第135話 吸血鬼の陰謀『世界会議』


 オレはヘルシングさんとともに今回の騒動の現況である青ひげ男爵討伐をすると決めた。


 ところで、あのペーター・キュルテンが召喚した哀れな少女霊たちはどうなったんだ……?



 (アイ。少女霊たちはどうなったんだ?)


 (はい。あのヘルシングさんの『封印結界魔法』で、キュルテンとの因果情報は完全に断裂したことを観測致しました。)


 (つ……つまり……?)


 (はい。キュルテンの縛りはなくなったと言うことです。)


 (なるほど。それで成仏したのかな……。あるいは天国へ行ったのか……。)


 (マスター。天国が存在するか否かはデータ不足でございます。)


 (お……おぅ……。)




 いずれにしても、少女霊たちはいなくなっていた……。


 彼女たちはずっと苦しめられていたんだ。


 解放されて救われたのなら良いなぁ……。




 (あり……がと……。)


 (やっと……平穏が訪れました……。)


 (あなたを……。)


 (ずっと……。見守って……いますよ……。)



 あれ? なにか聞こえた……ような気がした。


 オレの思い過ごしかもしれないな。




 ヘルシングさんたちに同行する意を示したオレたちは、二手に分かれることになった。


 ジロキチとサルワタリ、サルガタナスさん、カラドリウスさん、スチュパリデスさんは、採集した『爆裂コショウ』を持って『チチェン・イッツァ』に帰ることになった。


 その後、トキイロコンドルさんの許可を取り、『フライング・ダッチマン号』で『東方都市キトル』へ帰還することにしたのだ。


 オレたちの依頼もそれで達成報告されるだろう。




 そして、代わりに『チチェン・イッツァ』付近で待機していたムカデ爺やを呼び寄せたのだ。


 オレ、アイ(まあ、今はミニ・アイの姿なんだが)、イシカとホノリはヘルシングさんやジョナサンさん、ミナさんとともに青ひげが潜んでいるらしい『人ごろし城』を目指す。


 アイの探索ですでにその座標はわかっている。


 ここ『爆裂コショウ』の群生地から、北西へ約200ラケシスマイル(約240km)のケルラウグ川の中洲にある島に怪しい古城が建っていると確認できている。




 「しかし、その『人ごろし城』にどれくらいの吸血鬼どもが潜んでいるかわからんぞ? 大変危険になる……が、それでも来てくれるのか……?」


 「当たり前ですよ。ヘルシングさん。オレの故郷の言葉で『乗りかかった船』って言葉があるんですよ。毒を喰らわばなんとやらとかね?」


 「なるほど。毒を喰らわばサラマンダーってやつだな? その……乗りかかった船というのは聞いたことがないが、『渡りにアルゴー船』みたいなやつか? まあ、恩に着る。吸血鬼どもはこの世に一匹たりとも残してはおけないのだ。それが我らが宿願……。」




 毒をくらわば皿まで……じゃないのかよ!


 それにアルゴー船……ってなんだか有名みたいだな。




 「おおおーーーーっい! ジン様ぁ! やってきましたぞい!」


 「爺や。すまんな。呼びつけちゃって。やっぱり爺やのチカラが必要みたいなんだ。」


 「何をおっしゃるんですかいの。爺やはやりますぞ。」


 オオムカデ爺やが『チチェン・イッツァ』から移動してきた。



 来る時、なぜ同行させなかったかって?


