第102話 目指せ!Sランク! 『レストラン・ミステリ亭』


 「まずは、レストラン『ミステリ亭』に行って話を聞こうか。」


 「そうですね。『ミステリ亭』のオーナーシェフは妖精族の有名シェフ、東理夫伯(トリュフはく)ですよ! 一度でいいからその料理を食べてみたいですよ。」


 アーリくんもその店のオーナーのことを知っているらしい。




 「へぇ……。有名なんだね。オレも美味しい料理なら楽しみだなぁ……。」


 「イシカも楽しみであるゾ!」


 「ホノリも興味があるなのだ!」


 「みんな。依頼だってこと忘れないようにね。」


 アイにたしなめられながら、道を進み、オレたちは『ミステリ亭』の前に着いた。




 「こんにちはー! オーナーのトリュフ伯はいますか!?」


 オリンが声をかけてくれる。


 すると、店の中から、店の従業員ぽいトリュフ妖精の者が出てきた。




 「いらっしゃいませ。お客様。どなたかの紹介はございますか?」


 どうやら、一見さんお断りの店のようだ。


 しかし、今日はオレたちは客として来たのではないのだ。




 「ああ。いや、オレたちは冒険者ギルドで依頼を受けてきたんだ。『ルネサンス』のジンという。オーナーに取り次いでくれるかい?」


 オレがギルドの依頼書を見せながら言うと、その従業員はすました顔で答えた。


 「ああ。これは失礼しました。私はこのレストラン『ミステリ亭』のコミ・ド・レストラン、サマーと申します。ではディレクトールにお取次ぎましょう。」




 (マスター。少し高級なフレンチ・レストランで、ディレクトールとは支配人のことです。コミ・ド・レストランというのは比較的経験の浅い若手のスタッフのことでございます。)


 (あ……ああ。さすがアイ先生だ。助かる……。)


 オレには翻訳モードで言葉はわかったのだが、教養までは翻訳されないらしい……。知らないことは知らないのだ。




 オレたちは角のテーブルに案内された。


 「ニシル山のおいしい水でございます。」


 そう言って水をみんなに給餌してくれた男の胸のネームプレートにはオータムと書かれている。


 さきほどのサマーが彼のサポートをしている。サマーは配膳はしないようだ。



 (マスター。この者はシェフ・ド・ランでしょう。それなりの経験を積んだ中堅のスタッフです。あのサマーのようなコミ・ド・レストランは直接、お客様のテーブルに配膳することはなく、シェフ・ド・ランのサポートに徹します。)


 (なるほどな。それにしてもここはえらく高級レストランのようだなぁ。料理も高そう……。)




 「後は任せたぞ? ブラックトリュフよ。」


 「は。オーナーシェフ! おまかせを!」



 奥からそんな声が聞こえたかと思うと、厨房の奥から二人の妖精種族であろう者たちがやってきた。




 「お待たせいたしました。私がこのレストラン『ミステリ亭』のオーナーシェフ、ディレクトールの東理夫伯(トリュフ伯)でございます! 以後お見知りおきを。」


 「私はメートル・ド・テルのウィンターでございます。」


 二人が挨拶をしてくれる。


 え……っと、ディレクトールは支配人のことだったよね。メートルなんとかって言うのは……。


 (メートル・ド・テルは給仕長、フロアマスターのことですわ。マスター。)




 な……なるほど。しかし、オレはこういう高級なレストランというものに行ったことがなかったな。


 やはり両親が学者で研究に没頭していたからな。基本的にインドア派なんだよなぁ。


 ゲームやアニメが覇権を握るくらいの世界にしたいものだな……。




 「まあ!?」


 アイ……まあ、今はアイの分身体のミニ・アイだが、急に声を上げたのでまわりのみんなが驚いた。


 「どうしたんだ? アイ?」


 「いえ。なんでもございません。失礼しました。」


 「そっか。まあいいや。トリュフ伯。オレは『ルネサンス』のジンと言います。こっちがアイで、そのとなりへイシカ、ホノリ、アーリ、オリンと言います。」


 オレはみんなを紹介する。




 「ふむ。『ルネサンス』のジンさんね。お噂は聞いておりますぞ。なんでも『赤の盗賊団』を討伐したとのこと。『赤の盗賊団』には我々も材料を仕入れる業者を襲われたり、迷惑を被っていたのでな。非常に助かったよ。」


