第182話 吸血鬼殲滅戦・離『敵の次の一手』
『餓鬼魂』、それは怨念の塊、呪詛の魔核、オレたちの世界でいうと、ブラックホールが怨念を持ったようなもの。
この世界でも、過去に起きた『餓鬼魂』から生まれた『餓者髑髏』の事件は、語りぐさになっていて、最大級の危険と認識されているのだ。
そして、アラハバキの全力の波動レーザービーム砲でも、その外殻自体は消滅させることができたが、その魔核自体は滅することが出来なかったのだ……。
「まずい……。まずいぞ。あの土偶戦士殿の攻撃でも、消滅できなんだとは……。」
ククルカンがさすがに焦りを見せる。
全世界に警報を報せたとはいえ、その援護が来るのに時間はかかるであろう。
魔核の『餓鬼魂』がおぞましい闇の魔力を渦巻のように発生させている……。
周囲の死者の魂や、樹々、死亡した者たちの躯など、どんどん吸い寄せられていく。
このままでは、また『龍型』にまで成長するのは必至であろう。
まさに『チチェン・イッツァ』の街だけではなく、『エルフ国』、ひいては世界の危機に直面していたのであったー。
****
ところかわって、そのすぐ間近に建つ『人ごろし城』の最上階、王の間でも今、まさに緊迫の戦いが繰り広げられていた。
青ひげ男爵のその眼がふたたび青く輝く……。
『青い眼をしたお人形は、アメリカ生まれのセルロイド。日本の港に着いたとき、一杯涙を浮かべてた。私は言葉が分からない、迷子になったら何としょう! 優しい日本の嬢ちゃんよ! 仲良く遊んでやっとくれ! 仲良く遊んでやっとくれ!』
するとそこでアイの思念通信がまるで時が止まったかのように流れ込んでくる。
(マスター! 今、思念通信の速度を極限にまで高めました。以前使わせていただいた光速思念通信でございます。マスターの脳に少し負担をかけますが、超ナノテクマシンで脳の回転速度を超高速にクロックアップさせ、光速で思念通信をしている状態を維持しております。お許しくださいませ。)
前の時と同様、まわりの景色がまるで時が止まったかのように本当にゆっくりと動いているのが見える。
(マスター! 右へ数十センチ、移動してください!)
(おお! わかった! あれ? 身体がけっこう重いな……。)
(はい。できる限り肉体の反射速度も爆上げしておりますが、思考の速さには追いついておりませんゆえ。)
(そっか……。ええ……ぇい……。動け……。動け……。)
オレの身体がゆっくり右の方向へ移動したところで、光速思念通信がいったん切断された。
そして、その瞬間、青ひげ男爵の眼から青いレーザー魔力光線が発射され、オレがついさっきまでいたあたりを瞬時に貫いたのだ。
オレは、半歩移動したおかげで、そのレーザーをかわすことができた。
「アイ! さすがだな!」
「一度、仕掛けがわかれば、あの程度の攻撃など、その視線の移動、発射する瞬間などすべて演算可能でございます。」
「助かったよ。」
「ただ、マスターの肉体と脳に負担を強いるのが申し訳なく思う所存でございます。」
「いやいや、命のほうが大事だから!」
「そう言っていただけると、ありがたく思います。」
オレが瞬間的にかわしたと見えたであろうヘルシングさんは、オレに笑いながら言ってきた。
「ジン殿。恐るべき反射速度だな。時の魔法でも使ったのかと思ったぞ!」
「え……!? やはり、『時空系の魔法』ってあるんですか!?」
「ああ。あるな。だが、その使い手は恐ろしく高位の魔術師か、魔族であろうな。」
「対抗手段はあるのですか?」
「うむ。時空系魔法に反する防護呪文を使っておくしかあるまい。」
「うへぇ……。やっぱり、ラスボス的なヤツって『時空系魔法』使ってくるフラグがビンビンじゃあないですか!?」
