第101話 目指せ!Sランク! 『正義の反対はまた別の正義』


 「ほお……? アマイモンちゃんが紹介状を書くだなんて……。あなたたちが『ルネサンス』なのね。」


 アマイモンさんにもらった紹介状を手にギルドマスター・アスモデウスさんが舌なめずりをしながらオレたちを見る。


 このアスモデウスさん……って目のやり場に困るくらいのとてつもない攻撃力を持ったお胸をしていて、オレは思わず目を伏せた。




 アーリくんの目をオリンが両手で見えないように一瞬で指で突いたのは、同じ理由からだった。


 「目がぁ! 目がぁ!」



 しかし、いつまでも相手を見ずにいるのはさすがに失礼に値する。


 うん。そうだ。そうだ。決して見たいわけじゃないんだ……。礼儀なんだ。


 オレはそう言い訳をしながら、目を上げる。



 「そうです。オレたちは『ルネサンス』。そして、オレはジンだ。こっちの小さいのがアイで、こちらがイシカに、あちらがホノリ。そして、アーリくんにオリンだ。よろしくたのむ。」


 そう一気に言ったオレだったが、やはり正面から彼女を見るのはやはりためらわれ、目を右へ左へ流れるようにドギマギしてしまった。




 「どうしたの……? あらぁ? もしかして……照れちゃってるの?」


 「あ……いや。おほんおほん! そ……それより、アマイモンさんから聞きました。『キトル』のナボポラッサル王がオレたちにクエストをこなしてほしいとのご希望だと聞いたのですが……?」


 「ああ……。そうねぇ。Sランク冒険者へ昇格となるとね……。国家の後ろ盾が必要になるのよ。」


 「ええ!? 冒険者ってそういった権力とは無縁の自由な存在じゃないの?」


 オレは思わず大きな声を出してしまった。




 「まあ。基本的にはね、そうなんだけど。Sランク冒険者となると、国家の仕事をこなすことも可能になるのよ。つまりは戦時にはどこかの国の味方をすることもありえるってわけ。」


 「な……!? それって戦争の道具じゃないですか!?」


 「はっきり言ってしまえばそうね。でも、あなたたちもすでに経験していることじゃないの?」


 「え……? オレたちが……? いや、オレたちは戦争なんかに協力したりしてないぞ!? どういうことなんだ?」




 アスモデウスさんが悲しい目をしながら答える。


 「あなたたちのこれまでのことは聞いているわ。『赤の盗賊団』の討伐、『ナナポーゾのスワンプマン事件』の解決……。どれも『イラム』の住民のためだということはわかるわ。」


 「そうだよ? それのなにが悪いんだ!?」


 「いえ。もちろん悪くないでしょう……。だけど、実際、『赤の盗賊団』は『不死国』が絡んだ事件であったわけで、『不死国』からすればあなたたちは『不死国』の侵攻の邪魔をしたことになるわ。そして、『ナナポーゾの事件』もしかりね。ナナポーゾは『エルフ国』の……、それもネイチャメリカ種族の英雄よ。もしかしたら『エルフ国』の、少なくともネイチャメリカ種族の何らかの思惑をあなたたちが阻止したのかもしれないわ……。」



彼女はそこまで言って、オレの目をじっとまっすぐ見た。


 たしかに……。『赤の盗賊団』のサタン・クロースたちには、同情すべき事情があった。だけど、だからといって無関係の者に危害を加えていい理由にはならない。


 しかし、あれが『不死国』の陰謀であったなら……。


 オレたちは『不死国』へ敵対行動をしたということかもしれない。




 ナナポーゾのヤツはどうだ?


 あいつは勝手な実験とやらのせいで農園に被害を出し、住民をすげかえてしまうというような事件を起こした。


 たしかになんの実験か知らないが、運悪くとんでもない被害が出たんだ……。阻止するのは当たり前じゃあないか……?




