第7話 遭遇 『アーリ・ババと赤の盗賊団』
月氏(鼠人)の商人、アーリ・ババは焦っていた。黄金都市への交易からの帰路の途中、盗賊団に襲われ、交易品の全てを奪われた。
さらに、その際、この行商集団『アリノママ』の代表カシムと仲間が殺されてしまったのだ。
番頭として、カシムとともに交易をし、やっとここまで来た・・・。黄金都市と交易ルートを設けられたのだ。
カシム代表はこれからの人だった・・・いや、鼠だった。そして、それを全力で支えていくのが自分の務めと思っていたのだ。
カシムの交易品はあの盗賊団『赤の盗賊団』にすべて奪われた・・・だが、黄金都市への行商許可通行証だけは盗られずに守った。
これだけは失うわけには行かない。
アーリ・ババは自分が犠牲になってしまうのは怖くはなかったが、この通行証だけはカシムの息子、カシムJrに何としても届けなくてはいけないと考えていた。
しかし、追手が迫ってきていたのだ。『赤の盗賊団』の追手として放ってきた魔獣・サンドワームが迫ってきたのだ。
どうやら、アーリ・ババの存在を知っているものが『赤の盗賊団』の中にいるようだ。いや、こちらの行商隊員の中にスパイがいたというほうが正解か。
サンドワームは魔法で操られているらしい・・・。他の生物や、獲物に目もくれず、ひたすらアーリ・ババを追いかけてくる。
こちらも、一族の中でも最速のラクダバ(ラクダと馬の中間生物)に乗って必死で逃げる・・・逃げる・・・。
が、砂漠の真ん中で追いつかれた。やはり、最短距離を行くため、砂漠を通ったのは失敗だったか・・・。
サンドワームは砂の中をまるで、水を泳ぐかのように、猛スピードで追ってきた。
この付近は、砂漠の上空になぜか猛吹雪が吹雪いており、なにか空に楼閣が見えるという『砂上の楼閣伝説』がある土地で、『ダークネステント』と呼ばれる地域だった。
かつて8人の英雄たちが砂漠で吹雪に遭い、行方不明になり生きて帰ることはなかったという、町の長老・旧鼠(きゅうそ)に決して近寄ってはいけないと忠告されていた場所だった。
しかし、今はそんな余裕はまったくなかった。
「助けて・・・カシム様のためにも・・・なんとか生きて帰らなければ・・・。」
そう言った瞬間に、上空に影ができあたりが暗くなり、サンドワームの一撃がアーリ・ババを襲った。
「くくっ・・・風魔法『風』!!詠唱開始っ!!」
『かぜよかぜ、そもいづちよりいづちふく。くさのうえ、やぶのなか、おかをすぎ、たにをすぎ、しかもかよはぬ、おくやまこえて。かぜよかぜ、そもいづちよりいづちふく。
いけのうえ、もりのなか、むらをすぎ、さとをすぎ、とりもかよはぬ、あらうみこえて。!!』
アーリ・ババは風の呪文を唱えた。この呪文は風の魔力で空中に浮くことができる呪文だ。詠唱がながければ長いほど高く浮くことができる。
古代語で呪文は詠われており、現代ではまったく意味がわからない言葉であるが、正確に詠唱が必要であった。
間一髪、サンドワームの一撃をかわし、空中に逃げたアーリ・ババだったが、彼の魔力では、そこまで高く跳ぶことはできなかった。
アーリ・ババはかわせたが、ラクダバはサンドワームの一撃でやられてしまった。
もう、魔力が尽きるまで、このまま飛び続け、帰るしかなかったが、そこまでおそらくアーリ・ババの魔力は持たないだろう。
風魔法『風』はちょっと器用な一般民が使うことができるレベル2の魔法だった。
アーリ・ババは一般民にしては、魔力が多く、魔法に強いほうではあった。
が、さすがに、サンドワームを撃退するほどの魔法は身につけていない。
ふらふらと、サンドワームの攻撃をかわしながら、空中をさまよいながら、少しでも進むが、どうやら、それももう限界が近いようだった。
「ああ・・・誰か・・・スーパーヒーローが助けに来てくれないかー!!」
そんなご都合主義な展開が起こるはずがないことはわかってはいたが、つい嘆くように言葉を発したアーリ・ババだった。
すると、そこに、これまた、サンドワームと同じかそれより若干小さなくらいの真っ白な鳥が目の前に現れた。
鳥は、フクロウだった。
「え!?巨大フクロウ? ああ!! 僕はサンドワームじゃなく、フクロウに食べられちゃうのかっ!!」
そう叫んだアーリ・ババに対し、巨大フクロウの頭の上から、誰かが返事した。
「いや、いや、いやーーー。違うわっ! ネズミはさすがに食べないわ!!」
そう言ったのは、人間種のようだった。ああ、スーパーヒーロー族ではなかったか・・・ただの人間種にサンドワームを倒せる戦闘力や魔力があるはずない。
アーリ・ババは心のなかでそう思った。そして、目の前のその人間からはやはり、魔力のひとかけらも感じることができなかった。
「人間種の君に何ができる? 巻き込まれないように逃げたほうが身のためだぞ!このサンドワームは僕を追ってきているんだ!」
「とりあえず、この巨大ミミズ、なんとかしなきゃだな・・・アイ! どうするか?」
