第80話 クエストを受けよう! 『バロン男爵の農園』


 そのまた翌日―。


 オレたちはさっそく(?)、バロン男爵の農園に向かうことにした。


 昨日、買っておいたグガランナ牛を連れて行く。


 ドーナードナドナドーナー……なんて歌が聞こえてきそうだ。


 しかし、グガランナ牛の声は言葉に変換されないのはなぜだろうか……。




 南の門に向かって牛を連れて、大通りを進んでいく。


 門番のテン・グースカさんに挨拶をして、門を出る。




 門を出た前の平野の遠く先の方に、砂竜ガレオンの姿が見える。


 その隣には丸まっているオオムカデじじい……いや、オオムカデ爺やがいた。


 オレたちはとりあえず、ガレオンの元へ行く。




 「おーい! ガレオン!」


 「おお! これはジン様! このじじいは我が押さえておりましたぞ?」


 「ご苦労です。ガレオン。マスター! このムカデには、ワタクシも監視をつけてはいましたが、ガレオンは文字通りずっと押さえつけてくれていましたよ。」


 「そうか! ガレオン! ご褒美に、このグガランナ牛をあげよう。好きに食べるといいぞ!」




 そう言ってオレは一緒に連れてきたグガランナ牛を目の前に連れてくる。



 「おおおお!! ありがたき! ジン様はわしの最高の主である!!」


 砂竜ガレオンが吠える。




 「じゃあ、ムカデの爺さんのこと、また頼んだよ?」


 「あいわかったぞ!! ジン様! 行ってらっしゃい!」




 『円柱都市イラム』の西方に広がる農園はそのほとんどがバロン男爵の持ち物だ。


 農園の周囲には魔物よけの柵が設置されている。




 ぐるりと周囲を見渡すと、柵の一部に監視小屋がある。


 「マスター! バロン男爵の言っていた『バロン・ダンサーズ』の長、魔女ランダが警備をしていると思われます。」


 「ジン様! あそこに門がありますわ!」


 「僕が行ってきますよ!」


 アーリくんがちょこまかと走って行く。




 オレたちもその後にぞろぞろと続く。


 すると、監視小屋から一人のベロを出した女性が出てきた。


 奇怪な仮面で素顔を隠しているため見分けが難しいが、長い舌が垂れ下がっているのはわかる。


 体つきはとても艶めかしいスタイルで、女性だということはわかる。


 やはり、獣人系の者なんだろうか……。




 「ああ! あなたたちが冒険者パーティー『ルネサンス』のヒトたちね? 私はランダ・チャロンアラン。人呼んで魔女ランダですわ。バロン男爵の『バロンダンサーズ』を束ねている者よ。」


 「ランダさん。オレはジンです。よろしく。」


 「ほお? あなたが昨日もオオムカデを捕獲したという今注目の魔法使い……ジンさんね。」


 「いやぁ。たまたまですよ。」


 「魔法のウデ……すごいんですってねぇ……? 『魔協』でも最近噂になってますよ?」




 『魔協』……? なんだろう。それは聞いたことがないな。


 「その『魔協』ってなんですか?」


 「あら? あなた、『魔協』を知らないのかしら? 『国際魔法使い協会』、通称『魔協』ですわ。……私も『魔協』のメンバーなんですのよ?」


 「へぇ!? そういう魔法使いの組織があるんだな……。初めて聞いたよ。」


 「ジンさんはレベル6の光魔法も習得されていらっしゃるとか? 魔法の腕前、見せていただきたいですわねぇ……。」




 おぅ……。これはマズイかも……。オレは魔法なんてまったく使えないんだ!


 ただ単に超ナノテクマシンの科学力ですごい現象を起こしているだけで……。


 いわば、オレのいた旧世界にいた科学の先生の不思議実験みたいなものなんだ!




