第234話 迷路館の戦い『双子じゃあないか!』


 ぽよーん!


 ぽよーーっん!


 ぽよぽよーん!




 メイド姿のヒルコがスライムらしく、弾むように飛び跳ねながら進んでいる。


 目の前に、広間が見えてきた。


 「あ! もしかして……!? トゥオニ王様の部屋に着いちゃった……かも?」


 ヒルコがそう言って、勢い勇んで部屋に入る。




 「え……!? どゆこと!? これ……。」


 ヒルコの眼前にはネズミ種族の者たちが、見るも無残にバラバラにされているという光景だった……。


 首と胴体が切断されている者たちや、ズタズタに切り裂かれている者たち……。


 中でも最もひどいのが、グシャグシャに押しつぶされたかのような者だった。




 「うー……ん……。ネズミはネズミでもアーリくんたちとは違う種族のようだねぇー。」


 ヒルコはただ冷静だった。


 (もしもし……! あ! アイ様? こちらヒルコですぅ!)


 アイと思念通信をつなぐヒルコ。




 (どうしました? ヒルコ。王の間を見つけましたか?)


 (いえ……。それが……。待ち構えていたかと思われる敵が僕が来たときにはすでに全滅していたんですぅ!)


 (なんですって……!? 視覚共有……ON……!)


 アイがヒルコの視覚を共有モードに切り替えた。




 その惨憺たる情景に、アイも驚いた。


 (ふぅむ……。この残存物質からは……、まさか!?)


 (アイ様……? なにかわかったのですか!?)


 (いえ……。……誰の仕業かはわかりませんが、恐ろしいまでのチカラを持っているのは間違いないでしょうね。)


 (アイ様! 僕がこのまま奥を調べに行ってくるよ?)


 (はい。十分に気をつけて行くのですよ? ヒルコ。セコ・オウム……、忘れずにね?)


 (はいはぁーい! わかってますよぉー!)


 ヒルコはまた奥に向かって進みだした。





 *****





 カストールたちが前後に立ちふさがっている。


 「おまえのそのチカラ……。魔力の起動をまったく感じないなぁ? ……まさか、あの『虚空』のチカラか……?」


 「……『虚空』だって? 魔力とはまた違うのか……。」


 「カストールよ! そんなことは今どうでもいいじゃあないか!? アレをやるぞ!」


 「おおさ! ポルック……、いや我が分身よ!」


 「いや……! 今、名前呼んだよね? ポルックスって……。やっぱ双子じゃあないか!?」


 「いや! 二重分身・ダブルだ!!」





 カストールたちが二人同時に、亜空間の刀身と実体の刀身と相乗させ、4連撃へと変化させた!


 さらに、その初撃の4連撃から72秒角離れた位置から、この4重連撃と同じ視差と固有運動を持つ亜空間の不可視の一撃を繰り出す!


 カストールたちは亜空間を含めた重力的に縛られた6重連撃を時間の狂いなく、二人揃って12連撃を繰り出したのだ!




 (マスター! 解析完了です!)


 「おお! さすが、アイ!! オートモード起動!!」


 アイがカストールたちの技の動きをトレースし、解析完了したのだ。


 オレは超ナノテクマシンの自動制御に身を任せ、防御に徹する。




 シュバババババ……



 カストールの凄まじい連撃を恐ろしく機械的にオレとアイがかわしていく。


 残像が見えるくらいの動きに、普通ならば耐えられないほどの衝撃が来るのだが、それを超ナノテクマシンの制御で受け流しているのだ。




 「なん……だと!? 俺たちのこの攻撃をかわすとは……。」


 「カストールよ! もう一度やるぞ!」


 「おおお……!!」


 カストールたちが再び、技を仕掛けようとする。




 「こぉのぉおおお! もうおまえたちの動きはすべて予測がつくのですよ!! 『プラネタリウム・サテライトシステム』展開っ!!」


 アイがすべてを立体的に完璧に予測する。


 そのうえで、その動きに合わせ、アイが超ナノテクマシンのエネルギーを左手に集中させていく。



 「マスターにデザインしてもらったこの至高の服の落とし前、つけてもらいますわ!」


 アイがその左手を銃に見立ててカストールたちに向かってかまえ、そこから周囲の超ナノテクマシンの一つ一つが作り出したエネルギーが波動となって、膨大なエネルギーの塊がそのパワーを集結させ、マーキングしたカストールたちのひとりひとりに向かって、破壊光線を打ち出し命中させたのだ!