「はい、マスター。アラハバキにご命じください。・・・ヤツを倒せと。」
アーリ・ババは何を言っているんだというような顔をした。
「危ないぞ! サンドワームは人間の君に敵う相手じゃない。僕のことは放っといて逃げてくれ!」
そんな叫び声を上げた鼠人間をオレは無視して、こう言った。
「OK!! アラハバキーーー!! このミミズを倒しちゃえーー!」
「了解した!」
そう返事したのは、そこに一瞬で追いついてきた巨大土偶、アラハバキだった。
アラハバキが砂を爆裂に巻き上げ、オレ達がいた場所に急ブレーキで止まると、その両手を前にかざした。
するとその両腕が光りだした・・・。
「アラハバキ!波動ビーム砲撃ーーーーーっ!! 発射!!!」
そうアラハバキが言ったかと思うと、その両腕からレーザービーム砲が発射された。
ジュワ・・・。
その眩しさの前で、辺りが一瞬見えなくなるくらい輝き、一瞬にしてサンドワームを黒焦げにし、あっという間に蒸発させてしまった・・・。
「あれは、アラハバキの体内でタキオン素粒子発電したエネルギーを電磁波動に変え、発生したエネルギーを超高密度で発射するレーザービーム砲・波動ビーム砲です。」
「お・・・おぅ・・・やはり、波動ビーム砲なのね・・・。」
「はい。ご主人様の叡智の賜物です。あの「宇宙メイド戦艦トマト」を参考に開発させていただきました。」
ああ、あの宇宙でメイドが戦艦となって戦うというシュールな国民的アニメだな・・・。
目の前にふわふわ落ちてきたネズミ人間が、あまりの破壊力に驚いて声も出なくなってるようだ。
その顔はあわれなくらい、呆然としていた・・・。
「ば、ばかな・・・サンドワームが一瞬で・・・。しかも、あれ、何だ? 魔神の咆哮か? いや、ゴーレムか・・・。古代の生き残りのゴーレムか?」
アラハバキは、巨大化を解き、イシカとホノリが現れた。そして、合わせるようにコタンコロも鳥人間の姿になり、ヒルコはメイド姿になった。
オレたちは、ぶつぶつと何かつぶやいているネズミ人間のそばに寄っていき、しばらく正気に戻るまで、じーっと観察していた。
すると、一瞬、ネズミ人間はこちらを見て、何かに気づいたって感じのリアクションをし、慌てた様子で、オレ達に話しかけてきた。
「助けていただきありがとうございます。僕の名前はアーリ・ババと言います。見てのとおりの月氏種族です。本当にあなた方は命の恩人です!!」
目を丸くキラッキラに輝かせているネズミ人間・・・月氏種族というのか・・・は、その尻尾をぶんぶんに振っている。
ああ、なつかれたようだな・・・。うん、それくらいはわかる。それに、意外とネズミ人間と言っても見た目は可愛いな。ハムスターみたいだ。
言語が理解できる? あ、翻訳モードってこんなふうに耳から日本語で聞こえちゃうんだね・・・いや、科学の進歩、すっごいな。
「月氏種族っていうのか? えーと、オレはアシア・ジン、人間だ・・・って人間ってわかるかな?」
「ええ。もちろんです。人間種族ですよね。帝国や法国の種族ですね。アシア様も帝国か法国のご出身でしょうか?」
「いや、オレは違うよ。そう、ずっと家に引きこもっていたから、世間の事情に疎いんだ。あはは。」
「そうなんですね。あとの方たちは、アシア様の従者の方でしょうか?」
「うーん、従者っていうか、仲間だな。こっちの女性がアイで、こっちの女の子がヒルコ、で、こちらのフクロウがコタンコロ・・・。
で、この子達がさっきのロボットを操縦していたイシカとホノリだ。あと、オレのことはジンでいいよ。」
「ジン様・・・ですね。わかりました。あと、そのロボットって・・・ああ、さっきのものすごいゴーレムのことですね。
いや、ホントさっきのあのものすごい魔法にはびっくりしました。本当に、本当に・・・皆様、本当にありがとうございました。
お礼と言ってはなんですが、僕の町に来ていただければ、なんなりとお礼をさせていただきます。」
「いやー、そんな、お礼だなんて・・・、あ! じゃあ、この世界のこと、いろいろ聞かせてくれると嬉しいな。」
「承知しました。僕の知ってる限りのことをお伝えします。」
おお・・・やっぱ人助けはするもんだな・・・っていうか、鼠助けか・・・。
この世界のことをいろいろ知る機会を得たようだな。
それに、さっき見た『魔法』にオレは興味も持っていた。
たしかにこのアーリくんは、『風魔法』って言っていた。
魔法・・・うーーん、あれは科学ではないようだ・・・。ファンタジーな世界になってきたぞ、おい!
オレはワクワクしながら、目の前のアーリ・ババと名乗った月氏種族を見ていたのだった・・・。
~続く~
©風/文部省唱歌(昭和8年(1933年)新訂尋常小学唱歌 第六学年用)
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あっちゅまん
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