 それは『爆裂コショウ』が振動に敏感だということだったからね。


 でも、今はその『爆裂コショウ』たちはぐっすりと眠っているから呼び寄せても安心というわけだ。




 「うわぁ……! これ、オオムカデですよね? ジンさんって、オオムカデをティムしているんですか……。」


 「ジンさんってすごいのねぇ。ヘルシングさんが言うだけのことがあるわね……。」


 ジョナサンさんもミナさんもオオムカデ爺やにびっくりしているようだ。




 オレたちはオオムカデ爺やに乗って、青ひげ男爵の潜む『人ごろし城』に向かったのであったー。




 ****



 『カーズ法国 』は、この世界で宗主国の皇国と合わせて『七雄国』のひとつ、法治国家『法国』として知られている。


 ハイパーボリア大陸のアースガルズ地方に位置し、中央に首都『アーカム・シティ』がある。


 その『アーカム・シティ』に大臣たちで構成される執政院があり、この『法国』の政治・行政を執り行っている。




 この執政院のトップに君臨してるのが執政大統領であるゼウス・オリュンポスである。


 ゼウスは、首都アーカム・シティにあるオリュンポス山頂にある天球神殿で、執務を執り行っている。




 「いよいよ、『七雄国サミット』が明日開かれるな。準備の怠りはないだろうな? ヘスティア・ウェスタよ。」


 ゼウスが問いかけたのは、『法国』の総務大臣・ヘスティア・ウェスタである。



 「はい。大統領閣下。万事つつがなく執り行っております。」


 美しい彼女は慎み深く愛に溢れた竈の女神が答える。


 また、アルテミス、アテナと並ぶ三大処女神としても有名である。




 「あなた。ヘスティアに不手際はありえませんよ?」



 『神々の女王』とも呼ばれるヘラ・ガメイラ・ズュギアでもあった。


 威厳のある天界の女王として絶大な権力を握り、権威を象徴する王冠と王笏を持っている彼女は、ゼウスの妻であり、『法国』の官房長官である。




 「各国からの交通路はすべて滞りなく通行が可能なように手配はできております。

すでに、『北部・帝国』のブラフマー皇帝陛下、

『南部・幕府』のマハーヴァイローチャナ将軍閣下、

『エルフ国』の代表としてタイオワ長老に、

この『アーカム・シティ』の都市警備隊長でもあらせられるオベロン長老閣下、

『龍国』のアヌ竜王閣下、

『巨人国』のウトガルティロキ王、

シャンバラ都市国家連合『地底国』からはラー・アトゥム国家代表閣下がこの首都に到着済みで、ごゆるりと過ごしていただいております。」


 ヘルメス国土交通大臣が報告をした。


 ヘルメス・トリスメギストス。三重に偉大なヘルメスと呼ばれる彼は、この『法国』の執政院委員の一人、国土交通大臣だ。




 「うむ。ご苦労じゃな。では、あと着いていないのは……。」


 「はい。『海王国』の代表の方だけですね。」


 「今回もクトゥルフ海王殿はお越しになられんのか……。」


 「ええ。代行としてハスター皇太子殿下がお越しになられます。あと……、ニャラルトホテプ外交代表も一緒に来られるとか……。」




 「ほお……。お二方が同時に来られるとは珍しいの。」


 「まあ、たしかに。あのお二方はどうも反目し合っているご様子ですからね。」



 「して、保安・警備は万全を尽くしておろうな?」


 女王ヘラが問いかけたのは、この『法国』の警察庁長官マルス・グラディウスと公安委員会長官ネメシス・アドラステイアである。



 「「は! 滞りなく!」」


 二人はそろって返事をする。





 ゼウスがきょろきょろとみんなを見回している。


 「大統領? いかがなされましたか?」


 ヘスティアが尋ねる。






 「いや……。我が娘アテナはどこじゃ? あのコこそ防衛大臣なのじゃから、最も重要なはずなんじゃが……?」


 「え!?」




 弟でもあるヘルメスもアテナがいないことに気がついた。



 「アテナ? いったいどこへ……? 姉上ぇええええええーーーーーっ!!」





 ヘルメスの叫び声が天球神殿にこだました……。



 ****







 さて、『法国』からほど近いミュルクヴィズ(黒い森)の中ではー。




 「さて……。うまく抜け出せたな。なあ、ニーケよ。」


 「はい。アテナ様。」


 「アテナ様……。また、ヘルメス様に怒られますぞ?」


 「グラウコーピスも小うるさいことを言うな。置いていってもいいんだぞ?」


 「いえいえ。我はどこまでもアテナ様の傍に……。」




 「あー。また私がお目付け役じゃあないですか……。」


 エリクトニオスもしょうがないと言った様子でため息をつくのであったー。




~続く~


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