第5話 プロローグ 『自宅が魔境と化していました』


 それにしても、この家の中はいったいどうなっているんだ?


 外観と中の広さが合致しないくらい中が広い……。


 アイの説明では、空間収縮技術工法で、空間を折りたたんで中の空間を広げているとかなんとか、まったくオレの頭では理解できなかった。




 「僕が、ジン様をお連れして、『霧越楼閣』の中を案内します!」


 ヒルコがそう言って、嬉しそうに言ってきた。


 「そうね。マスターが眠っておられた期間に、この邸宅もずいぶん改築しました。マスター、ヒルコに案内してもらってください。慣れるまで大変でしょうから。」


 「うん、わかった。じゃぁ、ヒルコ! 頼めるかい?」




 「はい! もちろんです。」


 「我は、ではルーティンの農園管理をしてまいります。」


 コタンコロは農園の管理を普段はしているとのことだ。かなり広い空間のようなので、空を飛べるコタンコロが管理するのが利便性があってよいとのこと。




 「では、イシカも『霧越楼閣』の警備をするのであるぞ。」


 「ホノリも『霧越楼閣』の警備してやりますなのだ。」


 イシカ&ホノリはこの邸宅の警備担当ってわけか……。まあ、ほとんどはアイのセキュリティシステムが役割を果たすので必要ないらしいが……。




 「ワタクシはコントロール・ルームで周辺地域の調査を続行致します。何かあれば、思念通信でお知らせください。」


 「うん、わかった。じゃ、ヒルコ、行こうか?」


 「はい! 行きましょう。ジン様!」




 この『霧越楼閣』はもともと、オレの住んでいた葦亜家の自宅なので、外観からは3階建ての『コの字』型の屋敷になっていた。


 東京の郊外に建てられた家で、東京といえど土地は安かったのでずいぶん広い家だった。


 1階には、今いるこの広い空間が、玄関から入ってすぐのところにあり、昔は玄関ホールだったはずだが、今はその広さは数十倍にも感じられる。


 「ジン様、今いるこの広間は『幻想の広場』と呼んでいます。立体映像プラネタリウムの機能が備わっていますので、この広間全体に立体映像を映し出すことができます。」




 「ああ、それでよけいに広く感じるのか。」


 「そうですね。そして、ここはこの屋敷の1階部分で、あちらの扉の向こうには、廊下が続いていましたよね? 

その奥の『右翼の塔』の地下の『安置室』にジン様はお眠りになっていました。」


 「ああ、それは覚えている。オレが最初、目覚めたときだよね。」


 「はい。その廊下の両隣に、イシカとホノリの部屋があり、警備室も隣接しています。あと、キッチン、バスルーム、トイレなどもあります。」


 「ああ、そこは昔と変わらないんだね。」


 「はい、変わってないですね。」



 「右翼のほうは、今は案内は不要かと思いますので、あちらの扉から左翼側へ出ましょう。」


 「うん、そうだね。」


 そう言って、この部屋に最初に来たときと反対の扉から部屋の外へ出る。その先は同じく廊下がずっと続いていて、


 「こちらがわは、この廊下の端に『左翼の塔』があります。その途中の部屋は物置になってます。」




 「ふーん、まあ、昔もそうだったかな。2階はどうなってるの?」


 「はい、こちらのエレベーターで向かいましょう。」


 「おっけー。」




 エレベーターは音もなく上昇……したのかわからないくらいだったけど、上昇して扉が開いた。


 「2階でございます。ここの真ん中はコントロールルームがございます。」


 「ああ、アイが今はいるんだね。」


 「そうですね。他にも部屋がありますが、今は……空き部屋となっています。」




 「あ……親父とおふくろの部屋があったな、あとハマエの部屋も……。」


 「はい、その通りでございます。ハマエ様の部屋は、瑠太郎様もご一緒でした。」


 「あ、そうか! 二人って結婚したんだったね……。」


 「はい。」




 オレはまた二人のことや、両親のことを思い出してしまい、少し淋しくて泣きそうになった。


 「ここは降りなくていいや。オレの部屋にいこう。」


 「わかりました。ジン様……。」


 ヒルコはオレの気持ちを察したのだろう……、少し悲しそうな表情を浮かべた。




 エレベーターで3階に行き、扉が開いた。


 目の前に、婆さんと女の子のメイドが二人で立っていた。いや、婆さんの格好をしたロボットなのか?


