第134話 吸血鬼の陰謀『爆裂コショウ、ゲットだぜ』
ボグォオオオオーーーーォオオ……ンン……
ドッカァアアアアーーーーッ……ンン……
迫ってくる魔の植物の大群……。
あちこちで爆裂音も響いてくる。
「マスター! 後ろにお下がりください! ワタクシたちが盾になります!」
「イシカにお任せであるゾ!」
「ホノリが守るのだ!」
おお! なんという嬉しい言葉!
いや、そうは言ってもおまえたちだけを危険に晒すわけにはいかない……。
「アイ! 防御壁はどうなってる!?」
「はい。マスターの周囲は完璧でございます!」
「あ……。いや、保護対象は、オレたち以外にサルワタリ、サルガタナスさん、ヘルシングさん、ジョナサンさんにミナさん、カラドリウスさんとスチュパリデスさん……以上……かな?」
「拙者は含んでもらえてますかぁ!?」
「あ、うん。ジロキチはオレたち『ルネサンス』のメンバーでしょうが!」
「そいつは失礼つかまつったでございやす!」
「マスター! ご安心を! 以前の轍は踏みません。同じ目的で行動している間は、準・保護対象(仮)と認定しております!」
「お……おぅ……。準……ね。」
まあ、(仮)でも保護対象として認識しているならかまわない。
しかし、あの『爆裂コショウ』の大群をしのぎきれるか……?
「あんなにも狂乱状態になった爆裂コショウたちでは、もはや私やスチュパリデスでは抑えることはできないわ!」
「カラドリウスの言うとおりだ……。沈静化した状態でも危険なのだ。もはや手に負えないぞ。」
普段、『爆裂コショウ』に対して、その実を刈り取ることを仕事としているカラドリウスさんやスチュパリデスさんが完全にこの混乱状況にさじを投げてしまっている。
「防御はいいとして、この騒動をなんとか治められないか?」
「あの奇っ怪な植物のデータが不足しております。」
「くぅ……。どうするか……?」
すると……。
じっと黙っていたヘルシングさんが、前へ進み出た。
その背中の大剣を手にかけ、スラリと抜き放った。
「ジン殿……。アイ殿。よくやってくれた。この魔植物どもはオレが抑えよう!」
「え!? ヘルシングさん! なにか手があるんですか!?」
「幸いオレはすでに聖なる魔力を増幅している。」
「というと、なにか魔法を?」
「ああ! この地を守り給え! 結界封印魔法『かごめかごめ』っ!」
『カゴ・メー、カゴ・メー(誰が守る)、カグ・ノェ・ナカノ・トリー(硬く安置された物を取り出せ)、イツィ・イツィ・ディ・ユゥー(契約の箱に納められた)、ヤー・アカ・バユティー(神譜を取り、代わるお守りを作った)、ツル・カメ・スーベシダ(未開の地に水を沢山引いて)、ウシラツ・ショーメン・ダラー!(水を貯め、その地を統治せよ!)』
ヘルシングさんが呪文を唱え終わるやいなや、神々しいほどの青と白と金色の光が天から降り注ぎ……。
周囲は光で満たされたー。
そして……。
目を開けると、この辺り一帯がキラキラ輝くような空気に包まれ、清浄な雰囲気に清々しい気持ちになっていた。
そして、あの凶悪な魔植物『爆裂コショウ』たちが一斉にゆらゆらと揺れながら、眠っていたのだ。
(マスター。この周囲625ラケシスマイル四方(1km四方)一帯の土地が静かな清浄さに包まれています。)
(なるほど……。これが結界封印魔法『かごめかごめ』の威力か……。いや、これはヘルシングさんだからこその威力だろうな。)
(その推測は正しいと判断致します。)
(しかし、オレの知っていた『かごめかごめ』の歌と違ったぞ?)
