第128話 吸血鬼の陰謀『冒険者たちの正体』


 冒険者『切り裂き隊』の者たちは、『爆裂コショウ』の群生地の前にある小屋にオレたちを案内しようとした。


 ヘルシングさんはヤツらから血の匂いを嗅ぎ取ったという。


 やはり警戒しながらオレたちはついていくことにした。




 「倒したヤツラはあの小屋の向こうに埋めておいたぜぇ。」


 「まあまあ、あの小屋の中でお茶でもどうだい?」


 「そうさなぁ。お茶飲んでいけよ。」


 「ほらほら?」



 ……。


 怪しすぎる茶会に誘ってくる。


 しかも強引過ぎる展開で。




 (マスター。超ナノテクマシンの透過線モードで見ると、あの小屋の中に死体の山があります。)


 (なるほど……。そこに誘い込もうとしているのか? もしくは、さっきジャックたちが倒した怪しいヤツらってことか?)


 (誰の死体かはデータ不足です。)




 「ジン殿……。あの小屋、怪しい匂いがする。気をつけろ。」


 ヘルシングさんも気がついているようだ。



 「ええ。死体がありますね。」


 「なるほど。そういうことか……。」




 「イシカはお茶飲むであるゾ!」


 「ホノリもお茶飲むのだ!」


 イシカとホノリが何の警戒もせず、小屋の扉を開けた!



 うぉーーーいっ!


 いやいや、誰もが怪しいと思ってたよね??


 無警戒……!


 イシカ、ホノリ……。




 「お嬢さんたちっ!」


 「イシカはん! ホノリはん!」


 「イシカ様! ホノリ様! 大丈夫でやすか!?」


 サルガタナスさん、サルワタリ、ジロキチも一斉に叫んだ。




 「はっはっはーっ!! 騙されやがったな!?」



 そう大声を上げたのはジャック・ザ・リッパーだった。


 小屋の中から、死体が一斉に起き上がってイシカとホノリに襲いかかってきた……!



 オレたちは思った。


 やっぱりなぁああああっ!! ……って。




 襲ってきた死体どもはこのコショウ群生地で働いていた群生地区保安監視員たちだった。



 「ぐぅりりるぁあああああぃやああーーーっ!!」



 生ける屍たちが一斉にイシカとホノリに襲いかかった……のだが。




 「ナックルパンチ・ラッシュであるっ!!」


 イシカが拳撃の連打を機関銃の弾幕のように打ち込んだ。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドッー!!



 「連続・回転蹴り! なのだっ!!」


 さらに、高速でホノリが回し蹴りの連撃を叩き込んでいく。青の制服姿のホノリが、青色のロングの髪をたなびかせ、小屋から悠然と出てきた。


 続いて小屋の扉を「バキッ」と音を立てて叩き折り、赤の制服姿のイシカが、赤色のロングの髪をふわっとかき上げて出てきた。




 「な……なんだ!? てめぇら!?」


 「いったい何者だぁ?」


 『切り裂き隊』のヤツらが口々に叫ぶ。




 イシカとホノリがオレたちのもとへ戻ってきた。


 ヤツらが本性を表し、武器を構えた。



 「ああ! ジン様! あれ! イシカ様とホノリ様が倒した死体がまた立ち上がってきたでやす!」


 「ゾンビかいな!?」


 「眼が赤いわね……。ゾンビにしては魔力が強いわ!」






 ジロキチ、サルワタリ、サルガタナスさんも起き上がってきた死体に驚いた様子だ。



 「いや、あれは吸血鬼化したのだろう……。」


 「そうね。ジョナサン。あの赤い眼、魔力の込められた肉体……。吸血鬼化した者……ヴァンピールよ!」


 ジョナサンさんとミナさんが確信を持って断言した。




 「ふふん……。おまえら。気がついちまったなぁ? この9人を殺し、数十件のニンゲンを傷つけてきた『デュッセルドルフの吸血鬼』とはこの俺、ペーター・キュルテン様だぁ!」


 「ははは! 9人くらいで威張るな。今までに48人を殺害した『ハノーヴァーの吸血鬼』フリッツ・ハールマンとはこの俺のことだぁ!」


 「ふん……。殺した数を競うとは程度が低い……。私は死体を発見される愚は犯さない。殺人を犯しても死体が発見されない限り罪に問われないのだよ。『ロンドンの吸血鬼』ことジョン・ヘイグとはこの私だ。誰も私を罪に問うことはできまい!」




