第70話 クエストを受けよう! 『冒険者ギルドへ』


 アユ・タウロスの肩に乗っている黒猫が鳴く。



 「にゃあごろろ。にゃ……あちしはカーロだわよ! 何しに来たんだ! てめーにゃ!」



 ん? 猫の言ってることがわかるぞ? どういうことだ?


 (マスター! 翻訳モードのままでございますゆえ。)


 (ああ。そっか。『無名都市』でそういや、翻訳モードにしたままだったね。)


 (つか、この黒猫。知能があるみたいだな。)


 (解析完了しました。推定、猫の獣人。黒猫獣人とでもいいましょうか。一族はみな、黒の因子を持っているようです。)



 「とりあえず……カーロ。オレはジンだ。よろしくにゃ!」



 黒猫のカーロはオレの方を見て、びっくりした顔でこう言った。



 「にゃにぃ!? 黒猫語、喋れるのかにゃぁーーっ!?」






 その後、カーロと仲良くなったオレたちは、館内に案内された。



 オレたちは『黒猫館』の広間でお茶を飲みながら、話をする。


 管理人のアユ・タウロスとだが、黒猫のカーロとも話をする。


 三者間通話のようなものだ。




 「不思議だわねぇ。あまりヒトになつかないカーロちゃんがこんなにジンさんには懐いているんですもぉの!」


 「そうなのか? ま、カーロとは気持ちが通じているからかにゃー?」


 「マタタビ酒をみんなに振る舞ってくれる約束は絶対にゃのだぞ!?」


 「ああ。わかったにゃ!」


 「ホント。こんなに喜んじゃってるこの子、見るの初めてかもぉ!」




 「ジ……ジン様……。本当に敵意はないのでしょうか? この黒猫たち……。」


 アーリくんはまだ不安そうだ。


 まあ、伝説の『猫とネズミの追いかけっこ物語』でも仲良くじゃれっこしてたことだし、猫とネズミの友情もあると思う。


 「アーリくん。大丈夫だよ。カーロは物分りの良い猫のようだよ。」


 「そうにゃ! おまえたちを別に食ったりしないぞ! 吾輩はグルメな猫である!」


 「お…おぅ……。」


 アーリくんもオリンもしぶしぶだが、納得してくれたようだ。




 こうして、オレたちは無事、家を借りることができた。


 管理人のアユさんも屋敷の離れに住み込みで働いてくれるというのでありがたい。


 そして、オレたちは次に『冒険者ギルド』に向かうことにした。


 アーリくんとオリンはお留守番だ。


 いろいろ家の片付けとかやることがあるからな。






 水路を渡って大通りに出る。そのまま、中央の円柱に向かって進んでいく。


 通りは非常ににぎやかで沢山の人が往来している。


 前に来た時はわからなかったが、オレたちの家はどちらかというと、貧民街にあたるようだ。


 犬獣人のコボルトや、黒猫獣人、牛獣人など獣人が多く住んでいる。




 この『円柱都市イラム』の中心地にある大きな円柱をぐるりと回ると、『冒険者ギルド』が見えてきた。


 ギルドの扉をくぐると、受付が見えた。中には複数の冒険者がなにやら忙しそうにしていた。


 酒場も兼ねているのだが、今はまだお昼の『午の刻』であったので、酒場はまだ開いていなかった。






 オレ達は受け付けに行き、ギルドの中にいた人間の姿をしていてメガネをかけた黒髪美人の受付嬢の女性フルーレティに声をかけた。


 「やあ。フルーレティさん。お久しぶり……ってほどでもないかな?」


 「まあ!? ジン様! お元気でしたか? 今日はいかがしましたか?」



 あいかわらず潤んだ瞳でじっと見つめてくるフルーレティさん。


 なんだか、乗り出してきてるその体勢が、その大きな胸をさらに強調しているような……気のせいか?




 「うん。クエストを受けようと思ってね。やはり冒険者としてのランクを上げて行ければ今後オレの商売もやりやすくなるかなってね。」


 「まあ! それはいいお考えですわ! まさしく。ギルドの許可証は各国の通行証代わりにもなりますからね。商売にももちろん役に立つと思われますよ。」


 「へぇ。通行証代わりになるのか。それはいいことを聞いたな。」


 「お渡ししたコイン型のギルドの許可証は、偽造ができないように魔法がかかっていますので。」


 「そっかぁ……。魔法ってホント不思議なチカラだなぁ……。」


 「いやいや。魔法使いのジン様がそんな事言うだなんて、冗談が過ぎますよ!」




 いやいや! 誰かオレに魔法を教えてくれ!