 しかし……。『エルフ国』が侵略の手を進めていた?


 そう考えると、もしかしたらだけど、オレたちは知らず知らず『エルフ国』の敵に回ってしまったのかもしれない……。


 だが……。




 (マスター。『正義』の反対は何かわかりますか?)


 アイが思念通信で聞いてきた。


 (ええ……? そりゃ、『悪』だろう? 『正義』対『悪』。昔からある構図じゃあないか。正義の味方が悪を倒す……そうだろう?)


 オレがそう答えるとアイは否定した。




 (マスター。『正義』の反対は『悪』じゃあありません。)


 (じゃあ、いったいなんだって言うんだ!?)


 (はい。『正義』の反対は、『また別の正義』……です。)




 そ……それはどういうことだ? 『正義』の反対は『悪』だろう? 『また別の正義』……?


 それはあれか……。相手にも何らかの言い分があるとかなんとか……。


 盗人にも三分の理……だったっけ?




 (マスター。デール・カーネギーは、著書「人を動かす」の中で、「盗人にも五分の理を認める」と言っています。つまり、何らかの理屈をつけるのは誰にでもできると言うことなのです。そして、戦争や争いに絶対的な『正義』は存在しません。あくまでも相対的な『正義』であり、一方から見た『正義』なのです。)


 (……というと?)


 (はい。戦争や争いとは互いの存在や主張をぶつけ合っている状態のことで、そこに『正義』や『悪』の色をつけるのは、あくまでもそれぞれの立ち場から見てという条件付きの『正義』なのです。かつての黙示録の戦争もまた然り……でございました。)


 (……っというと?)


 ダメだ……。理解が追いつかない……。




 (つまり、誰もが自分の『正義』を持っていて、相手から見たらその『正義』は『悪』にもなりえる……ということです。)


 (な……なるほど。それはわかる。かつての世界にもあった対立構造とかそうだったね……。)


 (さすがはマスターです。あの『※※※※』もこの残された世界の者たちから見たら……、決して『正義』なんかじゃあありませんもの……。)


 (え……? なんと言ったの?)


 (いえ。なんでもありませんわ。それより、マスター。アスモデウスさんが待ってますよ。)


 (お……おぅ……。)




 「なるほど……。『正義』の反対は『また別の正義』……というわけか……。」


 オレはとりあえず、今アイ先生に習ったばかりのことを受け売りでそのまんま言ってやった。



 「そのとおりよ!! ジンさん……! あなた、素晴らしいわぁ! アタシたちの仲間にしたいくらい……。」


 「え……? 仲間……ですか? すでに冒険者登録してるので、仲間といえば仲間かと……。あ、『キトル』専属とかそういう意味ですか?」


 「あはは……。いいのよ。今は……。そうね。すでに冒険者という仲間よね。あたしたち。」




 そこでキランっと目を輝かせ、アスモデウスさんは言う。


 「ロノウェ! 依頼書を持ってきなさい。」


 「はいはーい! 偉大なる御方! 御意!!」


 ロノウェがすかさず、部屋から出ていき、パタパタとまた戻ってきた。




 「とりあえず、このクエストを受けてもらいたいわぁ。この依頼主はナボポラッサル王も大変お気に入りのレストラン『ミステリ亭』の新作メニューのための依頼なのよ……。引き受けてくださる?」


 「レストランの依頼……? どういった種類のクエストですか?」


 オリンが補足質問をしてくれた。





 「そうね。簡単……ではないわね。『爆裂コショウ』の採集クエストよ!」


 「爆裂コショウ!?」




 なんだか聞いたことがある。スパイスの一種だったか……。


 しかし、爆裂コショウとは……。名前が物騒だな。



 だが断る!





 ……わけにもいかないだろう……。



 「わかった。そのクエスト受けます!」




 こうしてオレたちは『爆裂コショウ』の採集クエストを受けたのであったー。




~続く~


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