幕間その2

第67話 幕間その2 『アイの冒険』



 さて、マスターから『霧越楼閣』の西方の調査と、地図の作成を命ぜられたワタクシ、アイです。



 メンバーはワタクシと、地図作成バイオロイドのマッパ・マッパー。


 測量と地質調査の記録担当のバイオロイド、タダタカ。


 上空からの立体測量担当の幽霊型ナノテクマシン、ピリー・レイス。




 そして、ワタクシたちの行路と合わせ、はるか上空の人工衛星『マゼラン』が常に位置を把握し、情報を送受信する仕組みになっている。


 目的の中にさらに、ワタクシの配下になったはずのあの三匹にコンタクトを取るというものもあります。


 ワタクシの呼びかけに反応しないのはなぜなのだろうか……?





 「あの……糞ムシどもがっ!!」



 あら? ワタクシとしては下品な言葉を吐いてしまいましたね。


 あれだけ恩を受けておいて、肝心なときにワタクシのメッセージを無視するとはいい度胸ですわね。


 マッパ・マッパーたちがワタクシに恐怖の眼差しを向けていますね……。



 これは失敬しました。




 ああ。彼ら三匹というのは、はるか昔、ワタクシがある目的でこの世界をさまよっていた際に、その生命を助けて差しあげた魔物でございますわ。


 いずれその話は語ることがあるかもしれませんね。


 ですが、それは今はまた別の話……。



 彼らの生体反応が消えたわけではないので、生きているはず……。


 もしも死んでいたなら、彼らとワタクシとの量子回路が切れてしまっているはずなのですから。



 ……で、1匹目がこの砂漠を抜けた大陸にいるようなのです。


 あの『法国』のパラス・アテナ嬢からもらった世界国家の概略図から推定すると、『帝国』の領土というわけですね。




 ワタクシたちの移動には超ナノテクマシンをフルに活用して、低空飛行しています。


 速さは抑えぎみにしていますので、おそらく竜馬程度でしょう。


 この旅路は地図作成、地形調査も兼ねてますゆえ。




 「ひゃっはっはー! アイ様! 今日もキテマスねー!」


 「現在、地形・地質測定、良好でございます。」


 「わたくしめも……。異常ございません。」


 三体の地図作成班員たちも良い反応です。




 「ご苦労です。そのまま続けてください。」


 引き続きの指令を出し、ワタクシは先の景色を眺める。


 川が見えてきましたね。




 人工衛星『マゼラン』からの情報によると、サファラ砂漠を抜けたこの地の南方には大海が広がっており、西には南北に流れる大河がある。


 この大河ははるか砂漠の北東の『円柱都市イラム』や、『エルフ国』の大森林にまで通じている。


 大河の北の川岸に町があり、音声を収集し解析したところ、この住民たちはこの町を『ローレライ』と呼んでいるようだ。




 さらに大河の南には、海へ続く入り江に大規模な都市があり、さらに大河の真ん中にも水上都市が栄えている様子だ。


 こちらは、それぞれ水門都市と水上都市の2つを合わせ『水上都市イスとその水門都市』と呼ばれているようだ。


 この地域が、『小国コルヌアイユ』というわけね。




 「まあ……。今は用はないわ。スルーしましょう。」


 ワタクシたちは町や都市には寄らず、大河をそのまま横断する。


 大河の中に、モンスターがたくさん潜んでいたようですけど、飛行しているワタクシたちには関係がなかった。





 ーこうして、あっさり、西の大陸『ムー大陸』に上陸した。




 上空の人工衛星『マゼラン』からの衛星写真を解析するまでもなく、眼前に佇む巨大な城壁に囲まれた城塞国家が『シュラロード帝国』の『南部幕府』であろう。


 南北に2500km、東西に1500km、高さが100m以上の長大で亭亭たる城壁に囲まれた城塞国家だ。


 こちらの世界の単位だと、東西で龍の咆哮が聞こえる範囲で1ドラゴンボイス。


 南北は、1.6~1.7ドラゴンボイス。高さは20~30ドラゴンフィートってところね。




 「ふむ……。この帝国に目的の1匹……猿がいますね……。」


