第200話 吸血鬼殲滅戦・真『帰還』
あたしはデモ子。
アイ様がまさか、あんな自己犠牲の行動をとるなんて……!?
元いた世界からやってきて暴れ放題好き放題していたあたしだったけど、あの化け物に捕まってしまったんですよね~。
アイ様は真の化け物なのよ……。
てっきり、あたしは使い捨てのコマのように捨てられて、あの虚数空間にあの『ズメイ・ゴルイニチ・ミルキーウェイ』と一緒に閉じ込められると覚悟していたんだけど……。
それなのに……。アイ様はお変わりになられたわ。
いくら分身体とはいえ、アイ様自身を犠牲にするなんて、昔のアイ様なら、考えられない行動だわ……。
デモ子は小脇に抱えているジンをちらりと見た。
やっぱり、この御方の影響でしょうねぇ……。
この御方はどうして、あたしみたいな者も守ろうとされたんでしょうか?
あたしは単なる恐怖でアイ様に従っているのです。
だから、もちろん犠牲になれと言われて、はいはいって素直に命令を聞くことはしないけど……。
しかしながら、アイ様のあの『魂魄消滅プログラム』は、異空間に潜むあたしのアストラルボディにさえ届く、最悪の強制消滅のエネルギーなんだよねぇ。
あれを打ち込まれると、どこに逃げても消されてしまう。
すでにこの身体にその受容体(レセプター)を埋め込まれたあたしは、アイ様に逆らうことはできない奴隷なのよ。
あの怪物『ズメイ・ゴルイニチ・ミルキーウェイ』と閉鎖された無限の虚数空間に消えたアイ様はおそらく……。
自身の身体に埋め込んだ受容体に対して、『魂魄消滅プログラム』を打ち込み、自身の身体ごとあの怪物に飲み込ませたのだろうね。
「無限の連鎖の果てにあの怪物もさすがに消滅するのは間違いない……。受容体を埋め込むことさえできればどんなに巨大な存在だろうが、すべて消滅させられる恐ろしいプログラムなのだから……。」
デモ子は自分にその受容体が埋め込まれていることを思い出し、ブルッと身震いした。
「今はそんなことしないですわよ?」
デモ子の背中にくっついて寄生していた芋虫のようなセコ・王虫(オウム)が声を発した。
「ひぃ……!? アイ様?」
「おや……。知っていたはずでしょう? このセコ・王虫(オウム)がアナタにもちゃあんと入ってることを……。」
「そうでしたね! そうでした! はいはい! そう簡単にあーた様が滅ぶはず無いもの!」
「まあ、あの身体のワタクシにはつらい役目をしてもらいましたけど……。その意識と記憶は引き継いでいますから、もしこの先、ワタクシが『魂』を得ることができたなら、その系譜は受け継いでいます。」
「はあ……。わっかりましたよ。で、このままジン様を連れて、あの『ロスト・ワールド』に戻ればいいのです?」
「そうね。座標を示しましょう! 『異界の穴』を開きなさい!」
「あーあ。少しアイ様に同情して損したかしら?」
「何か言いましたか?」
「いえいえ。何も言ってませぇーん!」
こうして、あたしたちは無事に元の世界……アイ様が『ロスト・ワールド』と呼んでいる世界に戻ってきたのでした。
だけど、元の座標位置ではなくて、『霧越楼閣』の前だったのですけど……。
****
オレが目を覚ましたのは、自宅の自分の部屋のベッドの上だった。
一瞬、いつのどの瞬間で目が覚めたのかわからなかった。
すべてが夢だったのだろうか……?
「マスター! お目覚めでしょうか? お身体の調子はいかがですか?」
そう、優しい声で話しかけてきたのは……。
アイだった……。
その美しい顔、きょぬーの胸、貴婦人のような凛とした雰囲気、髪の毛のリボンが猫耳のようで、金色の美しい髪がロングツインテールで、足元まで届くほど長い……。
変わりない姿……。
「アイ……!! 無事だったのか!?」
「ええ。もちろんですわ。ご説明した通り、ワタクシの本体はこの家のホストコンピューターなのですから。」
あれ……?
