第235話 迷路館の戦い『緊急呼び出し』


 オレとアイはさらに迷路館の奥を目指して進むことにした。


 「マスター。ヒルコからの報告ですが、敵が何者かにすでにやられていたとのことです。」


 「え……!? それってどういうこと?」


 「ヒルコが敵に遭遇する前に、その敵がすでに何者かに倒されていた……ということです。」




 「つまり、誰かオレたちと敵以外に、この迷路館に侵入者がいる……ってこと?」


 「Exactly(そのとおりでございます)! マスター。ご理解が早いですね。」


 「いやぁ……、それほどでも……って言うより、何者なんだ? まさかアテナさんたち……? なわけないよなぁ……。」


 「そうですね。アテナさんたちはこのトゥオネラの上空で空中戦線の真っ只中かと推測します。敵方は『不死国』第五軍・ピグチェン竜公がおります。そう簡単に片付かないでしょう……。」


 「そうだな……。じゃあ、いったい……、何者なんだ……?」


 「はい。ヒルコにこのまま追跡させています。」


 「おっけー。……ヒルコ! 気をつけるんだぞ?」





 オレは何気なくヒルコに声援を送るつもりで、声をかけた。


 すると……。


 (わぁー! ジン様! 大丈夫だよぉー! 僕のこと心配してくれるなんて……。やっぱりジン様は相変わらず優しいなぁ……。)


 (おお!? そうか! 思念通信はつながるのだったな……。頼んだぞ! ヒルコ!)


 (あいあい!)


 うん。ヒルコはやっぱり可愛いなぁ。


 (うわぁ……ジン様! 好き好き♡♡)


 ヒルコの心の声がこちらにも聞こえてきた。


 ……なんだか照れちゃうなぁ。




 「よし! アイ! オレたちも奥に進むぞ。トゥオニ王の部屋に先に到達するのは……、オレたちだ!」


 「イエス! マスター!」


 迷路はまだまだ先に続いている。


 空間と時間がねじれているようにも感じてくる。


 行けども行けどもゴールに辿り着く気配がしない……。


 途中、何度も部屋を通り抜けるが、全てに死の罠が仕掛けてあったのだ。


 部屋にはなぜかネズミの印がところどころに刻まれていた。




 昔、見た映画で、目覚めたら謎の巨大な立方体の集合体の中だった――っていうのがあったな……。


 閉じ込められた男女6人。死のトラップ迷宮、出口はあるのか?


 そういったストーリーだったと思う。


 今、まさにそんな感覚だ……。




 「マスター! 今まで数多くの部屋を抜けてきましたね?」


 「ああ。通路と部屋、部屋と通路、その繰り返しだった……。」


 「今、マスターがお考えになっておられた死の立方体迷路……、それが答えかもしれません。」


 「なんだって!? ……つまり?」


 「はい。なにかの暗号になっているのです!」


 「ああ! なるほど! ……って、どういう暗号!?」




 「ネズミ、迷路、……、死の罠、なにか、思い出しませんか?」


 アイがオレに期待するかのようなキラキラした目で見つめてくる。


 いやぁ……。


 ネズミと迷路といえば、そういう実験があったな……、迷路実験だったかな。


 迷路実験(めいろじっけん)とは、動物行動学などにおいて、動物に迷路を通らせる実験のことで、動物の学習能力などを研究するために利用されたものだ。




 「マスター!! さすがです! その通りです! 本当はネズミに迷路を進ませてゴールまで導かせることができたのでしょう。だが、何者かがそのネズミを倒してしまった……。」


 「そうか……!? なにかの鍵がなければこのまま出口のないゴールを彷徨い続けるってことか!?」


 「おそらく……。」


 「なるほど……。じゃあ、ネズミを連れてくればいいんじゃないか!?」


 「え……!? マスター! そのアイデア、いただきました! すごい……。この超人工頭脳のワタクシにはその発想は出てきませんでした!」


 「いや……。そんな大したことじゃあないよ。」




 ん……?


 しかし、ネズミを連れてくる?


 誰をどこから!?


 その前に、ネズミって……?




 「マスター! お忘れですか? 我が『イラム』の街に住んでいる月氏一族は……?」


 「あ……! そっか。月氏はネズミの一族だったわ! 灯台もとぐらしってやつだな。」


 「そのとおりです。ネズミのチカラを借りましょう!」


 「でも、どうやってっここに呼ぶんだ?」


 「ふっふーん。マスター。月氏のジュニア殿やジロキチにはセコ・オウムに加入させているのですよ。」




 「おお! セコ・オウム、入ってますか?……ってやつだな。」


 「Exactly(そのとおりでございます)!! ということで、さっそく次元回路をつないで、彼らを呼び寄せましょう!」


 「さすが、アイ! 仕事が早いな!」


 「とんでもございません! くっふぅ♡」


 そう言って、アイがその手を天にかざした……。





 *****






 アーリくんとジロキチ、オリンの3匹はそのころ、商談で『ポホヨラ』の街に来ていた。


 国際魔法使い協会、通称・魔協の代表である『24人の長老たち』のいち員としても名高い魔女ロウヒに『ポホヨラ』の交易許可をもらいに来ていたのだ……。



 『ポホヨラ』の支配者は強大な力を持つ魔女・ロウヒである。


 『エルフ国』ニュースオミ種族の街『エル・ドラード』の偉大な鍛冶長であるセッポ・イリマリネンは、彼女の命令で神の臼『サンポ』を鋳造し、彼女の娘と結婚することを条件にサンポを彼女に引き渡した。


