キミとボク

ネオン

キミとボク

四年に一度 二月二十九日 ボクは人々から存在を忘れられてしまう。

例え何をしていても周囲の人に認識されない。

初めて自分が認識されていないことを理解したのはいつのことだっただろう。


覚えているので1番古いその日。

ボクは両親に話しかけても無視された。

触ろうとしても触れなかった。

まるで最初から自分が存在していないようだった。

その時のボクはまだ幼くて、どうすればいいのか分からず、大声で泣き喚いていた。

ママ、パパと何度も何度も何度も呼んだが気付いてくれなかった。

そうしていてどのくらい経ったのだろうか。

「大丈夫、泣かないで」

ふと後ろからそう聞こえて来たのを今でもよく覚えている。

後ろを振り向くと、少女が立っていた。

一体どこから現れたのか。

当時のボクはそんな疑問すら抱かなかった。

ただ、その声を聞いて何故か安心した。

不思議と気持ちもだんだんと落ち着いていった。

いつのまにかボクは泣き止んでいた。

そして、その少女の側でいつのまにか寝ていたようだった。

次の日、朝起きるとちゃんと自分の布団で寝ていた。

両親にしっかりと認識されていた。

それがとても嬉しかったのだろう。

両親がボクのことをしっかりと見てくれた時、泣いてしまった。

そして、抱きついて両親に触ることができたことが嬉しくて、さらに泣いてしまった。


そんな出来事からどのくらい経ったのだろうか。

もうボクは四年に一度起こる不思議な現象には慣れてしまっていた。

そして、その日には必ず謎の少女に会う。

その日は何もすることがなく暇だからいつもその少女と会話をしている。

二人でふらふらと適当に何処かに行く事もある。

ただ意味もなく、思うままに、ただ何となくいきたいと思う方へ。

どこまでいってしまっても大丈夫だ。

その日が終わって朝が来ればいつの間にか自分の部屋の布団の中にいるのだから。

まるで何もかもから解放されているようだ。


一度その少女に、何故毎回会うのか、と尋ねたことがある。

「あなたの存在を分けてもらってるの。だからいつもあなたのそばにいる。」

と、答えが返ってきた。

さらにボクはボクが人に認識されなくなるのはそのせいなのか、と尋ねた。

「たぶんそうだね。四年に一度のこの日だけあなたは存在していて、存在していない。あなたは存在することができない。ワタシは存在していなくて、存在している。ワタシは存在することができる。」

「ワタシにもよく分からないんだけどね。きっと、世界には存在できる人の量が決まっていて、ワタシが存在することで限界を超えてしまう。だからあなたと存在を分け合っているんだよ。たぶんね。」

と、その少女は答えた。


ボクと少女はその日はこの世のものでもあの世のものでもない。

その狭間に存在しているものだろう。

ボクがこの狭間に来ることができる限り不思議な少女に会うことができる。

ボクがこの狭間に来ることができる限り不思議な少女は存在できる。

そしてボクは名前も何も知らない少女に会うことを楽しみにしている。

まるで織姫と彦星のようだ。

いや、織姫と彦星の方がまだ良い気がする。

だって、一年に一度は会えるんだから。

こっちは四年に一度だ、織姫と彦星がとても羨ましい。


いつボクに起こる不思議な現象が起こらなくなるかもわからない。

起こらなくなるということは少女に会えなくなる。

少女に会って話すことはボクにとってはとても重要なことだ。

何か悩みとかがあっても、少女の大丈夫、という言葉があるだけで本当に大丈夫な気がしてくる。

少女に助けられたことは数えきれない。

そして、少女はボクが狭間にいくことができないと存在できない。


ボクが存在することに少女は欠かせない、そして、少女が存在することにボクは欠かせない。


二度と会えないわけではないから四年に一度でも少女なら会えるならそれで良い。


願わくばいつまでも少女に会うことができますように……。



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