第29話 3枚目:イベント方針

 どうやら100刻みで存在している突破回数報酬の他には、特定の神の試練の突破回数報酬や難易度突破報酬等がずらずらと並んでいる。そしてそこで初めて目にした情報に無い瞼を一度瞬きさせて、顔を上げた。


「コツ(ナヴィティリアさん)」

『はい、何でしょうか』

「コツ? コツコツ、コッ。コツコツ(うちの子たちに伝言をお願いできますか? 出来るだけボックス様の試練を優先してほしい、と。もちろん実際どうするかは自由ですが)」

『分かりました。お伝えします』


 まぁ報酬はいい。白紙のスキル書とかレアスキルのスキル書とか、武器とか防具とかアクセサリとかポーションとか、生産道具とかレア素材とか、良い物だけど今の私には使えない。

 ただ。ボックス様……“神秘にして福音”の神の試練の報酬は、ちょっと特殊だった。何故なら、その殆どが何かしらの強化に必要なアイテムだったり、機能を増やすアイテムだったからだ。

 特に「インベントリ強化 重量+10」とか「容量+1」とか、こんなもの必須級だろう。これが一定回数ごとの報酬に確定で用意してあるとか、相変わらずボックス様最高か。……それに。


『ありがとうございます、ルミル様』

「コツコツ。コツコツコツ、コツコツ(私も自分の為ですよ。自分が信仰する神の知名度や格が上がって欲しいと願うのは、当然のことですから)」


 試練突破ごとに、その試練を担当している眷属が仕える神の知名度と格、つまり力量と権限が上昇する、と……その、突破報酬が並んでいるページに書いてあったのだ。

 そしてこちらは、上げれば上げるほど上がりっぱなし……ではなく、他の神との競争だった。つまり、神同士の予算の取り合い、或いは発言権競争の一面もあった、という事だ。

 ……何となく、薄々勘付いてはいた。元々ボックス様が司っていた世界がコトニワであり、そこが衰退し、維持できなくなったから他の世界に移ったのであれば。そしてその先がフリアドであるのなら。


「──コツ、コツ(あんな善良で誠実な神様が報われないなんて、そんなの世界が相手だって許さない)」


 その地位は、権限は……低いだろうって。

 そしてその薄々の勘付きは、今回このイベントページで明確な数字として証明された。……4桁近い神がいて、3分の1程の邪神を除き、ほぼ最下位。それがボックス様、“神秘にして福音”の神の立場だった。


『ルミル様』

「コツコツ、コツ。コツコツコツ(別に世界を滅ぼしたい訳じゃ無いですので、ご安心を。ただ可能な範囲で押し付けない程度の布教をするだけです)」


 とりあえず、掲示板の神々の報酬をまとめた掲示板にボックス様の試練実績報酬を書き込む。魔物プレイヤー専用掲示板にも流した。うちの子に優先クリアを頼んだだろって?

 大丈夫、クリアされれば新しいダンジョンの作成権が与えられる仕組みだ。つまりクリア数が多くなればなるほどボックス様管理のダンジョンが増える。すなわち、クリア数は加速度的に伸びるという話だ。問題は、無いな?

 ……魔物プレイヤー専用掲示板で「第一候補」から、「我が復活を目指す神の領分まで食い荒らしてくれるなよ?」とか釘を刺されたが、



493.第三候補

そちらはそちらでどうにかして下さい

一応伝えはしますが、私は私の信じる神が優先です


494.第二候補

まぁ第三候補であるからのう

そこは今まで通り、協力できる範囲で協力するしかなかろう


495.第一候補

それは確かにそうであるな

第三候補が深く敬愛するだけあって、報酬の魅力が違う


496.第五候補

ほんとね~

あぁもう、どうして使徒ちゃんは3人までなのかしら~


497.第四候補

使徒が召喚型の俺大勝利!

手数って大事だよな、特にこういう時は


498.第一候補

まぁ我は使徒が頑張ってくれたおかげで6人おるがな!


499.第三候補

こちらは5人です

うちの子万歳ですね



 とまぁ、こんな感じだった。つーか例の注意喚起掲示板を見る限り、全員使徒NPCをボックス様の試練に向かわせてるじゃないか。早い者勝ちが徹底してるからいいけど、魔物プレイヤーの使徒NPC同士で潰し合いが起きかかってるぞ。

 まぁそれも含めて宣伝になってるようで、人間種族プレイヤーの間でもボックス様のダンジョンもとい試練を探す動きが出てきたようだ。ははは、挑戦し、突破し、そして突破報酬に気付いてボックス様に感謝するんだな。お礼はダンジョン攻略で。

 ……そんな事を、尻尾をばしばし地面に叩きつけながらやっていると、ナヴィティリアさんから再びのお声がけがあった。


『ありがとうございます』

「コツ。コツコツ(ただ報酬に釣られて動いているだけですよ。あの「庭」を管理していた時と同じです)」

『それでも。

 ────ありがとうございます』


 この時、私は気づかなかった。

 目がほとんど見えないから。そして音声とは言え、文章の読み上げ機能に近いそれでは、感情が乗らないから。

 ナヴィティリアさんが言葉を継いだ空白に、深い祈り、感涙、万歳の絵文字と……ころんころんこんこん、と、軽快に跳ねるボックス様の動画、つまり、最大級の喜びを示すそれが、描き出されていたことに。

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