 「それはよかったです。して、今回のクエストですが、『爆裂コショウ』の採集と聞いておりますが?」


 「ああ。そうなんだ。実は先日より『爆裂コショウ』がこの街に入ってこなくなったのだよ。」




 「え? それはまたどうしてですか?」


 「原因はわからんが、この街に『爆裂コショウ』を納入していた『エルフ国』の都市『チチェン・イッツァ』の商人が急に来なくなったのだよ。」


 「うーむ……。それはどうしたのだろう? 何かあったのか……。」


 「うむ。それは私にはわからんが、それよりも『爆裂コショウ』がないと当レストランの献立にとって非常に困ったことになるのだ。」




 そうか……。トリュフ伯にとっては原因究明をしてほしいというより、『爆裂コショウ』が手に入るならそれでかまわない……といったところか。


 「報酬ははずむよ。どうか『爆裂コショウ』を採集してきてくれ!」


 「わかりました。して、その『爆裂コショウ』はいったいどこで手に入りますか?」


 「うむ。正確な場所は不明だが、『エルフ国』のホッドミーミルの森か、あるいは『チチェン・イッツァ』の奥の森林、メメント森であろうな……。」




 『エルフ国』の森林か……。詳しい地図はわかるかな?


 (マスター。上空からの地形は人工衛星『コロンブス』と『ヴァスコ・ダ・ガマ』によってすでに把握済みでございます。が、地上の森林の中の地形は、森の木々が邪魔をして正確には不明でございます。ですが……、『爆裂コショウ』の群生地の情報を仕入れて向かえば問題ないでしょう。」


 (なるほど。わかった。情報屋……だね?)


 (さすがでございます。マスター。)




 「わかりました。では、『爆裂コショウ』を採ってまいります!」


 「ああ。グルメ貴族のジミー・ボンド様や、グルメ魔狼フィリップ様、『法国』のスペード貴族サム・エル様らがこの料理を予約して待っておられます。納入はお早めにお願いしたい。」


 「了解であるゾ! ジン様に任せておけばよい!」


 「わかったのだ! ジン様におまかせなのだ!」



 ん……? どうして君たちがそんな勢いよく返事をしたんだい? ハードルが上がるじゃあないか……。


 しかし、『爆裂コショウ』を使った料理か……。


『イラム』の『湖畔亭』でも『シャワルマ』のラップサンドイッチが出たなぁ。サテュロス羊とグラガンナ牛のひき肉に爆裂コショウを加えたコフタ・ケバブ(ハンバーグのようなもの)に、『シダの花』や『ヒソプ』、『レーラズ』といった野菜と一緒に食べたのだが、非常に美味しかった。




 こうして、オレたちは『爆裂コショウ』の採集に行くことになった。


 だが、その前にそのありかの情報を仕入れないといけない。


 情報屋といえば、『ヤプー』か、あるいは『ガーゴイル』か……。




 だが、それにしても気になるのは、その『エルフ国』の都市『チチェン・イッツァ』だな……。


 トリュフ伯の話によると、『チチェン・イッツァ』はおよそ人口、3万5千人ほどの都市でほとんどの住民はネオマヤ種族らしい。


 『キトル』の街から、『チチェン・イッツァ』までは距離にして、1.5ドラゴンボイス(約2500km)である。


 定期的にこの『キトル』の街に『爆裂コショウ』や『エルフ国』の森林産の野菜や果物を納めていたという。




 それが急に途絶えたのだ……。


 何かあったのだろうか。『チチェン・イッツァ』まではそれこそ旧世界のアマゾンのジャングルを進むように大変な行程な上に、なにか事件か災害が起きているかもしれないという……。



 なんとなく不安を覚えながら、オレたちは情報屋を探すのだったー。



~続く~


※チチェン・イッツァ周辺地図をアップしました。

外部サイトですが「みてみん」で「チチェン・イッツァ周辺地図」で検索してね!

https://32086.mitemin.net/i484589/


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