2-4

「ねぇ、ヨーエロ。ヨーエロは、夏と言えばどこ行きたい?」

 鏡子とお茶した日の夜、いつものように部屋のパソコンからアリスに繋ぎ、マンションの部屋でヨーエロと会った。まっさきに昨日のことを謝罪し、ライブに言ったことを知って、その感想を聞いた。

 どうやらヨーエロもバンドのことを気に入ってくれたみたいで嬉しくて、昼間の下心云々の話はすでに頭から消えていた。

 そうなってしまえば後はもういつもと同じだった。何気ない話をして、たまたま鏡子との会話を思い出して、訊いてみた。

「夏といえば? ……?」

 目の前のヨーエロが首を傾げるアクションをする。そしてそれから一分ほどの沈黙が続き、

「夏に出かけたことがないからな、僕。よくわからない」

「出かけたこと、ないの? 夏休みに?」

「ずっと勉強漬けの日々だったんだよ。学校が休みでも勉強をしなくていいわけじゃないから」

 彼の言葉は衝撃だった。イコにとって、夏休みは遊んで遊んで遊び倒すものだ。そして最後の三日くらいで溜まった宿題を片付ける。それが、イコが今まで経験してきた夏休みだった。

(そっか、頭のいい学校行ってるんだっけ)

 きっとイコにはわからない厳しい現実をヨーエロは知っているのだろう。進学校と一般校では勉強の量も質も、そして生徒の考え方もなにもかもが違うのだ。

「友達らしい友達もいなかったしね。両親も仕事が忙しいからあまり家に帰ってこないし」

 こう思ってしまうのはヨーエロに失礼かもしれないが、それはとても寂しいことのようにイコは感じた。

 勉強はもちろん大事だろう。でも勉強をしているだけではわからないこともある。楽しいことは山のようにある。それを、ヨーエロは知らないのだ。

「そうだっ」

 閃いた。

 イコの声にヨーエロがびっくりして声を上げる。

「昨日のライブのお詫びに、ヨーエロが行きたいところに連れて行ってあげるよっ!」

 鏡子が聞いたらもしかしたら「期待させるようなこと言うな」と怒るかもしれない。でも夏休みに遊んだことがないなんて可哀想だ。

 イコがこうして今年の夏休みを満喫できているのは、ヨーエロが自分の時間を割いて勉強を教えてくれたからだ。ならば自分もそれに見合ったお礼をしなくてはいけない。昨日のライブの件もあるわけだし。

 勉強は確かにヨーエロのほうができるだろう。でも、遊ぶことに関しては自分のほうが優秀だと思った。

「どこでもいいよ。だから、考えておいてねっ」

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