第38話 赤の盗賊団 『アンデッド・カシム』


 ミトラ砦の中は、中央に上の階がある3階建て・二重に壁がある構造で、オレたちが入ってきた南門の反対の北の奥にも門があり、そこまで通路が壁沿いにぐるりと囲んでいた。


 西側と東側に中に入る扉があり、その中をさらに周囲に沿って通路がある。


 そこでまた北側と南側に階段があり2階へと通じていた。




 階段までの道のりの間に、敵は出てこなかった。


 2階は渦状の作りになっていて、一本道になっている。


 攻め側として先を迷うことはないが、その代わりに守り側にも待ち伏せしやすく有利だ。




 「ここから先でおそらく敵は待ち構えているに違いない。慎重に進むぞ。」


 「待って! 私の偵察魔法『うさぎ』を使うわ。」


 ここまでまったくいいところがなかったベッキーがそう進言してきた。




 『うさぎ、うさぎ、なに見てはねる、十五夜お月さま、見てはねる!』


 ベッキーの前にかわいいウサギが出現した。


 「前に進みなさい!」


 ベッキーがウサギに支持すると、ウサギがぴょこぴょこ前に跳ねながら進んでいく。




 「なるほど。罠があればあのウサギが先にかかるってことか。」


 ヘルシングさんがそう言い、前に進んでいく。


 「そうよ。それにウサギの目が見たものは私も見えるから、待ち伏せがあってもわかるわ。」


 「ただの役立たずじゃなかったんだな。」


 グラウコーピスがそう言ってやはり前に進む。




 「ちょっ!! ちょっと! 役立たずって誰のことよ!」


 ベッキーもそう言って、パックとともに進む。


 オレたちもそれに続く。


 (マスター。トンボ型ドローンが前に先行しています。ヤツラは今しがた3階から降りてきました・・・が何やら様子が変です。)


 (どういうふうに変なんだ?)




 (は! 狂犬病のような病を患っているような症状かと。よだれを垂らし唸り声を上げ、仲間に噛みつきこちらのほうへ向かってきています。)


 「狂犬病だって!?」


 オレは思わず声を出した。


 「どうした!? ジン殿!」


 ギルガメシュ兵長とアテナさんがこちらを振り返った。




 「どうやら、やつら何かの病気のような様子なんです。アイの感知魔法でそう見えたみたいです。」


 「どういう症状なんだ?」


 「よだれを垂らし唸り声を上げ、仲間に噛みつきこちらのほうへ向かってきていると。」


 「なんだと!? それは吸血鬼化ではないか!?」


 ヘルシングさんがそう言って、みなに確認する。




 「勢いを増して、こちらに向かってきているとのことです。迎え撃ちましょう。」


 「それがよさそうだな。こちらが待ち構えて戦うことが善だな。」


 エリクトニオスもそう賛成してきた。




 「来たわ! ヤツラが一丸となってこちらに向かってきてるわ!」


 ベッキーがそう言った瞬間、先に進んでいたベッキーの召喚したウサギが前の方で八つ裂きにされたのだった!


 ブシャッ・・・。




 道の先の曲がり角から、『赤の盗賊団』の集団・・・だった者たちが現れた。


 だった者たちと過去形なのは、彼らがみな吸血鬼かゾンビになってしまっていたからだ。


 見積もっていた敵の数を大きく上回って百名ほどはいるようだ。


 屍体を蘇らせたに違いない。


 そして、その先頭に、現れたのは・・・。


 「と・・・父さんっ!!」


 ジュニアくんがそう叫んだ。


"

"

 「ぶしゅるるるるぅ・・・。」


 なんとその人物は、カシムだった。そう砂漠でアーリ・ババくんを助けたその前に殺されてしまったというカシムJrくんの父の姿だった―。


 「父さん・・・。そんな姿になってしまって・・・。」


 ジュニアくんは震えている・・・。目には涙が浮かんでいた。


 「カシム様・・・。おいたわしや。・・・許せんでやすよ! テラーっ!!!」


 ジロキチが主人であったカシムの姿を見てそう叫んだのだった。


"

"

 「うるうるうるさいんだよよよっ!! 行けぃ!! アンデッド・カシムよぉよよ! 殺ぁるぇるぇれぃ! あのあのあの者らをぉおおお!!」


 その背後でそう叫んだのは、吸血鬼と化した仕立て屋テラー・テーラーの姿があった。


 カシムはいろいろな魔物をつぎはぎに縫い合わせたような巨漢の姿をしていて、どうやらテラーのやつに改造されたようだった。




 さらにレッド・マント、レッドキャップ種族の者、ヴァン・テウタテス、ヴァン・エスス、ヴァン・タラニスらが現れた。


 「血を!! 吸わせろーーーっ!!」


 サタン・クロースの姿が見えない。後方に控えているんだろうか。


 (お答えします。サタン・クロースは奥の部屋にいます。)


 (何してるんだ? 総力戦で打って出て来ると思ったんだけど。)


 (音声を盗聴いたしますか?)


