茶会

 ありが列を成し、草花を掻き分け進んでゆく。

それを横目に、きつねが一匹、地べたを黒の鼻で嗅ぐ。黄金こがねの体毛を逆立たせ、森の中へと姿を消した。

風が吹けば、木々の青や野原の緑が、うねりを見せる。

小さな円卓は、元からそこにあったかのように、何にも動じず、孤立する。

草原そうげんの真ん中に、茶会は開かれた。


 円卓を覆うクロースは、古色を帯び、べにも淡い。痛んだ箇所から、腐った焦げ茶が覗く。

ぽつんと置かれた二杯のティーカップだけが、茶会を飾り、狐色の紅茶は、いっぱいに注がれた。

白地しろぢと細かな藤の紋が、どこか懐かしいティーカップであった。


 きらめく湯煙ゆけむりと、整った角砂糖が、”はかなさ”を語り、消えていった。それも、ある時は霧のように、またある時は雪解けのように、形を失う。

”諸行無常”。

一見、”パンタ-レイ”とイコールで結ばれているようにも思えるが、地中では、異なった根が、支えを果たしている。

しかし、その様を見たものはいない。

皿の角砂糖へ、蟻が列を成している。


 男はその狂いようから、神々の手により囚われた。腰かけた椅子から、手を伸ばす。

「君とまた、話ができてうれしいよ」

音もなく、ティーカップを置いた。

「なんだか、懐かしい気分だ」

向かいの椅子に、マネキンが俯いている。

「わかるよ。見ていて、つらかっただろう。でも、きっと意味があったと思うんだ」

辺りを見回す。森が赤を帯びていた。

「――幕は閉ざされた。安心して」

斜陽しゃようが、茶会を陰に染める。

静寂――。

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