 サイコキネシス粒子砲……。あの伝説のアニメ『キング・コブラ』の主人公の必殺技じゃあないか!


 感動だわ……。テンションあがるなぁ。




 カストールたちが同時に吹っ飛び、地面に倒れ込んだ。


 「アイ! すごいな! その技、かっこいいじゃあないか!」


 「まあ! マスター! マスターのお気に入りの『神アニメ』から参考にさせていただきましたのですわ!」


 「うんうん! あのアニメは最高だよな! うん。だけどさ、それなら『サイコキネシス粒子砲』はオレが撃つ役回りじゃあないの? アイはどちらかというとその相棒の『アンドロイド・レディ』だと思うんだけど……。」


 「あら……。そう言われればそうですわね。これは大変失礼いたしました!」


 「いや……。別にいいんだけどさ。……今度からその技、オレが使ってもいい?」


 「イエス! マスター! もちろんでございますわ!!」


 「あ……、ああ、ありがとうね!」




 カストールと、おそらくその双子のポルックスがそれぞれ倒れている。


 「マスター! カストールはそのスキルで分身していたのではなかったようです! カストールは二人いたのですわ!!」


 「お……、おぉ……。双子じゃあないか?」


 「まあ!? さすがマスター! お気づきになっていたというのですか!? すごいですわ!」


 「いや……。そ、そうか? まあ、いいや……。」





 「マスター。それより、コイツラはどうされますか? このまま放置して置かれますか?」


 「え……? あ、ああ、そうだな。まだ息はしているみたいだな……。」


 「はい。カストールAのほうは重傷でおそらく再起不能ですが、もうひとりのカストールBのほうは回復しつつあるようです。」


 「いや、カストールABって! まあ、いいけど。そうだなぁ……。」




 ギリシャ神話によると、厳密にはカストールとポルックスは双子ではなく、カストールとクリュタイムネーストラーがテュンダレオースとレダとの、またポルックスとヘレネーはゼウスとレダとの間の双子であるのだ。


 一種の重複妊娠で、人間では極めて珍しい。


 つまり神の血を引かないカストールは弟と違って不死身ではなく、そのため戦争で矢が当たり死んでしまったとされている。




 ポルックスは『不死』なので、回復しつつあるのだろう……。


 「うん。この場所に縛り付けておくことは可能かな?」


 「イエス! マスター! 重力操作で『重力鎖縛』をかけておきましょう。仮に目覚めても剣や魔力で重力は切断できないでしょう……。」


 「なるほど! それはいいね。頼むぞ!」


 「っくぅ……! イエス! マスター! おまかせを!」


 アイが嬉しそうに、カストールとおそらくはポルックスに『重力鎖縛』をかけていく。




 しかし、アイの超科学はあらためてすごいな。


 重力の歴史はアイザック・ニュートンが、天体の運動も地上の物体の運動もひとつの原理で説明できる、とする説(万有引力)を『自然哲学の数学的諸原理』で発表し、アインシュタイン方程式からは、質量(エネルギーに比例)だけでなく運動量も時空を歪め、重力を生む。質量は引力を生むのに対し、運動量が生む重力は、引力でも斥力でもない慣性系の引きずりという形を取るとされ、ブラックホールの存在を予測した。


 オレの生きていた時まででは、素粒子物理学で、一般相対性理論での重力を量子化し、量子重力理論にしようとする試み(量子化された重力は重力子と名づけられている)や、重力は自然界に働く4つの力の他の力である電磁気力、弱い力、強い力との統合が試みられていたのだったが……。


 アイという超人工知能が人間の科学力を進化させ、超発展させたのだなぁ……。


 オレはアイの功績を噛み締めながら、迷路の奥を目指すのであったー。




~続く~


「続きが気になる!」


「面白かった!」


「まあ、読んでもいいけど!?」


と思ったら、


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何卒よろしくお願い致します!!



あっちゅまん



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