 「ジンぼっちゃま。お待ちしておりました。ルン婆と言います。お見知りおきを。」


 「お……おぅ。ルン婆さん? まさか……!?」


 「はい、ご推察のとおり、当家にずっと仕えております、お掃除ロボでございます。」


 「やっぱり! こんな人型になったんだね!?」




 「はい、そして、私めの孫という設定のアカナ・メイドがこちらでございます。」


 「アカナ・メイドでございます。主に屋敷の拭き掃除を担当させていただいております。以後お見知りおきを。」


 「うん、よろしくね。」


 婆さんと孫……という設定のお掃除ロボの進化系か……。


 ルン婆はおそらく、あのお掃除ロボだろう。オレの家に昔からあったあの自動お掃除型ロボットだ。




 「他にもロボットは何台かいるよ? もともと家電として活躍していたロボット達だったから、アイ様が大切に思って、改造手術をしたんですよ。」


 ヒルコが嬉しそうに話してくれた。


 「お……おぅ。改造手術って……なんかの悪の組織みたいだな……。魔改造か……。」


 「エア・クリーナさんと、園庭ロボットのラピュ太郎、メンテナンス係のメンテ・ナースとか、後で出会ったら紹介するね?」


 「お……おぅ……。」




 「えー、こっちの奥にはコタンコロの農園があります。そして、この遊戯室、書斎、談話室を越えて、右翼側へ移動しますね。」


 そう案内され、右翼側へ行くと、廊下が長く続いており、その向こうに何やら仰々しい扉があった。


 「この向こうが『セラエノ図書館』、ジン様のお部屋です。」




 「うわぁ……。なんだか、すっごく厳重に管理されてる空気感だね……。」


 「はい。この部屋は、アイ様以外の者が入ることを許可されておりません。なので、僕は入れません……が、ジン様、お入りになりますか?」


 「うん、そうだね、ちょっと確認したいし……。」


 「アイ様! アイ様! ジン様が『セラエノ図書館』へお入りになりたいとおっしゃっています。」


 (了解いたしました。今、扉を開きます!)




 また、頭の中でアイの声がして、扉が開いた。


 「僕はここで待っています。どうぞ、お入りください。」


 「うん、わかった。じゃあ、行ってくるね。」


 そう言ってオレは自分の部屋に約5千年ぶりに……、いや、56億7千万年ぶりかもしれないけど、入ることになった。




 部屋の中は本当にオレの最後の記憶の中の部屋とまったく変わらなかった……。チリ1つ落ちていない……。


 この部屋の中はアイしか入室できないって言ってたけど、アイが掃除してメンテナンスしてくれているのだろうか?


 あ、オレの秘蔵のエッチなディスクも……、あるのかーーい!! ワロタ。


 これ、アイは見てるんだろうけど……どう思ったのか聞くのはこわいな……。


 うん、漫画コミックスが何千冊もあって、アニメのディスク、フィギュアも奥のガラスケースに飾ったままだ。




 なんにも変わってないな……。ここにいれば、さっきまでのことが嘘みたいだ……。


 だが、真ん中に座していた奇妙な円錐型の生物が、オレに向かってこう言ったので、この世界が現実なんだと思い知らされた。


 「ワタシはこの『セラエノ図書館』の管理人、『ラバン教授』であります。目は見えませぬが、ジン様ですね、おかえりなさいませ。

ワタシはずっとここを守ってまいりました。そしてこれからも守っていくことでしょう……。」


 ひえーーーーー! なんだこの生物、ああ、オレの飼ってたなにかの生物が進化したのか?







 「お……おぅ。ご苦労だな……。ありがとうな。」


 「いえ、もったいなき言葉……。ジン様には感謝しかないです。」


 「いや、あはは、ははは!」


 オレはこのふよふよしている半植物的な円錐体生物『ラバン教授』(かつて地上を支配していた『盲目のもの』がその復讐のため、長い年月の後に再び地上に現れ、逆襲し、円錐体生物を滅ぼしたが、ラバン教授はその生き残りらしい。)と、早々に別れを告げ、外に出た。




 「ヒルコ……。もう屋敷の案内はいいや、なにかちょっと落ち着きたい……。」


 「では、幻想の広場に戻りますか。」


 「うん、そうだな。」


 オレはいそいそとオレの部屋を後にして、広場に戻ったのだった……。


 自分の部屋にあんな奇妙な生物がいるとは……! びっくりだったな。


 ふー、なんだか、安心したら、お腹が空いてきたなぁ……。




~続く~



「続きが気になる!」


「面白かった!」


「まあ、読んでもいいけど!?」


と思ったら、


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何卒よろしくお願い致します!!



あっちゅまん


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