第71話 クエストを受けよう! 『ギルドの指定依頼』
冒険者ギルドの奥の個室に入る。
オレたちがフルーレティさんから奥の部屋に案内される時、ギルド内にいた冒険者たちの羨望の眼差しがオレに突き刺さった。
なんとなく気づいていたけど、フルーレティさんは冒険者たちからとても人気がある。
特に独身の男連中からだが―。
そりゃ、黒髪メガネ美人で、胸が大きくて聡明で優しい態度に、この微笑み……。
人気が出ないわけはない。
前を案内しているフルーレティさんの後ろから見える真っ白いうなじに、胸元……。
やばすぎるだろ? 悪魔級だぞ。この魅力は……。
奥の個室はいわゆる応接間のようになっていて、オレたちは座るように促され、座って待っていると、フルカスさんが資料を持って入ってきた。
「ジン様。今日は冒険者ギルドへようこそ。さっそく、我がギルドの指定依頼を受けていただけるとは感謝いたします。」
「ああ。こっちも有名になりたいって下心があるから別に感謝されるいわれはないよ?」
「それでも、こちらとしては助かりますゆえ。」
「そうか。お互い様ってことで。」
「では、さっそくですが、ジン様に受けていただきたい依頼というのがありまして。報酬は破格の5白金貨です。さらに追加の成功報酬もあります。」
「それは高待遇だな……。内容が難しいか危険がある……ということかな?」
フルーレティさんがテーブルに広げた紙には『円柱都市イラム』の西の外に広がる農園地帯の地図が書かれていた。
広大な農園で、この『イラム』に来る途中に遠くからでも確認できたほどの広さだった。
「この農園はバロン・クトット男爵所有の農園でございますが、最近よく荒らされるとの被害報告が出ておりまして……。」
「ふむふむ。警備はしていないの? 男爵というからには地位のある方なんでしょう?」
「バロン様の『バロン・ダンサーズ』と言われる私設警備のものが警備されているのですが、行方不明者が続出しているらしいのです。」
「行方不明だって? そりゃなにものかに襲われたってこと?」
フルーレティさんはゴクリとつばを飲み込み、続きを話す。
「それが……。なんの形跡もないようなのです。魔物に襲われた形跡も、血痕などもなく……。ただ忽然と姿を消し、農園の作物が盗まれるのです。」
「ふーむ。なるほどね。それで、ギルドに依頼が来たってわけか。」
「はい。まさしくそのとおりでございます。」
フルカスさんもうなづく。
「ジン様。ギルドとしても男爵の依頼……。軽率に信用できないものに依頼を発注するわけにもいかず困っていたところでございます。」
「魔物の仕業かどうかの調査も含めて……ってことだね?」
「はい。お願いできますか?」
フルーレティさんがそう言いながら、オレに近寄ってきた。
「愛……イッヒ……リー……ディッヒ……。」
フルーレティさんが、かすれそうな声でなにごとか囁いた。
ドキっとするような、メガネの奥の瞳……なんだか、涙でうるうるしていて……吸い込まれそうな……。
「こほんっ!! マスター! 依頼については問題ございませんか?」
「えっ!? あ、いやいや、そうだね……問題ないよ。」
アイの声で思わず、ハッとなった。前にもこんなことがあったような……。
(マスター! お気をつけください。この者は少し危険でございます。)
(そんなことはない……と思うけどな。)
「ちっ……。」
小さく舌打ちしたような音が聞こえたような気もしたけど、まあ、気のせいかな。
「まあまあ!? ジン様。それでは、こちらが依頼主のバロン男爵の住まいの地図でございます。詳しくは依頼主からお話を伺ってくださいませ……。」
フルーレティさんがいつもの優しい微笑みでオレを見て地図を手渡してきた。
まあ、フルーレティさんがオレになにかする目的なんて考えられないしなぁ。
「では、よろしくお願いします。」
フルカスさんがそう言って、部屋のドアを開けてくれ二人でオレたちを見送ってくれた。