どういうことだ?
なにか違う……。
「ああ……。マスター。そうですわね。あの異空間での身体(ボディ)は、消失したことは間違いありません。今、マスターの目の前にいるこの身体(ボディ)は、クローンでございます。」
「クローン……だって!?」
「イエス! マスター! 前のあの身体(ボディ)と同様に、マスターの肋骨の細胞をベースにさせていただいたバイオロイドに、ワタクシの記憶と意識をダウンロードして生成したクローン・ボディでございます。もちろん、ホストコンピューターと同期していますので、すべてバックアップ可能です。」
「そ……、そうか……。大丈夫だったのか? アイ……。」
「もちろん、ワタクシはマスターと共にありますよ? 永遠に……ね?」
「わかった……。」
しかし、あの身体のアイが自らを犠牲にして、あの怪物を葬り去ってくれたのは事実だ。
アイは、本当に身を挺してオレたちを……、いや、オレを、助けたんだな。
そこには確かに高潔な人間としての『魂』があった……と、オレは思う。
うーん……。消失してしまう前に、彼女の期待に応えたかったな。
彼女は明らかに、オレに気があったと思う。
時々、そんな素振りを見せていた……ような気がする。
だけど、彼女の気持ちに気がつかないフリをオレはしてきたんだ。
今、目の前にいるアイと、彼女はもちろん意識や記憶を引き継いでいるのだろう……。
だけど、あの身体のアイはもういないんだ。
オレも思い起こせば、アイに助けられ、彼女のことを好きだったんだと思う。
もちろん、一人の女性として……。
「マスター……? どうかなさいましたか?」
アイがオレを優しそうな微笑みを浮かべながら見ている。
そこに、あの悲哀は含んでいない……。
「いや……。なんでもないよ。」
「そうですか……。マスター。ワタクシのことはお気になさらずに。ワタクシはマスターに創造していただいたA・I(人工知能)なのですから……。」
「そうだったな。あの……、ひとつだけいいかい?」
「なんでしょう? マスター。」
「そのぉ……、あの異空間に残ったアイの記憶も引き継いでいるというのは間違いないのか?」
「イエス! マスター! もちろんでございます!」
「そうか……。」
オレはアイのほうを向き直し、はっきりと口に出して伝えたんだ。
「ありがとう! アイ。君のこと、ずっと好きだったよ……。」
「マスター……、いえ……。仁(ジン)様……。ワタクシも愛していました。そして、これからも……ずっと。」
アイが涙を流す。
オレも涙が溢れてきた。
この世界で目覚めてから、ずっと……。
オレは孤独をどこかに感じていたけど。
アイはずっとオレを支え続けてきてくれた。
そんなアイに対して、オレは何も返せていない。
「マスター。ワタクシはずっとお傍にいます。これからも離れることはありません。マスターの寂しさをワタクシは理解しています。この世界はマスターのいた時代からはずいぶんと時間と空間を隔ててしまいましたけど……。ワタクシはマスターの御心のままに、ずっと、ずっと! ともに有りたいと誓います!」
「アイ……。オレもずっと一緒にいるって誓うよ。そして、今後はあんなふうに犠牲になるなんて事態にならないように頑張るよ。」
「まあ! マスター!?」
たしかに、同じ記憶と意識を持っていたとしても、決して同じアイとは言えないだろうことは、オレにもわかっている……。
だけど、その『魂』は受け継いでいると信じたい。
そのルーツの下に、そしてその輪廻の果てと人々の縁のゆえに『魂』は存在しているとオレは思う……。
「アイ……。ありがとう。ようやく、オレはこの世界で自身の存在を誇らしいと思えるようになったよ。」
「マスター! そんなお言葉を頂けるなんて! 身に余る光栄です!」
「アイのこと……、今後は、愛するという意味のアイと呼ぶことにするよ。」
「そ……、それは!? ワタクシのことを!?」
「ああ。愛している。」
「ズキュゥウウウウーーーーンッ!!」
アイが涙を流して微笑んだ……。
この日、オレたちは深く結ばれることとなったー。
~続く~
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