 「ランダ様……。マスターは軽々しく人前でそのチカラを見せたりしないのですわ! あくまでも必要な時に人々のためにそのチカラを振るわれるのです!」


 アイがきっぱりとそう宣言するかのように言って、ランダさんを見た。


 その目はまるでスライムでも見るかのような目だった。




 「あら? それは残念ですわね。この『円柱都市イラム』では、Sランクパーティー『冒瀆の双子』への崇拝に対抗するには、『魔協』と仲良くしておいたほうがいいですよ? まあ、いいでしょう。いずれ『魔協』の『24人の長老たち』があなたを査定に来るでしょう……。その時はじっくりと……ね?」


 なに……? 『24人の長老たち』だって!? なんだか、関わり合いになりたくないなぁ。



 「では、依頼の件ですけど……。おぉーーっい!! レヤック! ちょっとこっち来い!」



 声をかけられた警備兵が、スタスタとやってきた。


 「は! お呼びでしょうか!」


 元気いっぱい返事をするレヤックと呼ばれた警備兵。




 「ええ。あなたが先月の事件の日の警備主任担当でしたね? 昨晩の状況を報告してちょうだい。」


 「は! 先月のあの日は行方不明者が3名。私が気づいたときには農園の作物が荒らされておりました!」


 「それは聞いたとおりね。それで、その行方不明者はどうなったのかしら?」


 「は! 翌日の晩には何ごともなかったように帰宅しておりました!」


 「それで?」


 「はい! その日のことはまったく記憶がないとのことでした!」




 魔女ランダさんはくるりとオレの方を振り返った。


 「今、聞いてのとおりなのよ。もちろん、何か理由があってその行方不明になった者たちが隠し事をしているのじゃないかと私も疑ったわ……。」


 「そうだよね? 違うの?」


 オレは疑問に思ってたことをそのまま言われたので、思わず聞き込んだ。




 「ジンさん。あなたも腕利きの魔法使いなら、知っているでしょう? 自白強要呪文『誰も知らない私の悩み』のことを……。」


 キターーーー―ッ!! 魔法です。



 (マスター! 『誰も知らない私の悩み』は『イステの歌』によれば、レベル4の精神魔法です。)


 (おお! さすがアイだ! 助かったぁ……。)


 (いえ……。そんな……。当然のことでございます。)




 「あ……。レベル4の精神魔法……だったっけ?」


 「おお! やはり知っておられたか!? そのとおりです。『誰も知らない私の悩み』をかけて尋問しましたが、やはり記憶にないようなのです。」


 さすがは魔女……と呼ばれるだけのことはあるね。




 「レヤック! 他に被害が出たのは……、誰の夜間担当のときだった?」


 「は! 私の担当の時以外では、チュルルック、ニ・カロン、ラルンの担当の夜に被害が出ております!」


 「そうね。いずれも先日のように真闇な夜だったわね……。」


 「は! 真闇な夜の日に限られます!」




 「真っ暗な夜……つまり、月のない夜か!?」


 「ええ。そのとおりですわ。」


 「昔から、『無名の闇』も真の闇には敵わない……って言いますからね。」


 そ……その意味よくわからないけどね。




 「ジン様。それにしても行方不明者がまた戻ってくるのはどういうことでしょうかね?」


 「アーリくん。いい質問ですね!?」



 アーリくん……ポカン顔。


 くぅ……。渾身の『イケ神様』ネタが通じないとは!?




 「おほん……。そこがミステリーだねぇ。」


 「ジン様。それに記憶がないとは……。記憶操作系の何かでしょうか?」


 「ふむ。オリン! いい着眼点だね!」


 「マスター! はいはい!」


 「いや……。アイ。別に当てなくても答えてもいいんだよ?」




 「行方不明者がどこに行っていたか……が、問題を解き明かす鍵ではないでしょうか?」


 「なるほど! それだ! 見張っておいて後をつけてみるか!」


 「イシカも見張るのである!」


 「ホノリも見張っちゃうのだ!」


 うん、そうだな。イシカとホノリは適任だな。



 「それで、ランダさん。次の新月の夜はいつかわかるかい?」


 オレは次の事件が起こりそうな真の闇の夜、つまり新月の夜がいつなのかをランダさんに尋ねた。




「はい。次の新月の夜は……、今晩ですわ!」



~続く~


©「誰も知らない私の悩み」(曲/黒人霊歌 詞/黒人霊歌)


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