第14話 赤の盗賊団 『ギルド長アマイモン』
「今の話を聞いたところ……ジンさんパーティーがあの砂漠の魔獣サンドワームを倒したということだな?」
「ああ。偶然、助けを呼ぶ声が聞こえたものでな……。オレの仲間があの巨大ミミズは熱線で消滅させておいたぞ。」
「では、サンドワームの死体は残ってないのだな?」
「そうだな。あのミミズは黒焦げになったからな。丸焦げに焼き過ぎたから食べる部位は残ってなかったぞ?」
「いや、それはいい。この街にサンドワームの脅威が迫っているなら、対処しないといけないからな……。」
「なるほど。そっちの心配か。」
「そういう意味ではお礼を言っておかねばならないな。感謝する。」
「いや、まあ、なんにせよアーリくんを助けられてよかったよ。」
オレ達は都市長『シバの女王』、ニカウレー・シバ女王に謁見したいという旨をアマイモンにお願いしてみた。
「シバの女王様に謁見を申し込みたいのだが、取り計らってくれないか?」
「もちろんだ。すぐに謁見の申請をしておく。許可が下りたらすぐに連絡しよう。それで、ジンさんたちは、どこに居を構えるつもりだ?」
「そうだな。まだこの街に来て間もないんだ。右も左も分からない。どこかおすすめがあるかな?」
「なるほど。それなら『湖畔亭』という冒険者御用達の宿屋がある。値段も手頃で、飯は朝と夜の2食付きだ。けっこう美味いと評判だ。
長期滞在予定なら、屋敷を借りるということもありだな。まあ、それもこれも『赤の盗賊団』次第というわけだがな……。」
「参考になる。では、その『湖畔亭』にまずはお世話になるとしよう。連絡はそこに頼む。」
「ああ、それとシバの女王との会見が終わったら、またここに顔を出してくれ。頼みたいことがある。」
「わかった。じゃあ、またその時は寄らせてもらうよ。」
「OKだ。情報を感謝する。このところ、『赤の盗賊団』の被害報告がかなり上がってきている。早急に大規模討伐依頼を出さなきゃいけないかもしれない……。」
「そうだな。ぜひ対策してくれ。だが討伐依頼を出すなら、オレ達も参加させてくれ。ジュニアくんのカタキ討ちがある。」
「そうだな。まずは情報整理して、ヤツラのアジトを突き止めなくてはいけない。その時は逆にこちらからお願いしたい。」
「わかった。じゃ、ジュニアくん、ジロキチ、アイ、ヒルコ。行こうか?」
「はい。かしこまりました。」
オレは去り際にふと気になったので、アマイモンに尋ねてみた。
「ところで、ギルド長。オレ達の話をなぜ信用したんだ? サンドワームを倒したとか証拠がないのに、あっさり話が進むからちょっと気になったんだけど?」
「ふふふ。それはな……。サンドワームの黒焦げの死体をこの街に持ち込まれたという情報を事前に掴んでいたからだ。
これは、ギルドだけが掴んでいる情報でまだ街には知られていないのだよ……。」
「あ! なるほどね。そういうことだったのか。納得した。」
アイがここでちょっと顔をしかめた。なにか気になることがあったのか?
(回答します。何かエネルギーの波動が向けられたことを感知致しました。おそらく、なにかの『魔法』と推測致します。)
(危険なのか?)
(それはわかりかねます。ですが、敵対するような心理の動きは……感じ取れません。魔導書『イステの歌』のデータから推定されるのはおそらくは『監視魔法』の類でしょう。)
(わかった。じゃあ、様子見だな。)
(はい。かしこまりました。)
「じゃ、オレたちはこれで。」
そう言って、冒険者ギルド長アマイモンの部屋を出た。
「よかったですね。アマイモン様がこれほど友好的にお話を通されるのは、あなた方に魅力があると判断されたからなんですよ?」
フルーレティ女史がそう言ってきた。
「そ……そうなんですね。これはジン様のおかげですね。」
ジュニアくんもそう言ってオレのほうを見てきた。
「まぁ、ラッキーだったね。それにしても、『赤の盗賊団』、かなりヤバい連中のようだね。」
「そうですねぇ。この直近では、カシム様以外にも『ヴァン国』の商人であるヴァン・テウタテス様が、『東方の都市キトル』への交易路の途中で襲われたと報告がありました。
護衛についていた冒険者……『馬国』のウマヅラハギがその際、犠牲になりました。」
「そうかぁ……。『ヴァン国』の商人に、『馬国』の冒険者……か。東方の都市キトルはここから近いの?」
「ええ。キトルはこの円柱都市イラムから東へ380ラケシスマイル(約600km)行ったところにあるこのバビロン地域の中心都市です。ラクダバで半日ほどで着きます。」
