第107話 9枚目:新人レベリング

「ふにゅっ……! この……っ!」


 とりあえずしばらくは様子を見てみようという事で、フライリーさんにパーティ申請を飛ばしてイベントの経験値アップの恩恵を受けた上で、私も【浮遊】をメインに入れて練習だ。

 エルルによれば【浮遊】のレベルを上げれば【飛行】になり、飛ぶことが必須な種族(妖精・幽霊等)は種族スキルとなり、地上を歩くことも出来る種族は普通スキルとなるんだそうだ。

 まぁ私は控えに回せたし、ルチルは最初持ってなかったからなぁ。なおそれまでの間はルシルに乗せてもらい、後程「白紙のスキル書」を使って取得したそうだ。ごめんね。


「どぅぁああー―――っっ!??」

「あーあー、慣れない奴がよくやるんだよなぁ、あれ……」

「止めなくていいですかー?」

「……握りつぶしそう」

「僕が止めますねー!」


 とかやっている間に、何がどうなったのかゆっくりとでも前に進もうとしていたフライリーさんが、その場で高速回転し始めてしまった。目を逸らす感じでぼそっと零されたエルルの呟きは……うん、良かった。聞こえてないっぽい。

 相変わらず【人化】した状態のルチルが駆け寄ってきて、はしっ! という感じでフライリーさんを捕まえ、回転を止める。傍から見てたら完全に蝶々を捕まえる子供の図なんだよなぁ。


「うああ……な、なかなか、キツ……先輩すげぇですね、優雅さすら感じる……」

『まだまだスピードは出ませんけどね』

「姿勢が安定してるだけですげーっすわ……」


 ルチルの手の中でぐったりしているフライリーさんをのぞき込むと、そんな感想が返ってきた。まぁねぇ。なんだかんだ言いつつ【浮遊】のスキルレベルもそれなりに上がっているし、何よりこれでもリリース初日からやりこんでる第一陣だし。

 このもろもろ含めた謎システムへの慣れ、ロール的に言えばこの、フリアド世界への慣れとなるんだろう。それが何より重要となる。そういう意味では、その分慣れているからアドバンテージはあって当然だ。

 それにまぁ、他にも心当たりがあると言えばあるし。


『……先に耐性を付けて、【精密動作】や【魔力制御】あたりを取得した方がいいかも知れませんね』

「え、お嬢【精密動作】持ってたの?」

『正確にはその上ですが。でなければ【浮遊】で生産活動とか出来る訳ないでしょう?』

「納得した。それであんな芸当が出来たのか」


 ぱたぱたと翼を動かして空中を移動しつつ呟くと、エルルから意外そうな声が返ってきた。一瞬で納得してたけど。うん。【骨体】の時に、自分をばらして組み立て直してってしてたら手に入ってたんだよね。……文章にするとなんのこっちゃだなこれ。

 まぁそれはともかく、そもそも【浮遊】ってどうやって浮いてるんだという話だし、どうやって姿勢を制御してるんだって話だ。それは当然魔力の関係だろうし、姿勢制御とか細かい動作の筆頭みたいなもんだろう。

 これもマイナススキルの影響なのか、目を回した状態から立ち直るのにそれなりの時間をかけたフライリーさん。何それ? って顔で首を傾げている。


『まぁ、補助スキル無しで【浮遊】が使いこなせるようになるのと、耐性弱化スキルを克服して補助スキルを手に入れるのとでは、どちらが早いとも言えませんが』

「まぁそれは確かに。【精密動作】はともかく【魔力制御】を手に入れるのは種族補正もあって簡単だろうけど、耐性弱化の克服はなぁ」

「お箸で大豆を移し替えればいいんすかね? っていうのはともかく、体力が雀の涙なんで無理が……あれ、苦行なのでは?」


 気づいちゃったかー。まぁわいわいしながらやってれば乗り越えられるさ。……たぶん。




 さてそこから、4月半ばまではひたすら【浮遊】の特訓で過ぎていった。私の方が一歩先に【浮遊】がレベル100になって【飛行】に進化し、『妖精郷』の上空を飛び回るようになれたが、まぁやる作業に変化は無い。


