第137話 七雄国サミット『世界会議前日その2』


 『アーカム・シティ』にある『龍自由連盟』の大使館『龍臥亭』に、八大龍王の長アヌ龍王はすでに到着していた。


 お供には魔学者エンキ、エンキの息子マルドゥク・アマルトゥ、さらにもうひとりー。ナンナ・シンという龍だ。


 アヌ不在の間、『龍国』の全権を任されたのは首相エンリルなのだが、そのエンリルの次男である。




 エンリルの長男ネルガル・メスラムタエアは八大龍王の一人に上り詰め、すでに広く『龍国』の大空の領空を支配している。


 エンリルは次男ナンナも次の龍王候補として育てたいと考えているのだ。


 エンキはそんなエンリルの動きに特に反対するでもないようだが、エンキの息子マルドゥクは違っていた。


 彼は野望に燃えた野心家だったのだ。ゆえに、ナンナには非常にライバル心を燃やしている。




 「それにしても、先日は我らがほんのちょいと羽ばたいたくらいで、『法国』の兵士どもが大慌てしておりましたなぁ? 情けないことよ。」


 マルドゥクが息巻く。



 「これ! マルドゥク! アヌ龍王陛下の前であるぞ? 控えぬか!」


 「父上! これから『七雄国サミット』に臨むのですぞ? 気迫で負けてどうするのですか……。父上はもう少し龍族らしく覇気を持っていただきたいものですよ。」


 「アヌ龍王様! 勝手な息子で申し訳ございません……。」


 「うむ。エンキよ。気にするでないぞ。それくらい覇気があって頼もしいではないか? なあ? ナンナよ。」




 突然、話を振られたナンナは、少し驚いた顔を見せたがすぐに冷静な顔つきになり答えた。



 「ええ。たしかに。先日の『ミトラ砦』の魔力爆発の件、万一にも『龍国』領土で行われていたら……。マルドゥク様は率先してご活躍されたことでしょう……。」


 「ほお? ナンナよ。お主もわかっておるではないか? 龍王閣下! いずれ私めにあの『バビロン地域』の統治はお任せあれ!」


 「ほっほっほ……。マルドゥクは気の早いことよのぉ。エンキよ。」


 「は! 至らぬ息子で申し訳ございません。」




 「しかし、『エルフ国』にはこの責めを負ってもらい、我が『龍国』と『バビロン地域』、そして例のジン殿の『霧越楼閣』との空輸による物的人的交流を発展させて行こうではないか? のお? エンキよ。」


