまま私やニビーさん、イベントにも碌に参加できない不遇を耐えて来た第一陣の魔物種族プレイヤーと並べるか、というと……まぁ、厳しいと見るべきだ。
来てくれるなら歓迎するよ? けど、無理に連れて行こうとは思わない。力不足と思うなら残ればいいし、それでも仕事したいと思うなら付いて来ればいい。
「……いやぁ、正直に言えば、せめてもうちょっと設備のある場所にいたいんすけど……」
あー、と、うー、をしばらく繰り返して、歯切れ悪くフライリーさんは言葉を継ぎ、
「まぁ、あんだけでっかいならどこにいても一緒かな、とも、思いますし! ご指導ご鞭撻、よろしくお願いするっす、先輩!」
それでも吹っ切れたように、覚悟完了の意思を示して見せた。
良い覚悟だ。それでこそ自ら魔物種族に踏み込んだプレイヤー。
『なら、全員で向かいましょう。敵は暴走スライムではなくその向こう、反対側から削りにかかる「第二候補」です。より多く削りますよ!』
『「はーい!」』
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