第48話 幕間1 『それぞれの思い』
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この世界で冷凍睡眠から目覚めてから早や8日―。
まだ8日というべきだろうか。
この間に目まぐるしくいろいろなことがあったため、オレは落ち着いて考えることがなかったが、この世界は実に不思議な世界だ。
以前のオレの生まれ育った世界の常識や、法則までも変わってしまったらしい。
いろいろな神話や伝説のものと思っていたものが実在し、今のこの世界を構成している。
特に、注視すべきものはやはり、『種族』と『魔法』であろう。
人類が生き残ってくれていたのは本当に嬉しいことだが、どうやらオレの知っていた人類とは少し違っているようだ。
みな『魔核』という器官を持っていて、魔力を使ったり感じたりすることができるようだ。
まだ、この魔力のもととなる元素か原子か、はたまた素粒子かはわからないが、要素はアイの超科学でも検知することが難しいらしい。
異なる次元の『ダークマター』のようなものなのかもしれないと、アイが推測をしている。
何十にも次元的に折りたたまれた一点に収束する超紐のような粒子・・・。伸ばせば多次元の法則を実現することが可能とかうんぬん・・・。
オレの頭ではちんぷんかんぷんなので、解析を引き続きアイには任せて放置に限る。
いずれにしても、オレはこの世界でたったひとり目覚めた旧世界の人間ということらしい。
この世界で何を為すべきなのか―。
これがオレの読んでいた『異世界転生でむにゃむにゃ』といったような物語や『ドラ焼き食べてクエストするぜ』のようなゲームの世界なら、魔王が出てきて世界を滅ぼそうとすることから勇者として世界を救ったり、ケモミミ娘ともふもふしたりってところなんだけど・・・。
現実はそう甘い世界ではなく、相変わらず世界は国家に分かれ戦争を繰り返しているようだ。
『赤の盗賊団』も強盗行為や殺人行為については、決して許されない『悪』の行為ではあるのだが、その生い立ちや彼らレッドキャップ種族の境遇には同情の余地があった。
あくまでも、オレの価値観や倫理観に当てはめてのことではあるが。
だが、オレは、絶対に決して平和とは言えなかったが、漫画やアニメ、ゲームがあったあの世界が好きだったんだ。
絶対にあの文化・文芸を復興させたい。
そのためには、この世界にはまず本がほとんどない。
それに通信技術がない。
あと、各国家の情勢もまったくわからないが、スポーツや武道などもなさそうだ。
ギャンブルは何かしらあるようだが―。
そういう土壌がなければ、当然、クリエイターやアーティストも生まれないのは必然なんだよな。
オレに何ができるかはわからないし、どこまでやり通せるのかもわからない。
だけど、やりたいことは見つかった。
とりあえず、オレの自宅の部屋に保存してある旧世界のあの素晴らしき作品たちを、この世界に解き放ち、誰かと語り合いたい。
そして、願わくば、新しい作家さんや、アーティストがどんどん現れる世界になってほしい。
オレは心の底からそう願わずにいられないのだった。
だって、そうだろう? 漫画の続きを読みたい・・・。
それは本能だと思うー。
オレは隣でぐーぐーと平和そうに寝ているヒルコやコタンコロ、イシカ、ホノリ、アイを見て、そんなことを考えながら眠りについたのだった―。
あ、アイとイシカ、ホノリが寝ているのかどうかはわからないんだけどな。
◇◇◇◇
『ミトラ砦』・・・があった場所―。
周囲の森林も何もかもが、百キロ四方にわたって何もなくなり、半球状にえぐり取られている。
そのさらに北の森の中、二人の影があった。
赤いマントの男と幼女である。
赤マントは幼女の手をつなぎ、一心不乱に北へ向かっていた。
「おじちゃん。どこに行くの?」
「ああ。黄金都市エルドラドを目指しているんだよ。」
「そこはどんなところなの?」
赤い靴を履いた幼女が尋ねる。
「そこに行けばどんな夢も叶うと言うよ。」
「そうなんだ! なら、おっとぅやお姉ちゃんも来るかなぁ?」
「ああ。誰もみな行きたがるからね。」
「じゃあ、絶対来るね。」
「そうだね。あまりに遠いけどね。」
あの時―。
レッド・マントは娘の命は消せなかった。
むしろ、守りたいと思ったのだ。
自身の身は、闇の吸血鬼へと堕ちてしまったが、この娘シューニャだけは守りたいと思ってしまったのだ。
この湧き上がる衝動は果たして何なのだろうか。
レッド・マントは初めて抱くこの感情にとまどいさえ覚えていた。
サタン・クロースはおそらく死んでしまっただろう。
そして、おそらくズッキーニャも・・・。
あの大規模爆発は、おそらくレッド・キャップの英雄、グランタリー城のラッキー・レッド・キャップが過去の『エルフカイマキア(森水争乱)』の際、使用したとされる『魔王』の爆発によるものだろう。
サタン・クロースも英雄級だったということだ。
レッド・マントはサタンとの喧嘩の日々を思い出す。
サタンは赤マントより強い。
あえて、赤マントの狂気に対峙するため、互角の戦いを毎日付き合ってくれていたのだ。
高潔なる者よ。たとえ、世界中がサタン・クロースを断罪したとしても、レッド・マントには大恩ある英雄なのだ。
そして、その娘たちには赤マント自身も親のような感情が芽生えていたのだった。
道を急ぎながら、夜な夜な周囲の魔獣を倒しては、その血をすする赤マント。
だが、決してシューニャの血を吸うことはしなかった。
「この先は、私が・・・。この娘を守る盾となろう。サタン様。あなたへの恩返しだけではない。私の生きるすべてがこの娘のためにある。」
レッド・マントはひとりそう呟くのだった。
◇◇◇◇
どこかの暗い闇の中―。
「目覚めたか・・・我が兄弟よ。」
暗闇の中、そのものは空虚にたたずんでいた。
存在さえかすむほどのその存在。
『空の空』、『虚無の虚無』、まさにすべてを包み込む虚無そのものであった。
少し微笑んだ人物の顔が剞まれた仮面を取り出し、それを装着する。
そして、やおら立ち上がり、ゆらゆらと動き出す。
「なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい。」
その者はそうつぶやき、この暗闇から出ていった―。
~続く~
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