第138話 10枚目:本命(推定)

 とりあえず分かった大事な事は、あの汚れ(仮)は推定集められた負の感情(実体付与)。あの地下通路は地下5階まである。その先に猫系魔物種族が閉じ込められた檻があって、媚薬トラップが仕掛けられて人造スライムが待ち構えている。

 ……てことは、あれか? 推定モンスターが今の話に出て来た、魔石埋め込み係の人造スライムか? 正しくはゴーレムに属する人造物だから【鑑定】で何も出なかったのか?


「しかし猫、猫系の魔物種族、ですか……」

「モンスター目撃情報にもそれらしいものはありませんね」

「本来の地域周辺に居るという事では?」

「もしくは既に逃げ出した後か……」


 ウィスパーではなく、お互いに声を出してメモを取りながら考察をしている『本の虫』の人達。うーん流石検証班。ブレないなぁ。その間にかあの爺さんの骨も元通りに戻してるし。

 ひょこ、とかぶせられた布から顔を出すと、「第二候補」が入り口近くに退避してきていた。まぁ確かに、あの会話の中には入れないよね。


「はーやれやれ。中々に気が滅入る相手じゃったのう」

『全くですね。滅んだのは残当では?』

「とはいえ、最後の長は撤退を選んだからの。恐らく此処にはおらんじゃろう」

『引き継いだならきちんと片付けろと言いたいところですが』

「出来んかったから逃げた、と考えれば無理な話じゃが」


 やっぱりというか何と言うか、「第二候補」もそんなに愉快な気分ではなかったらしい。……というか、あの話を聞いて本気で面白そうとかすごいとか思える奴は狂人かサイコか外道でいいんじゃないかな。

 しかし、この後も話の裏付けをとったり具体的な設備の仕組みを調べたりするのに他にも何人か話聞くって聞いてるんだよな。気が滅入るわー。




『半分モンスターと【鑑定】で出る程錯乱した方が一番良心的とは、やはりこの街が滅んだのは残当だったのでは?』

「ある意味末期じゃったのだろうのう。まぁ、設備としての技術力が高いのは確かじゃから、綺麗にして心置きなく使わせてもらおうぞ」


 ふぅ。とため息を吐く私は現在、「第二候補」の頭蓋骨の上に乗って地下の第4階層まで来ていた。

 現在はあの話の聞きだしを終え、『本の虫』の人達の情報整理及び地下清掃部隊の人達がキリの良い所まで進むための休憩を挟み、ようやく地下5階への階段が見つかった、という知らせを受けてそちらへ移動中だ。

 ログイン時間の残りとしてはあと8時間ぐらい。1人1人にかかる時間は少なかったのだが、それでもある程度の人数が居た事と、それぞれの思考回路がほぼ全員アレだったから、精神的な疲れがね……。


『苦労の割に分かったのは、完全自動化しているから外からでは止めようがない、という事だけですし』

「検証班の方は、あの小難しい理屈を知れた事で大層喜んでおったがのう」

『あれ、喜んでたでいいんですかねぇ』


 何せモノ自体が禁忌指定待ったなしのシロモノだ。喜んでいたっていうより、疑問が解消したのは良いけどどうしようこの情報、って態度だったと思う。

 まぁその詳しい内容はさておくとして、私と「第二候補」が揃っているのは当然最下層に「何があるか分からない」から……ではなく、「何があるか大体分かった」からだ。

 いやぁ、厄いってこういう事を言うんだね。


『人造物の暴走はお約束、とは言え』

「無限再生のスライムとはのう。実に斬りがいがありそうじゃ」

『あっさり切れすぎて手ごたえがないというパターンもあるのでは?』

「クカカ、じゃとしても死ぬまでは切れるじゃろう?」


 まぁつまり、そういう事だ。

 人造魔石を回収し、「より無垢な命」を対象に埋め込む役目の人造スライム。あれが暴走して、実体化した負の感情も人造魔石も、果ては地下に囚われていた猫系魔物種族も関係なく喰らい尽くして地下に居座っているらしい。

 明らかに体力をちまちま削っていたら間に合わないという事で、瞬間火力がイベント参加プレイヤー中ほぼ一番高いであろう私と「第二候補」が討伐をお願いされたのだ。


『……まぁ、それを倒せば、このイベントの隠れストーリーがクリアという目が出てきましたから、頑張りますが』


 問題はなー。

 鼻歌を歌いそうな感じて楽しそうにしているこの戦闘狂なんだよなー。

 開けた場所ですら撮影班の人達にあれだけ被害が出てたのに、閉所であの調子で暴れられたらフォローが大変なんだけど、その辺自重する気なんかこれっぽっちもないんだよなー。

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