第208話 恐竜の街へ『翼竜たちの空』


 コタンコロとアテナのパーティーが大空を突き進んでいく。


 『ケルラウグ川』の上空を飛んでいくと、前の方から数多の『翼竜』がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


 『ジュラシック・シティ』の『翼竜種』の空軍である。



 「アテナの『ミネルヴァ・騎士団(ナイツ)』よ! 総員! 配置につけ! コタンコロ殿! 頼んだぞ!」


 アテナがそうみんなに告げた。




 「おう! では、我の一発をまずはお見舞いしようではないかっ! この一撃を我が主に捧ぐ!」


 コタンコロがその翼を広げ、空中で静止し、くちばしを大きく開いた。



 「敵対的勢力と確認! ただちに迎撃体制に移る!」



 コタンコロは敵の殲滅へと行動に移る。






 コタンコロがその口を開き、迎え撃つために、エネルギーを一点に集中させる……。



 「超・電磁砲ぉーーーーっ!!!」



 ―チュィンッ!!





 次の瞬間には、コタンコロの前方に迫ってきていた『翼竜種』の大半は消滅していた……。




 「恐ろしいほどの威力であるな……!?」


 「うむ。さすがはジン殿のパーティーメンバーだな。桁違いのパワーだ。」


 「我らも負けてはいられませんなぁ……。アテナ様。」


 「そうですね! アテナ様! はりきって行きましょう!」


 エリクトニオス、グラウコーピス、ニーケもアテナと目を見合わせ、戦闘態勢に入る。



 「私たちもアテナ様に続きますよ!?」


 「「おおっ!! 」」


 『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』たちも声を合わせて、アテナさんの支援体制に移るのだった。




 アテナの影『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』の一人、歴史を司るクレイオーが、人類の偉業を讚えるトランペットとその偉業を記した本を手にし、トランペットを情熱的に吹き鳴らした。


 それは聖なる魔力増幅の呪文『アメイジンググレイス』と同じ効果を味方にもたらすのだ。


 「おお! チカラがみなぎってきた! 」


 「クレイオー! 感謝する!」




 「ミューゼスよ! 声を合わせ、楽器を鳴らせ! 聖歌を奏でるのだ!!」


 ミューゼスのリーダー、花冠をつけた音楽の女神エウテルペーがメンバーに声をかける。


 「はい! メロディを合わせ、精神を同調させましょう!」


 蔦の冠をかぶり、羊飼いの杖と演劇を象徴する仮面を手にしている喜劇の女神タレイアがその激に応える。



 「仰げば 尊し 我が師の恩! 教おしえの庭にも はや幾年いくとせ~! 思えば いと疾とし この年月としつき~ 今こそ 別れめ いざさらば!!」


 ミューゼス9名全員で合唱する呪文、レベル6の補助呪文『仰げば尊し』だ。




 複数メンバーで重ねがけする上級バフ(全味方の精神・魔力・肉体強化)呪文で、威力はレベル7の上級バフ呪文『歓喜の歌』に匹敵する。


 「ああっ!? 私の出番が……!?」


 ニーケが残念そうに言う。


 その『歓喜の歌』の呪文を使えるのがニーケなのだ。


 レベル7の呪文を使いこなすニーケはさすがにアテナの従者なのだ。




 「支援呪文……、ありがたい! 行くぞ!」


 エリクトニオスが、魔法の詠唱を始めた。


 『海は荒海、向こうは佐渡よ、すずめ啼け啼け、もう日は暮れた、みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ!』


 以前にも使用していたレベル5の攻防一体の土魔法・砂嵐の呪文『砂山』である。


 詠唱を長く唱えれば唱えるほど、その威力の範囲も広がるのだ。




 その間に、グラウコーピスが翼を広げ、大空を自由奔放に飛行し、敵陣にいち早く斬り込んでいく。


 梟(グラウクス)の騎士がその剣戟を縦横無尽にふるった。



 「ぎぇえええええーーっ……!」


 「ぐぎゃぎゃぎゃ……!?」


 見てる間に『翼竜種』たちがその翼を切り刻まれ、地面に落下していく……。





 『暮れりゃ砂山 汐鳴りばかり すずめちりぢり また風荒れる みんなちりぢり もう誰も見えぬ! かえろかえろよ 茱萸原わけて すずめさよなら さよならあした! 海よさよなら さよならあしたっ!! 』


