第144話 10枚目:予想外の用意

 西側はどこかの戦闘狂が放射状の攻撃で一度薙ぎ払った為、広い平地が広がっている。本来なら森があったのだが、うん、ごっそりと削れてそのままだ。

 平地ならフィルツェーニクさんの方が良いんじゃないかとも思ったんだが……その理由は、辿り着いたら分かるようになっていた。


『……これはまた、はりきりましたね』


 ごっそりと木々が吹き飛ばされて、荒野や焼け野原でこそないものの、ただ広い場所が広がっているばかりの場所の筈だった。の、だが。

 現在そこには、街(廃墟)の防壁程とはいかないものの……立派な、それはまぁ立派な、石造りの砦が堂々と聳え立っていた。窓の配置とかからして、たぶん3階建てぐらいだろうか。

 ……いやまぁ、神殿を強化したり建物を修復したりするドロップアイテムの建材は、普通のアイテムとしても使えるのは知ってたよ。知ってたから、それを使ったんだろうなとは思うんだけど、うーんこの。


『あっ、「第三候補」さんだ!』

『我らが最大火力!』

『ようこそ来られました、姫様!』


 フライリーさんがまだスピードを出して飛べないので、人間の小走り程度の速度なら出せるようになった私に乗って、ルチルは周囲を警戒しながら隣で飛んででの移動だ。高さも森の木より少し高い程度だったのだが、意外と銀色と金色の組み合わせは遠くからでも見えたらしい。

 砦の窓や櫓のような場所からひょこひょこと顔が出てきて、何人かは手を振っている。……もちろん、その全てが人外――つまり、魔物種族召喚者プレイヤーだ。意外とイベント参加者は多かったらしい。


「キッキー! ようこそいらっしゃいました! 「第三候補」様! こちらへどうぞ!!」


 その砦の一番上で、ぶんぶんと手を振っているのはニビーさんだ。フライリーさんに軽く声をかけてから【風古代魔法】で作った空気の足場を蹴り、高度を上げて砦の上へと着地した。

 ルチルもそれに続いて、こちらはさくっと【人化】する。で、ひょいっとごく自然にフライリーさんごと私を抱きかかえた。うん? まぁ楽でいいけど。


『遅れてしまいましたか?』

「いえいえ! 避難が始まる前からどうせならやってみようという事で作っていましたので! キキッ!」

『避難の前から作ってたんですか』

「ひぇ……魔物すごい……」

「フライリーさんもですよー?」

「はっ!? そうでした!?」

「キ? おやおやこれはこれは可愛らしい!」


 とりあえず、自己紹介がてらこれまでの経緯を聞いてみた。

 すると、第一陣の中に、最初期はほぼ完全な牛の姿だったプレイヤーがいたのだという。初期地点の周囲は草も碌に生えていない岩場で、周囲は肉食のモンスターだらけ。まさかのビーフ!! と、当時はザ・食肉という扱いに投げかけたらしい。

 が。襲い掛かってくるモンスター達をそれはもう何度も死にながら撃退していると、まぁ経験値的には大変美味しい訳で。角で突き、後ろ足で蹴り、時には前足で踏みつぶしとしている内に、存外あっさりと進化したようだ。


「で、なった種族が「ウィーク・タウラス」だったそうです!」

『あ、なるほど大体分かりました』

「先輩今ので分かったんすか!?」

『タウラスでしょう? 半身半牛姿だったのでは?』

「御明察です! キキ!」


 まぁ頭にウィークと付いているからまだしばらく苦労はしたみたいだが、それでも岩場を削って武器を作り、拠点を作り、何なら周辺のモンスターを駆逐する勢いで頑張っていたようだ。

 するとそこに魔物種族有志による『スターティア』見学・インベントリ入手ツアーのお知らせが。このチャンスは逃せない! と、全力で指定された場所へ向かい、他の魔物種族プレイヤーに合流したらしい。

 その後は普通(?)のプレイヤーと同じく街から街へ移動したり、クエストをこなしたりしつつ今回のイベントにも参加し、ソロ時代に鍛え上げた【建築】と【石工】スキルを駆使して建物の修復に貢献。その後手隙になったので、当時を懐かしむ意味も込めてこの砦を作っていたのだという。


「という事で! こちらがそのみのみのさんです! 現在の種族は「ビルダー・タウラス」まで進化したそうですよ! ウッキー!」

「ブモー! いずれ迷宮を作ってダンジョン化するのが野望ッス! 魔王城を作る際には是非お声がけ下さいッス!!」

『あ、はい。そういうのは「第一候補」にお願いします』


 まぁそりゃラビュリントス伝説を連想するよな。しかし名前。

 いや、ある意味想定通りというか、希望通りでいい、のか?

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