第57話 ルネサンス黎明期 『砂漠のお引越しとハッピーオールドマン~おそらくは寿老人祭り~』


 「どういうことなんだ? ジュニアくん。」


 オレはジュニアくんがちょっと何を言ってるかわからないので、尋ねた。


 ジュニアくんは『楼蘭』の町と『霧越楼閣』の交通網はいらないと言ったんだけど……。


 いや、そりゃ、コタンコロで移動したら速いけど、毎回毎回コタンコロに頼むのも無理が生じるんだが……。




 すると、自信たっぷりにジュニアくんが答える。


 「ジン様。ご心配なく! この『楼蘭』の町ごと、ジン様の邸宅の真下に引っ越ししますので!」


 え……? どゆこと?


 町ごと引っ越し……?




 「町ごと引っ越しってどういうこと?」


 「はい! この町『楼蘭』はロプノールの上に建っているんです!」


 「ん……? ロプノールって……湖……だよね?」


 「あ! ああ! 『ロプノール』っていうのは、湖の名前でもありますが……。実は巨大な砂ラッコなんですよ。」




 え……? どういうこと?


 「巨大砂ラッコだって!?」


 「はい。この町の守り神、砂ラッコの『ロプノール』です。あの湖は、『ロプノール』の水の魔力によって湧き出ているんです!


 ……そして、この『楼蘭』の町は『ロプノール』の身体の上に建っているのです!!」




 マ…マジかよ?


 つまり、今いるこの『楼蘭』の町は、町全体が、ラッコのお腹の上に乗っていると…。


 「そ…それはすごいね……。」


 「はい! 明日、『ロプノール』を起こして、ジン様にもご紹介しますよ。巨大ですけどおとなしい可愛いヤツなんですよ。」


 「へ…へぇ。そうなんだ……。」




 こうして、夜も更け、祭りの夜……いや、『スピーチタレントヘヴン』の儀式の夜は過ぎていくのであった―。



 ****




 翌日、アーリくんがオレたちを迎えにやってきた。


 「おはようございまチュ! ジン様!」


 「ああ。おはよう。アーリくん。朝早いんだね。」


 「あ、はい。ジン様も昨日、ジュニア様より聞いていらっしゃるかと思いますが、引っ越しをしますので。」




 「あ! 『楼蘭』の町ごと引っ越すってヤツだろ?」


 「そうなんです! 砂ラッコの『ロプノール』を50年ぶりに起こします!」


 「50年ぶりなのか!?」


 「ええ。わりと最近ですかねぇ。」


 そ……そっか。寿命、長いんだっけ……。




 「マスター!生命反応が! この地下から致します!」


 「なに!? 巨大砂ラッコか!? 眠っている間は反応がなかったってわけか?」


 「そうですね。『ロプノール』は眠っている間は、鉱物のようになってるんですよ。」


 アーリくんがそう説明してくれた。




 そして、オレたちは『ロプノール湖』の周りに集まった。


 すると、今まで砂地だったところから、砂が大きく盛り上がってきた。


 それはもう数十メートルもあるくらい。


 そして、砂が流れ落ちて、その姿を現した。




 頭だけでも巨大なラッコが首だけ起こしたって体勢なのだが、その頭のサイズが、数十メートルはあるのだから、その全身はとてつもなくデカい!


 「ロプノーーーーッル!! また、移動するよ!?」


 ジュニアくんがそのラッコに呼びかける。


 「キュキュキュッ!!」


 これだけ大きな身体をしているのに、砂ラッコ『ロプノール』は人懐っこいようだ。いや、ネズミ懐っこいと言うのか……。




 「久しいの。ロプノールや。後で、たっぷりココヤシ酒、飲ませてやるからな。」


 と、語りかけているのは旧鼠のじいさんだ。


 つか、『ココヤシ酒』って……。お酒飲むんだ。この巨大ラッコ……。




 「マスター。おそらくはこのラッコだけの特殊な性質かと推測されます!」


 「いや。だよね? そらそうだよね! ラッコが酒飲むなんて聞いたことないよ!」


 「うん! ヒルコもお酒飲むよー!?」


 「ああ。そうだね。ヒルコも飲めるんだね……。粘菌だけど。」


 「我も飲みますぞ? ご主人様!」


 コタンコロまで参加してきた……。




 「イシカも飲めるぞ?」


 「ホノリも飲めるのだ!?」


 ああ。イシカもホノリも機械生命体だったよね……。そういえば……忘れてたな……。アンドロイドってお酒飲むんだね。




 すると、その時、オレのまわりが暗くなった。


 何ごとかと振り返った途端に……。




 べろぉーーーり!!