 魔法が使えない魔法使い……。それがまさにオレってわけだ。


 かといってバレたくないんだよな。オレがこの世界の人たちと違う存在だってこと……。




 「クエストの依頼はそこの掲示板に依頼の紙が貼ってありますけど、ご紹介することもできます。また、依頼主からの指定依頼も有名パーティーになってくるとありますね。」


 「なるほどね。じゃあ、ちょっと掲示板を見てみるとするよ。」


 「あ……。いや、ご紹介もできますよ?」


 「うん。ちょっと掲示板を見てあまりいいのがなかったら、紹介をお願いするよ……。」


 「あぁ……。そ……そうですか……。」




 なんとなく、オレに紹介したい依頼があるみたいだなぁ……。


 ちょっとだけ、他にどういう依頼があるのか見てみたい気もするんだよなぁ。


 と、オレがそんなことを思っていると……。




 (マスター! 掲示板の依頼に関してすべて確認いたしましたが、いかがいたしますか?)


 アイ先生! さすが仕事が早い!


 (どういう種類があるんだ?)


 (はい。今、記憶情報としてマスターの脳に直接情報をインストールいたします。)


 (え……? そんなことできるの?)


 (イエス! マスター!)




 ヤバ……。超科学……ヤバいわ。オレが死んだ時代よりはるかに進んでるわ。都市伝説で言われてた世界はホントにすぐそこの未来だったんだなぁ。


 あ! 来た! おお! あっという間に記憶として定着したわ。




 「えっと……。魔物討伐依頼が234件。採集依頼が185件。護衛依頼が45件。相談案件が1055件か……。」


 紙で貼り出してたの? この数の依頼?


 (回答します。各掲示板に手を触れるとその場で依頼情報が表示されるモニターのようなものがございます。)


 (なるほど。じゃあ、あの紙が貼られているように見えるのはオススメ情報のようなものなのか?)


 (素晴らしいご推察です。そのとおりかと思われます。ワタクシはそこに詰め込まれている元の情報を量子光線透視しましたので、すべての情報を確認しております。)




 そうか。依頼情報を表示させるのは何らかの魔力だろうけど、元の情報は何らかの記録媒体に保存されているということか。


 その元の記録媒体の情報をアイは読み取ったというわけか……。


 うーん。まさに『魔法文明技術』対『科学文明技術』といったところか。互角のようだな、今回は。




 「ジン様。この場から動かずに、その……。掲示板の依頼をすべて確認されたのですか!?」


 フルーレティさんが驚きと尊敬が入り混じったようなキラッキラな目でオレを見ている。


 ああ。まずいな。




 「ワタクシがさきほど掲示板は確認していたのです。フルーレティさん。」


 ミニ・アイがそう言って、フルーレティの視線を遮るかのようにオレとフルーレティさんの間に割って入ってきた。



 「あら? アイ様。いらしたのですか? それにそのお姿は……。背が縮んでしまわれておりますが、いかがしたのでしょう? クスクス……。」


 「いえいえ。たかだか受付嬢のあなたに申し上げるまでもないことでしょう? あなたはただ与えられた職務をまっとうすればよいのです。」


 「まあ!? では私はこれからジン様に依頼をご紹介しますので、あちらの奥の部屋でゆっくりと! アイ様方はここでお待ちになられていてもけっこうでございますよ?」


 「はあ? ワタクシはマスターのパートナーであり、パーティーメンバーでもありますのよ? なぜワタクシが待ってなくてはいけないのですか?」




 ああ。なんだろうな。どうもアイとフルーレティさんって相性が悪いんだよな……。


 なぜなんだろうなぁ。


 ま、こんなたくさんの依頼から選ぶのはたしかに大変だわ。おとなしくフルーレティさんに紹介してもらったほうがいいね。





 こうして、オレたちはギルドの奥の部屋に案内された―。




~続く~



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