第91話 8枚目:戦力差
「我らが“翼持つ神々”が、試練の場を用意してくださった! そちらの灰色仔竜が真に我らの英雄の主としてふさわしいなら、正々堂々とその実力を示すがいい!」
3人でしばらく考えていると、解決策が向こうからやって来た。しかし、灰色? ……なるほど。銀ではなく灰色に見えていたか。
「よーしちょっと待ってろお嬢、大丈夫だすぐに済む」
『いやその解決だとまずいと思ったから向こうの神様が場を用意してくれたんでしょ。エルル、すてい。どうどう』
「ぴゃあああああごめんなさいご勘弁くださいー!」
その色違えはエルルにとってはブチ切れ案件であったらしく、腰に下げた妖精族に作ってもらった剣ではなく、背中に背負っているドラゴンとしての力を固めた剣に手をかけていた。ストーップ。スートーップ。
……慌てて謝りだすルチルの反応が正しいんであって、その、伝言を伝えに来たルチルより一回り大きな、鱗みたいに茶色の毛が入ったカナリアさん(喋った時点で【人化】した・中年に足かけた青年)のイラっとしたかつ意味が分からんって顔はやめた方が良いと思うんだけどまぁ言うまい。
「……お前ら、本当に、心底、お嬢に感謝しろよ……」
「は?」
「はぁ?」
『ストーップ。今は何言っても話半分以下に取られるんだからストーップ』
何とか剣の柄から手を離して、どうにか怒りを抑え込みましたって声のエルルに対し、鼻で笑うとかどういう神経してるんだろうね。あんた1回ドラゴン姿のエルル見てる筈でしょうが。
勝てると思ってるんかねぇ? とルチルに視線を向けると、ばばばばば、という感じで頭を横に振るルチル。だよね。無理だよねぇ? というか、このぐらいの集落ならたぶん、ブレス一発で跡形も残らないぞ?
エルルと私に対してやたらと強気な歌鳥族の態度の理由が分からず、内心首を傾げつつ案内役だったらしい形容が微妙な年頃のカナリアさんについていく。え、流石に真面目な場面だから自分で歩くよ? ちょっと忙しいけど別に疲れる内には入らないし。スタミナも随分と付いたもんだ。
「我らの守護神である“翼持つ神々”の、釈明の機会を与えるという寛大さに感謝する事だな!」
「ん?」
『あ、なるほどそういう事か』
当然、猫サイズな私に対する配慮などは無く、自分の歩き方だろう大股で歩いていたカナリアさん。別に苦労はしなかったから良いものの、エルルの機嫌が更に下降した。だから背中の剣に手をかけるのはやめなさいってば。
そして辿り着いたのは、ご神木っていうのが一番近いだろうか。幹に広げた翼が彫りこまれ、洞の入り口が装飾されている、一際巨大な樹の前だった。あの樹の洞が神殿になっているのだろう。
そしてその樹の根元近くに、恐らく、歌鳥族が強気になっている原因……じゃないかな、という存在が居た。
「あん?」
「日本○国の軍服? コスプレ?」
「俺らが一番乗りだよな?」
「いや待て、確かどっかで話聞いたことが……」
人間種族が6人。武装していることとその会話の内容及び固まり方から、多分
「あっ」
「何?」
「あー! あいつ、軍服、そうだあいつだよ! 大神殿前で、仮にも神からもらった剣を腕で受けて逆にへし折った奴!!」
「げぇ、ってことは魔物プレイヤーかよ!?」
「いや正しくはテイムされた奴の筈だけど、おいどーすんだ、あんな化け物が居るとか聞いてないぞ!」
……まぁ内情はこの通りな訳だけど。
エルルの方を見ると……うん。状況や背景を同じく理解したようで、大変微妙な顔をしている。まぁ、歌鳥族からすれば人間種族
「……ん? てぇ事は、何? あれなの? 俺、竜の姿見せた上で、あれより弱いとか思われたのか……?」
「ごめんなさいー! 僕からするとあり得ないんですけど本当にごめんなさいー!」
いかん。エルルが気づかなくていい事に気づいちゃったぞ。
…………そして一番ダメなのは、向こうとこっちのやり取りを両方聞いても態度を改める気配も無いあなただからな、案内役のカナリアさん?
そろそろ気づこうぜ……浮輪であっぷあっぷしているあんた達が頼った船は帆も無いような小舟で、こっちは空母だって。
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