 巨大なラッコの舌がオレをなめたのだ!


 「キュキュキュキュキューーッ!!」


 「うわぁ!!」


 ベロッベロになめられてるが、不思議と汚い感じはしない。どうやらすごく唾液がみずみずしいみたいだ。


 しかも、この感じ……。なんだか、オレになついてるみたい。




 「ジン様のこと、ロプノールも気に入ったみたいです!」


 ジュニアくんがそう言った。


 「この子がこんなにすぐ懐くのは珍しいですわ。」


 モルジアナもそう言ってびっくりしていた。


 「いや。さすがはジン様でございやす!」


 ジロキチはなぜか自慢げだった。




 「ロプノール! ジンだ。よろしくな!」


 「キュキュキュキュゥ!!」


 ロプノールも返事をしてくれた。


 なかなか知性もあるようだな。




 「では! 出発・・・進行ぉ!!!」


 ジュニアくんがそう言うと、巨大砂ラッコ『ロプノール』がその体勢のまま、まるで砂を泳ぐかのように、すいすいと進みだした。


 もちろん、そのお腹の上に『楼蘭』の町ごと乗せて……だ。




 大海を泳ぐラッコ……ならぬ、砂漠を泳ぐラッコだな。


 白い砂が海のように波打ち、太陽の光に輝く砂が飛沫を上げて、その砂の海をラッコがすいすいと泳いでいく。


 そして、風が適度にそよぎ、なんとも心地良い。




 移動の途中で、砂漠クジラが砂潮を吹くのを見かけた。


 なんとも雄大な砂漠クジラはその全長は半ラケシスマイル(約800m)もあるのだというから驚きだ。


 さらに、あのサンドワーム(こちらは5、6ドラゴンフィート、つまり全長2、30mってところか。)の群れにも出くわしたが、

砂ラッコは全長約7、80ドラゴンフィート(約3~400m)あるためか、全く近寄っては来なかった。


 逆にロプノールはサンドワームを数匹、捕らえ、むしゃむしゃと食べてしまった。






 だが、そんなほぼ無敵の砂ラッコ、ロプノールがそいつだけは避けて大回りして進んだのが、砂漠の地獄とも呼ばれるサンド・ヘル・スパイダーだ。


 大きさは、2,30ドラゴンフィート(100~150m)くらいで、ロプノールよりも小型だったのだが、そいつは凶悪なスキル『砂地獄』を使うという。


 周りの砂を自身の魔力で操り、蜘蛛が蜘蛛の巣にかかった獲物を狩るように、自ら獲物を狩る凶暴なハンターなのだ。


 こいつには、ロプノールも手を焼くのか、意図的に大回りをして、避けたのだったー。




 そんないろいろな砂漠のモンスターを改めて知ることとなった貴重な旅だったが、日が暮れる前に、『霧越楼閣』のある地域・ダークネステントにたどり着くことができた。


 ロプノールさまさまである。


 ロプノールはこれでまたしばらく眠りにつくらしいが、その前にココヤシ酒をふんだんに飲み、移動の際に食べたサンドワームに加え、月氏から与えられたスナイモの山盛りで栄養補給もたっぷりだということみたいだ。




 そして、また夜になって、『楼蘭』の町は、砂漠の月の光に照らされ、何ごともなかったかのように、その白い家々の町並みが輝いて見えるのであったー。


 その日の夜は、なんだか『楼蘭』移動の完了を祝し、『ハッピーオールドマン』なるお祭りが催されたのだが、ま、意味はおそらく寿老人で……。


 また、その内容も、大黒天の『ビッグブラックヘヴン』や、弁才天の『スピーチタレントヘヴン』と何ら変わることなく、キャンプファイヤーだったので、


 あらためて、紹介することもないと思う……。



~続く~



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