 (と・・・盗聴か・・・。仕方がない。緊急時だ。音声を拾ってくれ。)




 オレの頭に直接、サタン・クロースと部屋にいるものの映像・音声が浮かぶ。



 ********



 サタン・クロースがベッドに寝ている女の子二人に話しかけている。


 どうやら、サタン・クロースの娘のようだ。




 赤い帽子と赤い靴を履いた少女と、赤い頭巾をかぶった少女だ。


 「ズッキーニャ。シューニャ。よぉく聞くんだぞ。悪りぃ奴らがこの砦にやってきだんだ。」


 「まあ。なんてこわいんでしょう! おっとぅ。大丈夫なのか?」


 レッド・シューニャがそうサタン・クロースに問う。





 「ああ。これからおっとぅが悪りぃやつらを倒して来るから、おめぇたちはおとなしくここに隠れているんだぞ。」


 「ああ。おっとぅ。おらたちはここに隠れているよ。」


 レッド・ズッキーニャがそう答えた。


 「おっとうが帰ってこなけりゃ、ここの扉は絶対開けてはなんねぇぞ?」


 「うんうん。わかったよ。おっとぅ。絶対開けないよ。」


 「ね。シューニャ。」


 「うん。ズッキーニャ。」




 「いい子にしてたら、プレゼントをあげるからな?」


 「わーい。いい子にするぅ!」


 「やった!いい子にするよ。おっとぅ大好き!」


 二人の娘は嬉しそうだ。




 ふと、ズッキ―ニャがサタン・クロースに尋ねる。


 「おっとぅ。どうしてそんなにどうして耳が大きいの?」


 「ん・・・? ああ。おまえたちの声ををよぉーっく聴くためだよ。」


 「お目々が赤いね、それにどうしてそんなにお目々が大きいの?」


 「ん? ああ。これはおまえたちを最後に・・・よぉっく見るためだぁ。」




 ズッキーニャが最後に聞く。


 「どうして今日はそんなに口が大きいの?」


 サタン・クロースがそれを聞き、自らの口に生えた牙をちらつかせ、にんまりと微笑んだ―。



 ********






 オレはサタン・クロースと娘のやりとりを見ていたが、どうも目の前で戦闘が始まったので、目の前に意識を切り替えた。


 サタンのやつにも事情・・・っていうのがあるようだ。


 だが、今はそれにかまっている状況じゃない。


 目の前に、狂気に吹っ切れたレッド・キャップ種族の最後の抵抗が行われていたからだ。


 しかも、よりによってジュニアくんのお父さんを死んだ後もこんなふうに利用するだなんて・・・。




 「許せない!!! ジュニアくん! 悪いけど、お父さんは助けられない・・・だけど火葬にしてもいいかい?」


 「ジン様! 父を・・・一刻も早く楽にしてあげてください・・・。お願いします・・・。」


 ジュニアくんは震えながら、涙をこらえ歯を食いしばりながらそう答えた。


 「わかった! 君はもう立派な大人だよ!」


 オレはそう叫び、周囲の超ナノテクマシンたちにイメージを伝える。


 今にも襲いかかってくる吸血鬼とゾンビたち!!


 ギルガメシュ兵長以下オレたちみんながそれを迎え撃つべく構えをとっていた・・・その時―。




 「火炎放射だーーーっ!!」


 周囲の超ナノテクマシンの工場が一気に熱エネルギーを生産し、その膨大なエネルギーを前方の通路に向かって放射する!




 辺りの空気の中がなにか、キラキラ光ったかと思うと、本当にアニメに出て来たようなものすごい火炎が発生し敵に襲いかかったのだ。



 ジュワッゴオォォオオオオオオオオオ!!!!



 目の前にいたやつらが一瞬で燃やし尽くされた!



 ガラガラガラ・・・。



 周囲の壁も黒焦げになり、崩れてきていた―。




~続く~

©「うさぎ」(曲/わらべ歌 詞/わらべ歌)




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