オレたちはそのまま、バロン男爵の家に行くことにした。
◇◇◇◇
フルカスとフルーレティはギルドの奥の部屋にまた戻ってきて、部屋の片付けをする。
「ふむ……。また、失敗ですか? フルーレティ様。」
「そうね。魔法阻害のなにかが働いているのかしらね……。」
「アマイモン様は様子を見ろとおっしゃっていました。」
「でしょうね。アマイモンは慎重派ですからねぇ……。」
「それに敵に回すのは危険な御方と見受けました。」
「まあ、今のところは、こちらとぶつかることはありませんでしょうね。」
二人はそんな会話をしながら、部屋を出た。
そのしばらくの後、誰もいなくなったギルドの応接室で、何やらサッと風でも吹いたかのように、部屋の空気がうごめくのであった―。
◇◇◇◇
オレたちは『円柱都市イラム』の経済特区に向かう。
ここは貴族や大商人が住むエリアで、厳重な警備がされている区域になっていた。
水路で区分けされた区域に向かう橋はその両端に検問所があり、出入りする者をチェックしている。
身元のはっきりしない者は入ることを禁じられていた。
検問所のほうへ向かっていると、大通りで見慣れた顔とすれ違う。
エルフの冒険者ベッキーだ。
ベッキーと一緒にいたのは、全身黒い鎧で包まれた騎士と美しい貴婦人だった。
知らんぷりして行き過ぎるのも変な気もする。
だけど、一緒にいる相手がどんな者なのかわからないし、こういうのってどう対処するのが正解なんだろうね……。
「おお! ベッキー! 息災であるか!?」
「やや! ベッキー! 元気なのか!?」
……。
とか気にしてたら、何にも気にせず、声をかけちゃう天然娘たちがここにいたわ。
イシカもホノリもまったく気にせず話しかける。
「あら? ジンさん! それにイシカさんにホノリさん!」
「やあ! ベッキー。おっとお連れの方かな? オレはジンだ。冒険者パーティー『ルネサンス』のリーダーをやってる。よろしくね。」
オレはそう言って、ベッキーの連れに挨拶した。
「これはこれは……。ベッキーお嬢様から聞き及んでおりますよ。お嬢様が危機のときに助けてくれたと。私からも礼を言います。私はエレオーレス・デュラハンと申します。」
黒騎士が名乗る。
「あら? こちらが例のジン様でして? お初にお目にかかります。私は『エルフ国』のマダム・レイク・ヴィヴィアンと言います。」
貴婦人も名乗って妖艶な微笑みを浮かべる。
「ジンさん! この二人は今は私のお父様と一緒に『法国』の首都アーカム・シティで都市の警備隊をしているのですわ!」
「へぇ。『法国』の都市の警備隊なの!?」
「ええ。『エルフ国』と『法国』がそれだけ強固に結び付きがあるということですわ!」
「なるほどねぇ……。」
「ジンさんたちはまたこの『円柱都市イラム』で活動するのかしら?」
「ああ。そうなんだよ。今もギルドのクエストを受けて依頼人のところへ行くところさ。」
「あら? どちらまで行かれるのかしら? あ! 秘密ならいいのですわよ? 依頼人の秘密は明かせないというやつでしたら……。」
「いや……。大丈夫だろ。バロン男爵、バロン・クトット男爵という人のところだよ。」
ベッキーたちが少し驚いた様子でオレを見た。
「バロン男爵って……。別名バナスパティ・ラジャ、森の王と言われる……『エルフ国』出身の貴族の方ですわね!」
「おお!? 『エルフ国』の人なのか! やっぱ偉い人っぽいね……。」
「それはそうですわ! 『エルフ国』でも有数の大森林を有する貴族で、商売上手な方ですからね。」
「ああ。『エルフ国』って商売上手かどうかでずいぶん変わってくるみたいだもんね……。」
「そのとおりですわ!」
オレはズッキーニャのことを少し思い出した。
これが資本主義ってやつか……。
~続く~
©「愛 Ich Liebe Dich」(詞:K.F.ヘルローゼー/曲:ベートーベン)
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