第39話 赤の盗賊団 『裏切り者の末路』
みなの視線が・・・痛い。
だが、これは最善策だと思う。
ゾンビだか吸血鬼だかは知らないが、とにかく倒しても倒しても立ち上がってくるし、燃やして火葬にするしかないと思ったんだ。
だけど、ちょっと威力がありすぎたようだ。
今度から調節できるように、イメージしよう・・・。
「ぬわぬわ・・・ぬわにぃいいい!? くくっ・・・。カシムのヤツを盾にしなかったるぅわっ!
あたしゃ・・・殺られ殺られ・・・あ! てたんじゃないぬぉぬぉ!!!」
どうやら、テラーはカシムの身体を盾にして生き延びたようだ。
「マジですか!? こんなこんな・・・。吸血鬼の我らは、死なないのだ!」
「そうだそうだ!」
「以下同文!」
灰になっていたところから、コウモリが3匹、羽ばたいて飛び上がってきた。
「あれはヴァン・テウタテスにエスス、タラニスだな! やはり、吸血鬼になっていたか!!」
ヘルシングさんがそう叫び、一瞬で間を詰めた。
「へ?」
シュアシュパシュパッ!!
ヘルシングさんの目にも留まらぬ剣が何十も切り刻む!
「聖ビンセントおよびグレナディーン・ショトウ!!」
ヘルシングさんが剣を収めた。
「ぐっぎゃーーーーぁあああぁ!!」
ヤツラの叫びの和音が鳴り響いた。
「吸血鬼を滅するには、これだ!」
そして、ユグドラシルの木の杭を取り出したヘルシングさんは、地面に落ちたコウモリ3匹の胴体部分の胸のあたりに、杭を打ち付けた。
「あっ!あっ! あっふーーぅーーーんっ!!」
「いやははははぁーーーぁああーーーんっ!!」
二人の・・・いや、二匹の断末魔が響き渡った。なぜか、ちょっと嬉しそうにも聞こえてしまうが・・・。
「こいつで・・・、最後だ!」
「ぷっぎゃぁーーぁあああーはーはぁーーんっ!!」
三匹の吸血鬼たちが黒い炭になって散っていった―。
ヘルシングさんがテウタテスたちにトドメを指している時、テラーのやつはこっそり逃げ出そうとしていた。
が、テラーは急に身動きができなくなり固まってしまった。
(マスター。テラーのやつを捕獲いたしました。いかがいたしますか?)
(おお! アイ! でかした! さすがデキル女だな!)
(いえ。とんでもありません。ワタクシはまだまだ魂を理解できていないようです。マスターに過分に頼ってばかりでございます。)
(アイ・・・。まあ、いいよ。それより・・・。テラーのヤツのトドメはジュニアくんがするべきだ。)
(承りました。)
「うわ! ぬぁにぬぁにぃ?? 動け・・・ぬわい!」
テラーは身動きができなくなっていた。
吸血鬼と化したテラーは、もう火傷が回復しつつあった。
「ジュニアくん・・・。これを。」
ヘルシングさんがユグドラシルの木の杭をジュニアくんに渡してくれた。
「あ・・・ありがとうございまチュ・・・。」
そして、テラーのほうへ向き直った。
「テラー。おまえは・・・。父の好意を踏みにじった・・・。そして・・・。あまつさえ、父の命も奪った!」
「ぼぼぼぼぼっちゃんんんーーーっ!! おゆおゆおゆるぅしぃをーーーっ。そぉれいうわっ! しかしかしかたなかっとぅわのでぇすう!!」
「どう仕方がなかったんだ?」
「いえいえ。サタン・クロースのやぁつぅぬいいい!! だまされたんでぇす!!」
「ほお。それで、喜んで父を裏切ったと言うんだな・・・?」
ジュニアくんが木の杭を構える・・・。
「いやいや! ぼ・ぼぼ・・・ぼっちゃわーーん。怖い怖い怖い目ぇを・・・しぬわいで・・・くださいいい!!」
「おまえには・・・もうかける言葉はない・・・。」
「はわはわはわ!! まさくわまさくわまさくわっ!! あたしゃを! ころころ・・・殺す?」
ジュニアくんが殺意をもった目でテラーを睨みつけた。
「父のカタキ!!」
ユグドラシルの木の杭がテラーの胸に刺さった!