「そっか……そんな近くの街との間で襲われたとなると、『赤の盗賊団』のアジトもこのイラムからそう遠く離れていないのかもしれないな。」
「たしかに! その考えはそうかもしれませんね。後でアマイモン様に報告しておきます。ジン様は鋭いお方ですね。」
「いや……たまたまだよ。」
「ふふふ。サンドワームを倒されるほどの方が、ご謙遜を。」
「サンドワームってそんなに強いものなの?」
「ええ。砂漠の魔獣サンドワームに襲われて行方不明の冒険者や商人、旅人はかなりの数に上りますよ。」
「そうなのかー。まあ、たまたまラッキーだったのかもしれないな。」
「ふふふ。あくまでも、たまたまだとおっしゃりたいようですのね。そういうことにしておきますわ。」
そして、オレはフルーレティさんから、『湖畔亭』までの地図をもらった。
ジュニアくんが名残惜しそうにフルーレティさんのほうを見ていたけど、ジロキチが諌めフルーレティさんに別れを告げ、『湖畔亭』へ向かった。
街の真ん中の円柱からまた別の方角へ伸びている大通りを四半刻(30分)ほど歩くと『湖畔亭』に着いた。
それにしても『湖畔亭』か。覗き趣味のヤツなんていないだろうな……。
「いらっしゃい! そちらは月氏の坊やに……そちらさんは人間種だね。」
宿屋『湖畔亭』に入った瞬間に声をかけられた。
「ああ。こっちはカシムジュニア。オレはジンだ。あと後ろの連れがアイにヒルコにジロキチだ。全部で5人だが何泊かしたいので宿をとりたい。部屋は空いてるかい?」
「ええ。もちろん。アマイモン・ギルド長から連絡を受けているわ。凄腕……なんですってねぇ……。
私はこの宿屋『湖畔亭』の女将、ラク・シンプ(絡・新婦)です。ラクと呼んで頂戴。ジン様、カシム様。お連れの方々も、歓迎しますわ。」
そう答えたのはとても美しい女性だった。見た目は人間種そのものだが……。
「へぇ。オレ達が来るより早く連絡を受けていただなんて……。それも『魔法』かな?」
「ご名答です。『鳩ぽっぽ』という魔法でございます。」
「あ、それって、もしかして、鳥を使った伝令呪文とか?」
「ええ。魔法専門職が使う伝令のための鳥『鳩』を召喚する召喚魔法の一種です。『鳩』という下級呪文については一般にも知られてはいますが……。
『鳩ぽっぽ』をご存知とは……。『鳩ぽっぽ』はレベル3の呪文……。魔法もお詳しいのですね。」
「いや……まあ。なんかそんな気がしたんだよ。」
つーか『鳩』も『鳩ぽっぽ』もどっちもあるのかい!
(お答えします。『鳩』がレベル2の伝令呪文で、『鳩ぽっぽ』はレベル3の伝令呪文でございます。)
アイ先生の解説が入る。
なるほど。滝廉太郎の『鳩ぽっぽ』のほうが世間的に知られていないからなぁ。上級なのかな。
「1泊1部屋で銀貨2枚だよ。飯は朝と夜の2食付き。何部屋取るんだい?」
「そうだな。じゃあ、アイは別部屋にするか?」
「はぁ? いえ! ジン様と同室に決まっております! 」
一瞬、殺気を感じたぐらいだが、気のせいか……。
「いや、まあ、ほら? 女性と同じ部屋ってやっぱりさ……。」
「いいえ!ワタクシはいつもお側でございます!!」
「もっちろん!ヒルコも同じだよ!」
「じゃあ、まあ……2部屋でお願いします……。」
「まあまあ……今夜は大変でございますわね。おーっほっほっほっ!」
なにかラク女将は勘違いをしているようだ。
とにかく、オレたちは部屋を2つ取ることができ、オレとアイ、ヒルコが同室。ジュニアくんとジロキチが同室となった。
ちなみに、通貨は白金貨・金貨・銀貨・銅貨・石貨があって、それぞれ10枚とか100枚で上の硬貨と交換できる。
1白金貨=10金貨、1金貨=10銀貨、1銀貨=100銅貨、1銅貨=100石貨というわけだ。
100金貨(10白金貨)以上になってくると、それぞれの国や領主が発行するお墨付きの紙幣が流通しているようだ。
紙幣は1000万円以上というわけだ。領主や国のお墨付きがないと使わないだろうな。
だいたいの価値は日本円に換算すると、石貨が1円くらいだろう。つまり1部屋1泊2万円相当だな。
けっこうするなぁ。おすすめ宿って高いんだな。
(お答えします。冒険者ギルドへのキックバック料金が含まれているものと推測されます。)
な……なんだって!? あー、あのギルド長……そういう商売やってんのね……。
つーか、オレたち……お金持ってたっけ?
~続く~
©「鳩」(曲/文部省 詞/文部省)
©「鳩ぽっぽ」(作詞 東 くめ/作曲 瀧 廉太郎)
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