 エリクトニオスの呪文の詠唱が終わるやいなや、突如発生した巨大な砂嵐がまるで意思をもった巨大な怪物の手のように、『翼竜種』たちに襲いかかる。


 「ぐぎゃ!」


 「ぎゃぎゃぎゃっ!!」


 「ぎゅぎゅーーぅっ!!」


 あちらこちらで悲鳴が飛び交う……。




 『ディノエルフ種・賢種』の長、トロオドン・ステノニコサウルスは後衛の陣地で、その様子を見ていて、慌てていた。


 「さっきのものすごい砲撃はいったいなんだ!? まさか……!? あれは『法国』のじゃじゃ馬女神・アテナではないか!? おのれ! いつもいつも邪魔ばっかりしおって……!」


 「トロオドン様! いかがなさいますか?」


 傍に控えていたレエリナサウラが尋ねる。




 「うむ! ダイノバードに一時退却の命令を出すのだ! このまま闇雲に突っ込んでいけば、ヤツラの餌食になるわい!」


 「了解しました! では!」


 レエリナサウラは、トロオドンの元を離れ、前線の指揮をとっている『翼竜種』のダイノバードの元へ急ぐ。




 プテラノドン、ソルデスがアテナの前に立ちふさがる。


 「おまえが元凶だな!? 死にさらせぇ!」


 「よくも『法国』め! わざわざ遠くまでやってきやがって!」


 『翼竜種』の彼らも吸血鬼に変貌している。




 『二日経れどもニーナは目ざめず、日かげ眉を照れど覚めず。わが笛に覚めずや。目覚めずやニーナ、目覚めずやニーナ、覚めて再び笑まずやニーナ。覚めなばいかにうれしからまし。覚めよやニーナ、覚めよやニーナ!』


 ソルデスがレベル4の闇魔法・エナジードレインの呪文『ニーナの死』を唱えた。


 闇のオーラが現実化し、大きな黒い手になり、アテナに襲いかかる!



 『むすんで ひらいて、手をうって、むすんでまたひらいて、手をうって、その手を上に!!』


 プテラノドンがレベル4の炎魔法・爆裂呪文『むすんでひらいて』を唱え、その手を握った状態から開いた!


 爆発が巻き起こり、その勢いがアテナに襲いかかった!




 二人(?)、二匹の『翼竜種』の長官たちが、攻撃をしてきた。


 「アテナ様!!」


 エリクトニオスの呪文『砂山』の砂嵐の暴風が、やはり同じく巨大な怪物の手となって、爆裂呪文の爆発を受け止め防御したのだ。


 しかし、ソルデスの唱えたエナジードレインの呪文の『闇の手』がアテナを捉えた……!




 ……かに見えたが、アテナが瞬時に、そのソルデスの背後に移動したのだ。


 『天は永遠の栄光を讃え、その響きは御名をあまねく伝える。主を大地は讃え、主を海は讃える。聴くがよい、おお人間よ、彼らの神聖な言葉を!』


 「レベル5の時間魔法・超加速呪文『自然における神の栄光』を唱えていたのだ。


 一瞬にして敵の背後に回ったアテナは、持っていた『アイギスの盾』を前にかざし、魔力を込めた。




 『千歳(ちとせ)の岩よ、わが身を囲め、さかれし脇(わき)の血しおと水に罪もけがれも洗いきよめよ!』


 魔力を込めると石化呪文『千歳の岩よ』と同等の効力を、発する特別な盾なのだ!



 「ぐ……!? ぎゃ……!?」


 「ぎゃぎゃ……!?」


 ソルデス、プテラノドンの動きが止まり、石化していく。




 アテナがその愛槍『黄金の雷光の槍』を前へかざすと、周りにオーラがほとばしるほどの雷光が走り、魔力が凄まじいほどに集中していく……。


 アテナはその槍をソルデスとプテラノドン二人を直線上に捉え、光速で突き貫いた!



 「メイルシュトローム・コンセントレーションッ!!」



 魔力の大渦が一点に集中していき、石化して動きを止められた『翼竜種』たちを貫いた!!


 さらに、その大渦がまわりにいた『翼竜種』の軍勢数千を巻き込み、吹き飛ばした。




 アテナがみんなに振り返り、ニコリと微笑んだ。



 「よし! かたづいたな?」




 その微笑みは、まさに女神級であった-。




~続く~


©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)

©「仰げば尊し」(曲:文部省/詞:文部省)

©「歓喜の歌」ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で歌われ、演奏される第一主題(作曲:ベートーヴェン/作詞:シラーの詩作品「自由賛歌」、最初の3行のみベートーヴェン)

©「砂山」(作詞:北原白秋/作曲:中山晋平・山田耕筰)

©「ニーナの死」(曲:ペルゴレージ、チャンピ/詞:吉丸一昌)

©「むすんでひらいて」(曲/ルソー 詞/作詞者不詳)

©「自然における神の栄光」(曲:ベートーベン/作詞者:C.F.ゲレルト)

©「千歳の岩よ」(曲:ヘイスティングス/詞:作詞者不詳)






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