 「おまえたちは……。今までにその欲望のままにヒトを殺してきたのか!? 冒険者の風上にも置けないヤツらめ!」


 オレは思わず声を上げた。


 すると、リーダーのジャックがゆるりと前に出てきた。




 「ふぅーん? でもそれ君の価値観でしょ? 君は飯を食わないの? 何も殺しちゃいないの? 命に優劣なんてないんだよなぁ。俺は自分に正直に、自分らしく生きているだけなんだよ!?」


 ジャックは反論してきた。


 いや、しかし、むやみに他人の命を奪っていいわけがない。




 「黙れ! 人外! 吸血鬼に生きる資格などない! 圧倒的に葬ってくれるわ!」


 ヘルシングさんがそう言った瞬間に、前へ出てジャックとの距離を詰めた。



 「聖(セント)ルシアーーッ!!」



 ヘルシングさんがその肩に担いでいた大剣でクロス十字に一瞬で斬りつけたのだ。




 しかし、ジャック・ザ・リッパーの反応も早かった。


 メスのような刃物を数十本も瞬間的に投げつけ、ヘルシングさんの一瞬のスキを突き、後方にひるがえって着地した。


 あのヘルシングさんの剣の切っ先をわずか数ミリの距離で見切ったのか!?




 「おい! デュッセルドルフ! ハノーヴァー! ロンドン! 少しおまえたちでこいつらの相手をしておけ!」



 「「「ハイ! ジャック!」」」



 仲良く三人で返事をした三人の吸血鬼たちが、オレたちの方に一斉に襲いかかってきた。




 デュッセルドルフと呼ばれたペーター・キュルテンが呪文を唱えた。


 『かわいいあの娘は誰のもの、かわいいあの娘は誰のもの、かわいいあの娘は誰のもの、いえあの娘はひとりもの。かたつむりはどこから? 川からたんぼへ、 恋人はどこから? 眼からこころへ。ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ノーナマニサオパ ヤンプーニャ! ラササーヤ サーヤゲン!!』


 「むぅ!? あの呪文はレベル4の闇魔法『かわいいあの娘』か!?」





 「この呪文は俺自身が今までに捧げた命を縛り、この世に呼び出す召喚呪文だ!」


 キュルテンが叫ぶと、虚空から9人の少女たちが姿を現した。


 少女たちの赤い眼からは血が流れ、その顔の表情は苦痛に歪められていた。




 「おのれぇ……。死後もなぜこんなに苦しめられなきゃいけないの……?」


 「ええぇーーーん! えええぇーーーん!」


 「殺してやる……! きゃぁああああ……!」


 少女たちは口々に呪詛の言葉を述べている。




 「ふん……! 相変わらず悪趣味なヤツよ。俺のコレクションには遠く及ぶまい。」


 『十五夜お月さま、ひとりぼち、桜吹雪の花かげに花嫁すがたのおねえさま、俥(くるま)にゆられてゆきました!』


 ハノーヴァーと呼ばれたフリッツ・ハールマンが呪文を唱えると、ハールマンがその持っていたかばんに詰め込まれた古着がすべて、黒い影で人形の実態を持ち出した。



 (マスター。あれは『円柱都市イラム』のギルド試験でフルカスさんが使ったレベル5の次元魔法『花影』です。)


 (なるほど。じゃあ、問題はない?)


 (いえ。フルカスさんが使った時に込められたエネルギーはほんの微々たるものだったようです。この古着人形たちはものすごく強いエネルギー波動を感知しております。)


 (すると、前とは桁違いってことか……。)


 (イエス! マスター!)




 キュルテンとハールマンの後ろにいるロンドンと呼ばれたジョン・ヘイグはその手に何かの瓶を持っていた。


 なんだか危険な予感がする。ヤツにも警戒は怠れないな。



 「ふふふ……。俺は証拠は残さない。死体を残すことや着ていた服さえ、溶かしてしまえばわからんだろう!?」




 こいつが一番ヤバいやつかもしれないな……。




~続く~


©「かわいいあの娘」(曲:インドネシア民謡/作詞:いちょう座)

©「花影」作詞:大村主計、作曲:豊田義一




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