第127話 吸血鬼の陰謀『コショウ群生地』


 青ひげ男爵は『不死国』の有力貴族で今までもあちこちに出没し、不穏な動きを見せてきたという。


 非常に身なりの良い男で金持ちの男がある日、ふらっと街にやってくる。彼は青ひげの男だが、非常に魅惑的な雰囲気を醸し出していた。


 そして、その街の娘を見初め、求婚するが、だいたいの娘は二つ返事で婚姻を承諾し、男と共に彼の城へと向かったのだ。




 だが、その娘は二度と帰ってこなかった……。


 彼の居城は『人ごろし城』と呼ばれるようになった。


 だが、その正確な場所は誰も知らない。なぜならば、生きて帰ってきた者がいないからだ。


 ヘルシングさんが説明してくれた。




 「青ひげ男爵の行方はオレたち『ヴァンパイア・ハンターズ』でも、長年追ってきたが、なかなか判明しなかったのだ。これはヤツのしっぽを掴むチャンスでもあるな。」


 「そうなんですね。青ひげ男爵……。『不死国』の貴族ということですけど、『不死国』にいるのではないんですか?」


 「ジンさん。『不死国』は『七雄国』などと国交を断絶しているんですよ。だからいわゆる鎖国状態であり、情報が全く他国に流れてこないんですよ。」


 「その通りなの。あたしの友達のルーシーも……。彼の国に連れ去られたと思ってるわ……。」


 ジョナサンさんとミナさんも補足してくれる。




 案内人のトキイロコンドルさんの配下の二人、カラドリウスさんとスチュパリデスさんにオレたちは黙々とついて行く。



 「こっちだ……。あそこの大木の向こうにケルラウグ川があるのが見えるか?」


 スチュパリデスさんが樹々をかき分け、指を指した。


 その方向から水の流れる音が聞こえてきている。


 ……えっと、まだ距離が遠いな。なんとか川のようなものが見えるけど、いったい鳥人の眼って視力いくつあるんだ?




 「あの川岸にほら、魔植物の茂みが見えるでしょう? あそこが『爆裂コショウ』の群生地よ。」


 カラドリウスさんもそう言って指をさすんだが……。


 オレにはなんだか緑と赤の変な生き物がうじゃうじゃいるようにしか見えないんだがな。




 (マスター。ズームアップモードに切り替えてご覧ください。)


 (ズームアップか……!?)



 オレがそう意識した途端、まるでカメラの望遠レンズのように、カシャッ、カシャッと視界が切り替わっていき、川のほとりの植物(?)もはっきり見えた。


 なんて気持ちの悪い植物なんだ……。


 蔦のようなものが覆い、トゲトゲの幹に、緑の触手のようなものが蠢き、その中心に大きな牙の生えた口のようなものが開いてよだれを垂らすかのように樹液を垂らしている。




 「あれが『爆裂コショウ』かいな。生きているものは初めて見たけど噂に違わん異形な魔植物やなぁ。」


 「私は前に『爆裂コショウ』の幼生体を見たことがあるわ。」


 「サルガタナスはん……。えらいわてにマウント取ってくるやん……。」


 「あら? 見たことないの? 情報屋なのに?」


 「しかも、煽ってくるやん!!」





 サルワタリとサルガタナスさんってあんまり仲良くないのかな?


 しかし、『爆裂コショウ』の幼生体っていったい……?


 不思議な植物ということはわかった。




 「うむ。最近、世界のコショウの値が高騰していると聞いてはいたが……。まさかコショウジャックされていたとはな。なあ、ジョナサン。おまえの言った通りだったな。」


 「そうですね。何かが起きていると思ってましたよ。急に高騰するなんておかしいって。なあ? ミナ。」


 「ジョナサンもコショウを使った味付けは好きですからね~。」



 そして、そのコショウの群生地が占拠されている、コショウジャック(?)っていうらしいけど、このことにより、世界のコショウの供給バランスが崩れてしまっているようだ。


 ハイジャックとかバスジャックとかシージャックとか言うのと同じなのかな……。




 「しかし、群生地区保安監視員たちの姿が見えないわ……。先に調査に行った冒険者たちの姿もね。」


 カラドリウスさんが不穏な空気を悟って、オレたちに注意喚起をしてきた。


 たしかに、ヒトの姿は見えない。



 (マスター。目的地付近に数名の正体不明者が潜んでいるのが確認できました。)


 (なるほど。おそらくそいつらは……敵かなぁ?)