 『サンポ』とは、ギリシャ神話における『コルヌコピア(豊穣の角)』のような、豊穣をもたらす魔法の挽き臼で、それは『ポホヨラ』の人々に大量の穀物を生み出した。


 星々が埋め込まれ、世界の柱を軸として回っている『サンポ』のchurning lid(チャーニング・リッド/かき混ぜるふた) は、天の円蓋(星空)の象徴なのだ。




 また魔女ロウヒの娘(ポホヨラの娘)との結婚を望んだ者たちの中には、冒険家・レンミンカイネンや大賢者・ワイナミョイネンも含まれていた。


 ロウヒは彼ら求婚者たちに、例えば『トゥオネラの白鳥』を射るような、『サンポ』の鋳造と同様の偉業を要求したため、これに成功する者はなかった。


 ロウヒの娘とイリマリネンの結婚式には『ポホヨラ』の大広間で盛大な結婚式と大宴会が催されたのだった。





 「だめだ! だめだ! いかに『黄金都市』との交易許可証があろうとも……。この『ポホヨラ』で好き勝手に商売ができると思うなよ?」


 「そんな……!? 我が『ルネサンス』は、ワイナミョイネン様やレンミンカイネン様にも問題なく交易させていただけるお墨付きをもらったのですよ!?」


 アーリくんがロウヒに訴えかけるも、ロウヒはワイナミョイネンやレンミンカイネンの名を出すとよけいに態度を硬化させたのだ……。




 実は……、イルマリネンに秘宝『サンポ』を制作させたロウヒだったが、しかしこの宝物は、カレワラの詩人で英雄ワイナミョイネンとイルマリネンによって盗み出され、彼らと後を追っかけたロウヒが激しく争ううちに、粉々に壊れてしまったのだった……。


 怒ったロウヒはその後、黄金都市『エル・ドラード』に悪疫や猛獣を送ったり、太陽と月を捕らえて隠す魔法で『黄金都市』を暗闇に陥れるなど、さまざまの仕業によってワイナミョイネンを悩ませたことがあるほどの仲ノ悪さなのだ。


 今はいっとき『不死国』との戦争で協力関係にはあるが、平常時は商売でもライバル関係にある。


 そんなロウヒなので、アーリくんたちもほとほと交渉に難航しているというわけだ。




 「アーリくん? 今、大丈夫?」


 「あ、はい! あれ!? その声は……!! アイ様……ですか?」


 「むむ……!? なんじゃ? その虫みたいなのは……! 喋っておるというのか!?」


 「はい。これは遠方にいるアイ様とも話ができる画期的な魔道具なのです! えっへん!」


 「なんだってぇ……!? 遠方の者と呪文を唱えずとも会話ができる……だと……!?」




 どうやら、魔女ロウヒはセコ・オウムにいたく関心を寄せたようだ……。


 「えーい! アーリくん、オリン、ジロキチ! すぐにジン様の元へ来るのです。」


 「し……、しかし……商談が……。ま、いいか! ……というわけで、ロウヒ様! 商談の話はいったん……キャンセルの方向で!」


 アーリくんがすかさず手のひらを返すかのようにして、アイの言うことを優先させたのだ。





 「いやいや……! ちょっと待って待って! 商談……つか、その魔道具……、ぜひ欲しい!! わかった! 『ポホヨラ』は『ルネサンス』と交易をしようじゃあないか!! ちょちょちょ……、どこに行くんだぁあーーーーーっ!!」


 ロウヒが叫んだのもすでに時遅し……。


 アーリくんたちは次元回廊を通って、『トゥオネラ』の街へ転送されたのであった……。




 魔女ロウヒの前に『トゥオネラの白鳥』の羽が、ふわふわと舞っていたのでした……。


 「……こ、これは、まさか……。かの不死の白鳥の羽……。『ルネサンス』のジン……、聞きしに勝る英雄というわけか……。これはこちらから出向いてでも仲良くせねばならんな……。」


 ロウヒのつぶやきはもうアーリくんたちには届いてはいなかった……。





~続く~



「続きが気になる!」


「面白かった!」


「まあ、読んでもいいけど!?」


と思ったら、


タイトルにある ☆☆☆ から、作品への応援よろしくお願いいたします!


面白かったら☆3つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


フォローもいただけると本当に嬉しいです(*´ω`*)b


何卒よろしくお願い致します!!



あっちゅまん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る