「いやぁ……魔物プレイヤーの苦行加減舐めてたっすわ……」

『ははは。……まだまだ序の口ですよ』

「ひぇぇ!? ガチ声が逆に怖い!!」


 本番はその打たれ弱い体で耐性スキルの克服にかかってからだぞーフライリーさん。私が最初まともに動けるようになるまでどれだけかかったと思うんだ。


「あの、ところでルミル先輩」

『なんでしょう?』

「その、つかぬ事をお伺いしますが……最初の1ヶ月で、種族レベルってどこまで上がったんです?」


 うん? と首を傾げてみると、えーっと、と自身のステータスを確認しながらなのか、何かメニューを確認する仕草を見つつフライリーさんは言葉を続けた。


「いやその、今ほら、先輩に手伝ってもらって、経験値にボーナスが入ってるじゃないですか。でも先輩は当然、そんな事なかったわけでー……。【浮遊】も結構上がって来たし、あと【偏食・花蜜】と、何でか【気弱】のレベルも下がってるので、種族レベル30が見えて来たんですよ」

『それはおめでとうございます』

「先輩方のお陰っす。んで、そのー。先輩の時は、どういう上がり方してたんかなー、と。ちょっと気になりまして……」


 あぁ、成程。成長速度が気になって来たのか。

 1ヶ月でどれくらい上がったか、か。どんな感じだったかなぁ。


『そうですね。……1ヶ月時点の事は覚えていませんが、2週間経過の時は覚えていますよ。イベント……啓示がありまして』

「あ、はい。闘技大会ですね!」

『はい、それです。その時の種族レベルが確か……50は越えていた筈ですね』

「……ごじゅ?」

『えぇと、ちょっと待ってくださいね……あ、ありました。55でした』

「ごじゅうご?」


 そうそう。闘技大会までにマイナススキルぐらいはーって頑張ったけど、間に合わなかったんだよね。まぁ見学専用エリアでの動きは変わらなかったから、気分の問題だったけど。

 で、そうだ。あの時の1ヶ月っていうのが確か、夏休み終了時点だから……初めての進化をした辺りぐらいか。てことは、種族レベル100弱ぐらいだっけ。

 もはや懐かしいな。あの頃はまだ動くどころか周囲を見ることも出来なかった。そこから使徒作成イベントがあって、まともに動けるようになったのは【骨体】が【死体】になってからだから……種族レベル200を越えてからか。


「……え、経験値ブースト、無かったんですよね?」

『ありませんでしたよ?』

「そ、その時その、イケメンさんは……」

『居ませんでしたねぇ。掲示板が唯一の繋がりでした』

「えっ!? 他の人とかは!?」

『住民も居ませんでしたよ。本気の本気で一人です』

「ひぇ……。……先輩、改めて心の底から尊敬するっすわ……」


 改めて考えて、私が世界三大最強種族の一角である竜族、という事で、マイナススキルが多かったとしてもやはり、魔物種族召喚者プレイヤーは種族レベル100まで行ってようやく入り口に立てるかどうかだろう。

 種族レベル30まで、というのは、やはり人間種族召喚者プレイヤー向けの話だ。正直、全く足りないと言っていい。

 とか思いつつ返答すると、フライリーさんからすっごい尊敬の視線を向けられていた。うん。尊敬してくれるのはありがたいけど、恐らくはあなたも通る道だぞ?


「……うん? お嬢、卵時代長くね?」

「え、ごしゅじんが僕を呼び出してくれた時は骨でしたよー?」

「骨???」


 そしてさらっと暴露される過去。

 いやまぁ隠そうとして隠してた訳じゃないからバレるのは良いんだけど、最初この世界に召喚された時は幽霊だったって言って、信じるかねぇ? っていうのが、ね?

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