 「マスター。いかがいたしますか? イシカとホノリを先行させますか?」


 「うーん。いや、様子を見よう。もしかしたら、先行した冒険者達かもしれないし、生き残ったヒトかもしれない。誤って民間人を攻撃するのは避けたい。」


 「わかりました。慎重に行きましょう。」


 「イシカは待機するのである。」


 「ホノリも待機するのだ。」



 そんなオレたちの会話を聞いていたヘルシングさんがオレに話しかけてきた。




 「ふむ。さすがはジン殿だな。気がついていたか……。あの木の陰に一人、あっちの岩の陰に一人、そして、あのコショウの群生地の手前の小屋の影に二人潜んでいるな。」


 「お……おぅ。いや、さすがはヘルシングさんですね。気がついていましたか……。」



 うわぁ……。オレは場所とか全然わからなかったんだけどーー!


 ヘルシングさん、すげぇーー!




 「ジン殿は慎重だな。たしかに敵と決めつけるのもよくはないな。」


 「じゃあ、イシカが様子を見てくるであるゾ!」


 「じゃあ、ホノリも一緒に行くのだ!」


 「イシカ! ホノリ! 相手からなにか攻撃があれば反撃を許可します。」



 「「了解であるゾ! なのだ!」」


 二人は同時に返事をした。




 あっという間に二人はトコトコトコっと小走りで走っていく。


 すると、やはり陰に潜んでいた者たちが姿を見せた。


 4人の男たちがイシカとホノリの前で止まる。




 「ああー? 貴様らぁ……。いったい何者だ?」


 「おまえたちこそ何者であるか!?」


 「おまえたちは何者なのだぁ!?」


 イシカとホノリも元気に質問に質問で返す。




 「ジャックさん! 殺っちまいましょうぜ!」


 「よく見りゃかわいいスケじゃあないか?」


 「おいおい。抜け駆けは許さんぜぇ?」


 「まあ待て。おまえら! おい! 質問に質問で返すなって親から教わらなかったのかぁ?? お嬢ちゃんたちよ?」




 ジャックと呼ばれた男がリーダーのようだな。


 「イシカはお嬢ちゃんでないのであるゾ!」


 「ホノリもお嬢ちゃんじゃあないのだ!」


 「そして、イシカはコアであるぞ!」

 「そうそう、ホノリは!コアなのだぞ!」


 双子が同時に喋る。コア……。そういえばそうだった。イシカとホノリは巨大土偶戦士『アラハバキ』の心臓部なのだ。



 「俺たち『切り裂き隊』だぞ!? 泣く子も黙る冒険者『切り裂き隊』を知らねぇのか?」




 「なに!? 『切り裂き隊』だと? それはトキイロコンドル様が依頼した冒険者じゃあないか!」


 スチュパリデスさんが叫ぶ。



 「ああ。そういや、そんな名前のヤツに頼まれてたっけな……。」


 「ちょっと? あなたたち!? 依頼はどうなったのかしら!?」


 カラドリウスさんが疑問を口にした。




 「なるほどね。おまえたちは俺らの後釜で頼まれてきたってぇわけか?」


 「ジンさん。あの男はジャック・ザ・リッパー。冒険者『切り裂き隊』のリーダーですわ。そして後ろの三人はペーター・キュルテン、フリッツ・ハールマン、ジョン・ヘイグだわ。」


 「なるほど。じゃあ、冒険者たちというのは本当なんだね。」



 それにしてもなんだか荒っぽいヤツらっていうだけでなく、怪しいヤツらだなぁ。




 「いやいや。これはわざわざすまないねぇ。俺はリッパー。こいつらは、通称デュッセルドルフ、ハノーヴァー、ロンドンって呼ばれてる。よろしくな。」


 「……で、おまえたち。依頼はどうなったんだ?」


 「ん……? ああ。なんだか怪しいヤツらがいたから、俺たちが始末してやったぜぇ?」


 「なに!? じゃあ、『爆裂コショウ』の群生地は解放されたということか!?」


 「そうとも言うねぇ……。」





 オレのすぐそばにいたヘルシングさんがオレに耳打ちをしてきた。





 「ジン殿。気をつけろ。ヤツラから強く血の匂いがする……。」




~続く~



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