第109話 9枚目:次なるイベント

 さてそんな訳で、もう1週間が経過する頃にはフライリーさんも種族レベルが30を超えた。


「あ、はい。30とか全然何もできないっすね。入り口ですらねーです」

『でしょう?』


 その種族レベルが上がる理由、合計スキルレベルのほとんどを【浮遊】に突っ込んだフライリーさんだが、当然他のマイナススキルもじわじわと下がっている。だから言ったじゃん。

 最近は『妖精郷』の周囲をエルル引率で散歩しつつ、ちょいちょい戦闘を挟む形でレベリングだ。流石にパーティを組んでいるとデメリットが酷いので、私とエルル、ルチルのパーティに、フライリーさんが勝手についてきている、という形になる。


「意外とこの、【環境耐性低下】ってのがキツいですね?」

『克服すれば大体の場所が楽になるという事ですよ』

「なるほど!」


 どうにか自分の体力や魔力が体感で分かるようになってきたらしく、ひゃっほー! と楽しそうに妖精族が使う魔法を連射するフライリーさん。うん。妖精族にもあったらしい。固有魔法。

 ただ、私が習うのはかなり難易度が高そうだ。何せほら、一応普通の妖精族から見れば、こっちは竜族の皇女な訳でさ。


「へえ、俺の使うのともまたちょっと違うのか」

「僕の【歌唱魔法】とも【属性魔法】とも違う感じですねー」

「えっ、魔法ってそんなに種類あるんすか!?」

『あるんですよねぇこれが』


 なお、やっぱりというか何と言うか、ルチルが歌鳥族の里で習った【歌唱魔法】と、私が人魚族から習って伝えた【古式歌唱魔法】では違いがあったらしい。だろうね。

 そしてそこから推測できるのは、種族固有の魔法には普通の奴と、古式ってつくやつがあるんじゃないかなっていう事か。竜族? ……【竜魔法】ぐらいだと思うよ。そして、それに古式も何も無いと思う。


「僕なら教えてもらえますかねー?」

「え、先輩まだ魔法覚えるつもりなんです? あんなに色々出来るのに?」

『諸事情ありまして、出来るだけたくさんの魔法を覚えたいんですよね。主に進化方向のあれで』

「超納得っす!」


 戦闘? 当然参加してるよ。主にバフとデバフでだけど。

 それでも【○○属性魔法】を一通りに【○○古代魔法】も使えるから、その種類はかなり多い。それを指してフライリーさんは驚いていたようだが、理由を説明すると力強い頷きが返って来た。


「そう言えば、妖精族の進化ってどんな感じなんだ?」

「えーと、まず【浮遊】のレベルで飛ぶのがメインかどうかが決まって、使った属性の偏りとか武器とかでまた分岐するみたいです」

『成程。それで真っ先に【浮遊】のレベルを上げていたんですね』

「妖精なら飛び回りたいじゃないっすか! ウザがられるほどに!」


 ……フライリーさんの持つ妖精のイメージってどんななんだろうか。まぁ、目指す目標がはっきりしているのは良い事なんだけど。




 さて。イベントは4月いっぱいの間続くので正しくはまだイベント中なのだが、その期間もあと1週間という事で、次のイベントのお知らせ(啓示)が来ていた。

 5月の前半には大型連休がある。さーて何が来るのやらと楽しみ半分怖さ半分でお知らせメールを開いてみると。


『んー……ある意味では平和、と言えば平和なんだけど、んんー』


 なお、そのお知らせを確認したのは谷底だ。エルルは畑の世話をしていてちょっと離れている。

 まぁそれはともかく次のイベントの中身だ。4月に第二陣歓迎イベントをやったからには、ぐっとプレイヤーが増えている訳で。少なくともイベント効果で、種族レベル30までは育っている、という想定と言うか前提となる。

 となれば、次はその育った新人達が、自分の進む道を決めるタイミングとなる。だから、色々試行錯誤するプレイヤーが増える、という事だ。ここで恒例のバックストーリーの確認と行こう。



 新たに招いた召喚者と、最初に招いた召喚者が協力し合い、その力を高めている様子を確認した神々は、まずはほっと胸をなでおろした。一部衝突や諍いは起こったものの、順調な滑り出しと言っていいだろう。

 しかし、召喚者を更に招いた事で急増したのは戦力だけではなく、空間の歪みもまた同様だった。それは神々の予想を超えて、数を増やし、強化された筈の神殿でも、受けきるのが困難になる程にだ。

 このままでは、またしても世界各地に数多くのダンジョンが発生してしまう。かと言って、今からもう一度神殿の数を増やし、強化するのは間に合わないだろう。そして召喚者の数が増えたとはいえ、試練の踏破数まで増える訳ではない。

 神々は急ぎ議論を交わし、これまで調べられた空間の歪みの性質を考えて……その結論として、神々それぞれから力を出し合い、それを核として空間の歪みを収集。ダンジョンではない亜空間を作って召喚者達を招き、ある程度一気に空間の歪みを解消する、という方法を採る事にした。



 いつもより若干長いが、一言で纏めると「特殊マップ攻略イベント」だ。時間加速の倍率こそ変わらないとは言え、キャンプイベントと言った方が分かりやすいだろうか?

 特殊マップにある素材を採取したりモンスターを倒したりするイベントだ。バックストーリーから考えても、その特殊マップを「枯らす」事がベストオブベストな目標だろう。

 で。そこで採れる素材というのには当然神殿の建材も含まれるし、神々の力が混ざり合った結果大分特殊だったり尖っていたりする素材も出現するようだ。まぁ、新人が自分のスタイルを試行錯誤する用のイベントだから、正しくはある。


『……ただ、一部、ものすごい大問題があるけど』


 さてここまで説明して、今月の第二陣歓迎イベントに引き続き、第二陣向けのイベントであることは確定的に明らかというやつだ。

 だからなのか、このイベントの参加条件に、ある一文がくっついていた。……普通は問題ないだけに、自力で頑張れっていうか、どこかからのテコ入れっていうか……。

 まぁ、うん。イベント説明ページの、本当に隅っこに、拡大しなきゃ読めないぐらいちっちゃい字で、こう書いてあったんだよね。


[※累計種族レベル1001以上のプレイヤー或いはNPCは、特殊マップへ進入できません]


 つまり、エルルが完全にアウト。

 ……人間種族の神がまーた何か余計な事しやがった気がするぞー???

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