(おそらくは、『かごめかごめ』のヘブライ語バージョンかと推定致します。)
(ヘブライ語バージョン!? そんなのあったんだ……。知らなかったな。)
「ヘルシングさん! さすがですね!」
「まあ、あたしたちのリーダーですもんね?」
ジョナサンさんとミナさんがヘルシングさんのもとに駆け寄ってきた。
「すごいですね……。ヘルシングさんのおかげで助かりました!」
「いやいや、ジン殿もなにか手はあったようだから、ここはオレが出すぎた真似をしたのかもしれないな。」
「あはは。またご謙遜を……。」
「これは、私の沈静化呪文『朝』を使うまでもないくらい、『爆裂コショウ』が沈静化しているなぁ。」
カラドリウスさんも周りを見渡しながら言う。
「じゃあ、コショウ採取するとするか。ちょっと行ってくる。」
スチュパリデスさんがその青銅の嘴(くちばし)をカタカタ鳴らした。
「しかし、あのジャック・ザ・リッパーを逃したのは失態だったな……。すまんな。」
ヘルシングさんが自らの至らなさを嘆くように言った。
「いえいえ。あれは仕方がないですよ。『爆裂コショウ』たちが狂乱状態に乗じて逃げたのですから。」
「それにしても、吸血鬼の能力の闇を払う技をくらわせたはずだったのだが……。まさか吸血鬼ではなかったとはな。」
そこにサルガタナスさんが髪をかき分けながら近くにきて言った。
「あいつは『ジャックメイソン』の一味だったようねぇ。」
「あの『ビフレスト・ジャック』で悪名高き『ジャックメイソン』か……。」
「各地で不法な強奪・占拠を繰り返している秘密結社ね……!?」
ジョナサンさんとミナさんも『ジャックメイソン』については知っているらしい。
「そうやなぁ。そのメンバーはそういう素性で何人いるかも知られていない。あの『ビフレスト・ジャック』事件を起こした首謀者ジャック・ザ・ナイトがボスと言われてるんやで。」
「ミュルクヴィズ(黒い森)の森ジャックを仕掛けたのはジャック・オ・フロストだったわね。あいつも『ジェックメイソン』のメンバーと言われているわ。」
サルワタリとサルガタナスさんも真剣な表情を浮かべている。
つか、『ビフレスト・ジャック』だとか森ジャックとか……。なんとかジャックって範囲多すぎ!
あの『ビフレスト・ジャック』とか言っちゃってくれてますけど、このみなさんご存知の……っていう感じで、まったく知らない言葉で言ってくるのやめてくれーー!
「つまり『ジャックメイソン』のメンバーって、みんなジャックっていう名前なんですね……。」
オレはこれまで話を聞いてきて、みんな当たり前のようにそう思っていると思っていたんだ。
「なんだって!?」
「そ……そうか!」
「ジャック……それこそがヤツラのメンバーの証だったのか!?」
「そ……そうね。私も気が付かなかったわ。『ジャックメイソン』のメンバーはジャックという者たちの集まり……か……。それはわからなかったわ。」
「ジン殿はさすがの慧眼だな……。世界的な発見かもしれないぞ。さっそく、全世界に呼びかけたほうがいいかもしれないな。」
え……。えぇ……。
気づいてなかったの……?
「さすがはマスター。ワタクシの誇りですわ!」
「ジン様はすごいのである!」
「ジン様はさすがなのだ!」
「拙者も感服つかまつったでやす!」
「あはは……。マジで!? みんな、気がついてなかったの……?」
「まさかメンバーはジャックつながりとはな……。ジャック・ザ・ナイト、ジャック・ザ・フロスト……、それに今回のジャック・ザ・リッパーもそうだな。」
「そんなことだったのね。私もそれを念頭に情報精査してみるわ。」
「わてもジャックの名を持つ者をチェックしてみるで。」
「さて……。ジン殿。ここでお別れだな。」
ヘルシングさんが唐突に言い出した。
「え? どうしてですか?」
「ああ。オレたち『ヴァンパイア・ハンターズ』は青ひげ男爵のヤツを追う。ジン殿は目的のコショウを手に入れただろ?」
ああ。たしかにオレたちの目的は『爆裂コショウ』を手に入れることだったな。
しかし……。今回のような吸血鬼たちの陰謀は許せない。
このままヘルシングさんたちだけに任せていていいものだろうか……?
「なに言ってるんですか! ヘルシングさん。オレたちももちろん青ひげ討伐に向かいますよ!」
オレはやはり今回の首謀者たちを放置しておくことはできないと思ったのだったー。
~続く~
©「かごめかごめ」(曲/わらべ歌 詞/わらべ歌/ヘブライ語)
©「朝」 作詞:島崎藤村/作曲:小田進吾
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