1-9
学校が終わって家に帰る。イコは部屋に戻ると制服のまま椅子に座ってパソコンを立ち上げた。今日、学校が終わったらアリスでヨーエロと会うことになっている。そこでテストの結果を発表するのだ。
最近では通い慣れたマンションの廊下を歩き部屋へ。パスを入力して部屋に入る。するとそこにはすでにヨーエロが待っていた。
「どうだった?」
「……」
ヨーエロの声にも緊張感が感じられた。
ついに結果を報告する瞬間がやってきた。イコはパソコンにショートカット登録されているアクションキーの一つを押す。それに合わせて画面の中でアバターのウルズが動いた。
ウルズは――ヨーエロに向かってピースサインを繰り出していた。
「なんとか補習と追試から逃れましたーっ」
教室で見た数学の点数は、三十六点。本当にぎりぎりだったが、それでも赤点を免れたことは事実だ。そして赤点も二つだったため、夏休みに補習と追試はない。
「お、おおっ」
自分の口で報告すると嬉しさがこみ上げてきた。イコはショートカットキーを連打してウルズにアクションをとらせる。画面の中ではウルズが飛び跳ね、ハートマークが乱舞していた。
「ありがとぉ。これもヨーエロのおかげだよぉ」
本当にその通りだ。ヨーエロがいなければ、もう間違いなくイコは赤点補習追試の三連コンボを食らっていたに違いない。しかしそう考えると、やはりこの部屋がブッキングしたのは運命のように感じる。
それくらい嬉しかったし、感謝もしているのだ。
もうこの感謝は言葉で言い表すことなんてできない。高校二年の夏休みは、青春は、当人たちにとってみれば何よりも貴重なのだ。
「ねぇ、ヨーエロ!」
だからもし、補習と追試を逃れたら彼に言おうと思っていたことがあったのだ。
一緒に喜んでいてくれたヨーエロが動きを止める。
「本当にヨーエロのおかげで助かったんだ。だからね、なにかお礼しようと思うの!」
ヨーエロは貴重な自分の時間を割いて勉強を教えてくれた。そのおかげでイコは補習と追試から逃れることができた。ならば、なにかお礼をするのは当然だった。今はまだ明確に内容を決めてはいない。でも近いうちに必ずお礼をしようと、イコはそう決めていたのだった。
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