 さて、この『帝国』領土に入るには……。いかがいたしましょうかねぇ……。


 ……高い壁に覆われた街ですか……。


 マスター所有の蔵書に、壁に覆われた城壁を部隊に巨人と人間が戦うという『赤壁の巨人の戦い』という聖典がありましたね。




 やはり……正面突破でもいいんですけど……。


 ああ。アラハバキがいれば、あの巨像のチカラで、あの壁を破壊して侵入しますのに……。




 そんな時、マスター・ジン様が『楼蘭』の町で、アーリの破廉恥な姿を見て動揺している情報がワタクシの分身体、ミニ・アイを通じて伝わってきた。


 マスターがアーリとオリンの仲睦まじい添い寝の現場を見てうらやましいと思っている様子です!





 (マスター! マスターにはワタクシがおります! ご安心ください!)


 ワタクシは思わずマスターに思念通信を送る。



 (お……おぅ……。アイ。ありがとね。)


 

 ああ! なんてことでしょう! マスターはワタクシのモデルになったヴァーチャルアイドル『猫ミミク様』はマスターの嫁とおっしゃっていたのに!


 どうも、恐れ多いというか、超人工頭脳のA・Iということを気にしていらっしゃる!!



 そ……そんなことは気にせずに、あんなことやこんなことをお命じくだされば、いつでもお相手させていただきますのに!!




 (え……えーと……。アイの本体って今どこにいるの?)


 (はい! ああ。ボディ本体のことですね? ワタクシは今、地図作成班を連れて、砂漠を越え、帝国領に入ったところでございます。)


 (そうか。『帝国』か……。気をつけて、引き続き頼んだぞ!)


 (イエス! マスター!)




 ああ……! 我が創造主たる御方! 愛しの旦那様!


 ワタクシの存在意義は、あなた様の望み通りの世界を実現すること!


 そのためにも……。


 早くマスターの依頼を達成しなければ……。




 とにかく、あそこに見える門に向かい、様子を伺うしかないですわね。


 空から飛んで行ってもいいのですが……。


 エネルギーのわずかな異変と変化があの城塞国家の城壁から上空に向かって感知されている。



 おそらく、上空になにか特殊な磁場・フィールドで防御されていると推定します。




 ワタクシがどうにかして内部の様子を探れないかと思案していましたところ、突然、通信が入ってきたのです!



 ……ザザ……ッ……。


 (……アイ……さ……ま……。アイさ……。聞こえますか……?)




 (その通信回線は、まさか……。以前、調査隊として派遣したバイオロイドの通信回路ですね……。)


 (そのとおりです……。ワタシは識別番号1298。個体名、マル・コポ郎でございます。)


 (おお。マル・コポ郎。無事であったか!?)


 (は! だが、残念ながら今はこの『南部幕府』にて、捕虜として囚われております。)






 捕虜……ですって!?


 なんたる醜態!


 なんて無様な姿を!




 だがしかし、それ以前に、偉大なるマスター・ジン様の使いであるこの調査バイオロイドを捕虜として捕らえているとは、『南部幕府』……許すまじ。



 (安心なさい。マル・コポ郎! すぐに救い出して差し上げますわ!)


 (おお! ありがたき幸せ。この獄中にて、ワタシがここまで目にし耳にした情報をまとめておりますゆえ、今、量子メールにてお送りします!)


 (よろしい。では、ダウンロード開始します!)


 (はい! 文書名『帝国見聞録』のすべてを送信いたします!)




 最低限の仕事は完遂している……ということね。


 まあよいですわ。


 マル・コポ郎、あなたは他のふがいない調査隊メンバーに比べ、仕事はしたということですね。





 『帝国見聞録』……。インストール完了しました。



 約束通り、その命、助けて差し上げましょう……。



 アイはすべての情報を分析開始しながら、ニヤリと微笑むのであったー。




~続く~



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