第87話 8枚目:奉納物と神様

「は? 一番上を薄板一枚剥がしたかった?」


 レア度高すぎ問題の対象となっただけあって、石の粉となってもまだアイテムとして回収できた「空間石(粉)」。結構な量となった革袋入りのそれを自前のインベントリに突っ込んで何をやりたかったのか説明という名の言い訳をすると、エルルは何言ってんだこいつ、という顔をした。

 そのまま、何故か最大サイズの立方体を削りだすように言ってくる。まぁボックス様に捧げる分には多いほどいいので、さくさくとデコボコを無くして綺麗な立方体を作ると。


「っし!」


 …………そう言えばエリート士官軍ドラゴンだったね、エルル。私が苦労して苦労して削りだしたのの半分ぐらいの薄さを、横薙ぎの剣閃一発で切り出したよ。

 しかも断面も綺麗なんだこれが。私がやったら糸鋸でガリガリ削る分断面酷い事になるけど。いやまぁあとで磨けばいいんだけどね?


「これでいいんじゃねぇの?」

『ソウダネ』

「?」


 とりあえず、ボックス様の「庭」を再現する方にはエルルが切り出してくれた方の石を採用。綺麗な薄板となった「空間石(石材)」を万一が無いようにインベントリに入れて、慎重に上だった部分を正面に持ってきた。

 そのまま、ガリガリと削っていく。中身を全部粉にしてしまうのは流石に勿体ない気がするので、塊で取れるところは取っていくつもりだ。もちろん出来上がりが優先だけど。

 途中でエルルに強制的に引き剥がされてご飯タイムだったりブラッシングされたりしつつ、今度は慎重に、底を突き破ったりしないように、長さを測りながら慎重に、エルルが切り出した薄板と同じ厚みの空箱状に、石の塊を削っていく。


「捧げる相手は大体分かったけど、お嬢これ、何モチーフ?」

『別の世界のボックス様の神域』

「…………マジ?」

『マジ。ちなみにもうない』

「マジ!?」

『大マジ』


 内側も綺麗に磨き上げて真っ白に塗ったら、エルルに手伝ってもらって開いた面を上にする。こちらもエルルに手伝ってもらい、底の部分にあの谷底でゲットしておいた土を敷き詰め、作っておいたミニチュアのガーデンパーツを配置していった。

 スクショと見比べて出来上がりを確認する。今度は別のスクショを取り出して、上空に浮いていた飾りを再現していく。その中に明かりもあるので、これで明るくなるだろう。

 空中に固定する為のパーツの作り方は人魚族の細工師さんや神官さんに教えてもらった。ほら、信仰対象が大体全部海の神様だからさ。水しぶきとか表現するのに使うらしいんだ。


「はー……で、反射的にこの光景を絵にして、笑って許して貰えたから大事に持ってたと……」

『ボックス様ほんと最高。その最高さを返せるとか最高でしかない』

「因果は巡るっつーが、まさか異世界経由で巡るとはなぁ」


 上から見た時と中から見た時では若干見やすさが異なるので、そこは修正させてもらった。そしてエルルに切り出して貰った薄板を取り出して、内側に当たる面に人魚族の神官さん達に教えてもらった特殊な書き方とインクで、巡る太陽と月を描く。

 神殿の天井に使われる画法で、実際の太陽と月の巡りに合わせて光量が変わるらしい。つまり、擬似的な昼と夜の再現という訳だ。

 最後に向きを合わせ、位置を合わせ、慎重に蝶番を取り付ける。ここで石が割れたら大惨事……なのだけど、うん。流石エルル寸分の狂いも割れも無い。


『で、最後に表面を白く塗ってー』

「あ、中だけかと思ったら表面もか」


 内も外も綺麗に真っ白に塗装して、蓋を閉めればー。はい、ボックス様そっくりな箱の完成! 開けたらそこにはいつかのボックス様の「庭」! 私はやり遂げたぞー!

 鑑定してみて名称が「奉納物:空間石の箱庭」となっているのを確認して、速攻でボックス様の神殿に奉納。これが私の信仰で愛だ! ボックス様受け取って!!


ポン!

「うお!?」

『反応はっや流石ボックス様』

「これがお嬢の信仰する神なの!?」

『神様の分け身がプレゼント届けに来てくれるんだよ。最高でしょ』

「だからどんだけ全力だよ……!!」


 多分ほとんどタイムラグ無しで、目の前に唐突に白い箱が現れた。私にとっては見慣れた、エルルにとってはさっき作った物の2周り小さい大きさのそれは、パンパカパーン! というお馴染みの音と共にぱかっと開き……。


「ん?」

『ん?』


 ぽすん、とスクロールを1つ。ぽここん、と、いくつか、エルルの手のひらサイズの白い箱を出して、ぱちん、と消えた。んん? 流石にこれは見たことないぞ?

 まぁボックス様がくれたものなんだ。悪い物ではありえないだろう。とりあえず鑑定と。


[アイテム:スキル【ミニチュア化】のスクロール

説明:スキル【ミニチュア化】を習得できるスクロール

   【ミニチュア化】

    手に入れたアイテムをミニチュアにすることが出来る

    生物の場合は屈服か同意が必要]


[アイテム:異空の箱庭

説明:“神秘にして福音”の神から授けられる神器

神の分け身とほぼ変わらないその箱は、内部が異空間として扱われる

神による創世の真似事が可能となる

手順を踏めば内部世界を現実へと拡張することも可能

異空の箱庭同士を連結し、内部空間を繋げることも可能

*『ワードガーデン』の引継ぎデータが存在します*

*異空の箱庭1つで区画1つ分を引き継ぐ事が出来ます*]


『きっっったぁあああああああああああああああああああああああ!!!』

「うおっ!?」


 何度でも言うぞ。何度でも言うぞ?

 ボックス様、最高!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る