 「御意。そうすると、我が『龍国』の制空圏は、大きく拡大するでしょう。」


 「私の手掛けている天空の住居施設『天之宮』もいよいよ拡大路線に乗れそうですねぇ。」



 ナンナは実業家であり、主に不動産業を手広く手掛けている。


 『龍国』の住宅事情を一手に引き受けていると言っても過言ではないのだ。


 そして最近では、『不死国』の領界ギリギリにまで展開しており、今後の拡充エリアについて頭を悩ませていたところでも合ったのだ。




 「ふん……。我ら龍がそんな狭苦しい住居に押し込められてもねぇ……。私はまっぴらごめんだがね?」


 マルドゥクが鼻息荒く言ってのけた。


 「まあまあ。マルドゥク様。『龍国』にも龍族以外の種族もいるのですよ? お互い持ちつ持たれつで行こうじゃあありませんか?」


 ナンナのほうはそんなマルドゥクに対して、なんとも思っていな様子である。……表向きはだが。




 王たちの会話を黙ってじっと聞いているのは『龍国警備隊』の隊員たち、『星の戦士団』のゾフィエル、ホクテル、ミナメルの三龍たちだ。



 「ゾフィエル兄さん……。『法国』の民は警戒心が浅いですね?」


 「ホクテルよ。たしかにな。だが、それだけ『法国』の防衛力が高いとも言えるのだぞ。」


 「そうよ? ホクテル。今まで『法国』に攻め入った他国の軍隊はないわ。どれほどの軍事魔法力を有しているか……。容易に想像できるというものよ。」


 「ああ。ミナメル。みなまで言うな。」



 そう、彼らが話している通り、『法国』の防衛は今まで一度たりとて破れたことはない。


 また他国との戦争において、負けたこともない。


 圧倒的な戦力を保持しているのが、世界の警察『法国』であるのだ。




 ****





 一方、巨人の国『ブロブディンナグ国』の代表は巨人の王、ウートガルティロキだ。


 巨人は一人でも巨大な戦力なので、あまり多くのお供の者は連れて来ることはできない。


 今回、巨人王のお供は二人しかいなかった。




 その一人は『天を支える巨人』と呼ばれるアトラス。


 アトラスはこの『法国』の地に来る際、ウトガルティロキをその肩に乗せ、運んできたのだ。


 もう一人は、『影の巨人』ブロッケン。


 その呼び名の通り、巨人王の影となり控えている。



 『巨人国』の大使館に彼らは滞在しているのだが、その館は非常に大きい建物だ。


 飾り気のない石を積んで作った大雑把な建物で、洞窟か廃墟のようだ。


 この館は地元のものから『ユミルハウス』と呼ばれている。




 「王よ……。『法国』の民とはひ弱そうで、魔力もほとんど感じられない者どもなのですか?」


 「そうだな。『法国』の一般の民はヒト族と呼ばれる魔力をほとんど持たぬ種族ゆえにな。」


 「なんと!? では超英雄族ではないのか?」


 「ウム……。カレラヲ支配シテイルノハ、ヒトニギリノ『法国』ノ超英雄族……魔神ドモナノダ。」


 ここまで黙ってきていた影が声を発した。




 「ブロッケンの申すとおりじゃ。『法国』の民草がいくら弱き者でも、どこの国も『法国』に一目置いておるのは、彼ら支配者層の者たちが圧倒的な暴力のチカラを持っておるからじゃよ。」


 「それは某(それがし)も理解しております。ただ『法国』のすべての民があのような超常の者ではないということですな……。」


 「うむ。アトラスよ。まあ、『法国』との過去の因縁を忘れたわけではないが、今は『エルフ国』だ。『不死国』に罪を着せて自らの責めをかわそうとしているのやもしれぬ。」



 『巨人国』にとって『エルフ国』も『不死国』もどちらにも義理立てする理由はないのだ。


 この機に乗じて、『エルフ国』や『不死国』のあるメガラニカ大陸へ影響力が持てるならそれは最上なのだ。




 「うむ。この機に我ら『巨人国』の『エルフ国』領界へ進出への足がかりとしようではないか……。」


 「御意。」


 「ギョイ。」



 巨人たちはいまだにかつての国の権威を取り戻したいと野心を捨てていないのであった。



 ****





 『法国』首都、アーカム・シティの南門を守る門番が、目の前の異変に気がついたときにはもう辺りに暴風が吹き荒れていた。


 必死で風に飛ばされないように、門柱にしがみついていた門番だったが、次の瞬間に風がやみ、静寂が訪れたため、ホッと胸をなでおろしたのだ。



 「ふぅ……。なんだったんだ? 今のはいったい……。」


 「ああ。びっくりしたなぁ。」




 「貴様らはこの都市の門番であるか?」


 「え……!?」


 二人の門番が振り返ったその先には、蟻が大きくなったような蝙蝠のような翼を持った有翼生物と、その生物の上に乗った黄色の衣をまとった暗い影の謎の男がいたのだ。




 「いつのまに!?」


 二人は思わず身構え、剣を抜こうとした。



 が、その瞬間ー。




 門番たちは恐怖に身を震わせ、動くことができなくなってしまったのである。



 「こちらにおわすはハスター様である。頭が高い! 控えおろう!!」


 その蟻のような有翼生物バイアクヘーがそう言った。



 「ハ……ハスター様!! これはまさか『海王国』の皇太子殿下!」


 「失礼しました!」


 門番たちはすぐさま頭を下げた。




 「うむ。しばらく、やっかいになるぞ。」


 「ははー。お通りください!」



 ハスターがバイアクヘーに乗り進もうとしたところ、門番が恐る恐る声をかけた。




 「あ……あのぉ……。恐れながら、その魔獣も街に入られるのでしょうか?」


 「害虫や害獣は進入禁止の結界が張られていますゆえ、通ることはできませんが……。」



 バイアクヘーが目を剥いて怒鳴った。




 「てめぇらっ! 俺様を害虫扱いすんのかいっ!?」


 「あ……。いえいえ。そんなつもりは……。」


 「ただ結界があるのでもしかしたら……なんて思ったものでご注意したまでです!」




 「ふん! 失礼なヤツラだぜ! ねえ? ハスター様。ささ、行きましょ。」


 そう言って、バイアクヘーが街の中に一歩足を踏み入れた途端……。



 「あ……。」




 ピカ……



 「ぐっぎゃぁああああーーーーーっ!!」


 バイアクヘーの叫び声とともに……。



 ドゴォオオオオオオオーーーーォオオオォン……






 魔獣侵入防止の結界の雷撃がバイアクヘーの上に落ちたのであったー。




~続く~




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る