「ぐふぐふぐふううぅ・・・! ぬ・・・ぬわんだ・・・!? ちょちょちょちょちょっとしか・・・刺さって・・・ぬわい!!」
木の杭はその先端部分が少し刺さった程度で、テラーは首をぶんぶん動かしながら、叫んだ。
「うはうはうはははわわ! ガキがっ! おまおまおぅまぁえええのチカラじゅわっ!! あたしゃを殺すなんてむぅーりいいぬわんだよよっ!!」
そして、テラーはめきめきチカラを込め出し、超ナノテクマシンの捕縛から抜け出そうとしている!
「坊っちゃん! がんばるでやす!」
ジロキチも応援している。
(なんとか・・・少し手助けしよう!)
オレはそうアイに思念通信を送る。
(イエス!マスター! では見えない手で押し込みましょう!)
「うあああーーっ!! 父さん! 僕にチカラをお貸しくださいっ!」
ジュニアくんがそう言って、さらにチカラを込めて、ユグドラシルの木の杭を突き出す・・・その瞬間!
(行っけぇーー!! 巨人の見えざる手! メガトン・パーーーンチ!!)
周囲の超ナノテクマシンが見えない巨大な拳となって、ハンマーのようにユグドラシルの木の杭を打ち付けた!
コォオオオオオオオォオオーーーーーッン!!
すごく小気味いい木の音が響き渡り、ユグドラシルの木の杭が、テラーの胸に突き刺さり、背中から打ち抜かれ、背後の壁に突き刺さった!
テラーの胸の真ん中に大きな穴が空いた。
「ぬぅわあああんだっとぅえええええっ!?」
テラーがさきほどまで暴れていたが、胸の穴を見て目を白黒させて・・・目を白黒させたかと思うと・・・。
血が一気に噴水のように吹き出した!
ブシャシャシャシャシャワワワーーーーッ!!
「ぐぶ・・・ぶぶ・・・あたしゃ・・・びんぼうが、きらいぬわんだよよよっ! まだまだまだ死にたくわ・・・たくわ・・・ぬわいっ!!」
その最後の瞬間―。
両目を、カッ・・・と見開き、口からも血を吐き、息絶えたテラー。
すると、その肉体が、黒い炭のように燃え尽きていく・・・。
パサパサとその灰が散っていく・・・。
ジュニアくんがその場にへたり込み、涙を流す。
「今・・・。父さんが、チカラを貸してくれた気がします。最後、ぐぐっと後ろから押されたのがわかりました。」
「そ・・・そうだね。きっと、お父さんがジュニアくんを見守っているんだよ。天国からね。」
「え? テンゴ・・・ク? ああ。ソウルランドのことでしょうか? 魂の行き着く先、ソウルランド・・・。そこからまた魂は生まれ変わると言います。
きっと・・・、父さんも、やっと心置きなく、旅立てたんでしょう・・・。うっ・・・うっ・・・うううぅ。うわあああああんっ!!」
ジュニアくんは堰を切ったように泣き出した。大声で。160歳とは言え、月氏の種族ではまだオトナの仲間入りしたばかり。
父親を亡くして、今までずっと我慢してきたんだろう。
オレも父・葦亜・麗斗(れいと)のことを思い出した。
オレの興味があるものはなんでも買ってくれたなぁ。
「いいかい? 仁。興味があることならとことん考えるんだ。それこそが自分を前に進める原動力になるんだ。」
「うん。父さん。じゃあ、あの、人気RPGゲーム『クトゥルフ・クエスト』買ってもいい?」
「ああ。もちろんだよ。そして、そのゲームに登場するキャラクターのこととか何でも自分で調べるんだぞ?」
「うん。もちろん。じゃあ、漫画の『クトゥルフ神話物語』の本も買っていい?」
「ああ。もちろんだよ・・・。」
(・・・マ・・・。・・・スター・・・。マスターッ!!)
(おおっ!! あ、ごめん。ちょっと物思いにふけっていたようだ。)
(いいえ。マスター。ジュニアくんに声をかけてあげてください。)
(ああ。わかった。)
「ジュニアくん。まずはこの裏切り者を・・・討てたな。よくやったよ。立派だったぞ。」
「ええ。ええ。坊っちゃん。カシムのだんなもきっと喜んでやすよ。」
「はい。ジン様。ご尽力、本当に感謝します。それにジロキチもありがとう。」
いよいよ、後はサタン・クロースのヤツだけか・・・。
「ジン殿! サタン・クロースの姿が見えません。奥へ急ぎましょう!」
アテナさんもそう進言してきた。
「ああ。行こうか!」
~続く~
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