「うむ……。ジン殿の言わんとする意図はよくわからんが、世界には恐るべき使い手というものはいるものだ。」
「はぁ……。なんだかなぁ……。」
オレたちがそんな会話をしていると、肝心の青ひげ男爵が、癇癪を起こして怒りちらした。
「貴様らぁ! 余を無視してペラペラとおしゃべりしやがって! しかも、余の『青い眼の人形』の魔力光線をかわすなど……貴様、化け物か……?」
「こら! 化け物に化け物呼ばわりされる筋合いはないわっ!」
「まさにジン殿の言う通り。自身の身を振り返れ! くだらん闇の吸血鬼め!」
ヘルシングさんもオレに同意してくれる。
「えええーーい! 貴様ら! 黙れぃ!」
『青い眼をしたお人形は、アメリカ生まれのセルロイド。日本の港に着いたとき、一杯涙を浮かべてた。私は言葉が分からない、迷子になったら何としょう! 優しい日本の嬢ちゃんよ! 仲良く遊んでやっとくれ! 仲良く遊んでやっとくれ!』
『仲良く遊んでやっとくれ!』
『仲良く遊んでやっとくれ!』
青ひげ男爵がその眼の魔力光線を乱発してきた。
オレとアイは光速思念通信で、事前にその軌道を読み切り、当たらない場所へ身体の一部をサッと動かし、最低限の動きでかわしていく。
ヘルシングさんはというと、その大剣を眼前に構え、魔力を込め、全身を防御していた。
レーザー光線がヘルシングさんの大剣に当たっても、すべて反射され、逆に青ひげ男爵の着ている洋服のマント部分を貫き、焦がした。
「男爵様……。少し危険でございますじゃ。『餓者髑髏』のヤツが、恐ろしいほど成長の兆しを見せております。すぐに逃げなければ、ここも危のうございますじゃ!」
「ぐぬぬ……。しかし、こやつら、なかなか手こずらせてくれおる……。シルヴィア! 何か知恵はないのか?」
「そうですなぁ。いったん、城を移動させ、安全な地で、こやつらをゆっくりなぶり殺しにするというのはいかがでございますか?」
「ほお! なるほど! それはいい考えじゃ! では、今すぐ『人ごろし城』を安全圏まで移動させよ! 魔術師シルヴィアよ!」
「御意ですじゃ!」
老婆シルヴィアは魔法の準備をし、魔力を練りだした。
『證、證、證城寺、證城寺の庭は! ツ、ツ、月夜だ、皆出て来い来い来い! 己等(おいら)の友達ァ、ぽんぽこぽんのぽん! 負けるな、負けるな、和尚さんに負けるな、来い、来い、来い、来い来い来い! 皆出て、来い来い来い!!』
「レベル6の土魔法・築上魔法『証城寺(しょうじょうじ)の狸囃子(たぬきばやし)』じゃぁっ!」
シルヴィアが呪文を唱えると、『人ごろし城』全体が空に舞い上がっていく。
そして、空中で静止し、目標を定める。
「我が『不死国』の領土まで撤退でよろしいか!?」
「ああ! それが安全であろう! 我が城に栄光あれ!」
『人殺し城』が『チチェン・イッツァ』の街近郊に突然現れたときと同様に、『不死国』の領土に戻ろうとしているのだ。
このまま、移動されては、『チチェン・イッツァ』の街での防衛も、最大にヤバい危機が迫っているというのに、オレたちも奴らのテリトリーで孤立してしまい。危険が増大する。
青ひげ男爵……、いや、魔術師シルヴィア、なんという手を考えつくのだ。
何か防ぐ手立てはないのか!?
オレたちは最大の窮地に立たされている。
しかし、何か打てる手立ては考えつかない!
青ひげ男爵のいやらしい笑みが、オレの目に苛立たしくも映っているのであったー。
~続く~
©「青い眼の人形」(曲/本居長世 詞/野口雨情)
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